256話
「怖いからだよ。みんな」
先程まで兵士たちと仲良く酒を酌み交わしていたノーチェが言った。
そしてすぐさまこう付け加えた。
「それに相手が魔物だったらこんな事しないと俺っちは思うぜ」
魔物だったら?
その言葉に違和感を覚える。
誰であろうと、自身の生命を脅かす存在は怖いと思うんだが。
それこそ人であれ獣であれ、ビジュアルから受けるイメージは恐怖を駆り立てるものだと思う。
前世では明らかに筋ものの厳ついおじさんとか、めちゃくちゃヤンチャしてそうなお兄さんとかが駅にいたら、即十メートルは離れたね。
だって怖いもん。
自慢にもならないけどそういうのをいち早く見つけて危機回避する能力は高かったと思う。
怖いのは人だけじゃない。
犬だってでかいのは怖いし、野生動物だってイノシシやクマなんかも怖い。
つまり誰が相手であっても怖いものは怖い。
「相手が誰だろうと怖いものは怖いんじゃないのか?」
「魔物は人より怖くないよ。まぁモノによるけど......。ドラゴンとかの天災級は人より怖いかもしれない」
「なんだよそれ。結局はどっちも怖いじゃん......」
「いや、そうなんだけど、なんて言うかな……」
言葉に詰まるノーチェに、黙って聞いていたドリュウズが口を挟んだ。
「狡猾なんじゃ、人は。魔物より何倍もな」
「あーそうそう、そう言いたかったんだよ。人間相手だと何してくるかわからねーから怖いんだよな!」
なんでもありだからな!とノーチェは鼻息を荒くした。
「戦争では人は必ず死ぬ。敵も味方ものぅ。だが魔物退治は上手く行きゃあ一方的に狩れるんじゃ。それは奴らがあくまで獣だからと言うことでもあるがの」
「じゃあ人はそうじゃない、と?」
「そうじゃな。この先、必ず死人は出よう。だからこうして騒いでるんじゃ。今日もまた生きながらえた、とな」
「明日への糧、生きる糧ってことですか」
「まして相手は魔族だからの。皆生きて帰れるとは思っとらん。本来戦争とはそういうもんで、今回は旗色が少しばかり悪いと言えよう。生きて帰ることができればめっけもんってところだの。それをわかってるやつはその日その日を大切に生きるんじゃ。だからこそお主のいう通り明日への糧、活力を養う為に飲んで食って騒ぐ。一瞬一瞬を後悔しない様にな。その時が来た時後悔しないように。生き延びた喜びを噛み締める為にのぅ」
兵隊とはそういうもんじゃ。
冒険者と違って逃げられんからの。
そう締めるとドリュウズはジョッキを傾け、グビリと喉を鳴らすとカッカと笑った。
頬についた真新しい傷からは血が滲んでいる。
その下にはいくつもの古い傷跡も見る。
幾度も覚悟を決め戦い続けてきたであろう男の顔はカッコ良かった。
この場にいるみんな、誰一人にも死んでほしくない。
そう思った。
恐らくアキラも覚悟を決めてこの場に来ているのだろう。
遠目にその姿を見つめ、水を差すのをやめた。
いつの間にか各テーブルからは、おそらく戦歌であろう聞き慣れない歌が響き、兵士たちの大合唱が死の沼地ライメムトーに鳴り渡った。




