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255話

「なんじゃ小僧。しけた面をしとるのぉ」


人とテーブルの波をかき分け、アキラの元に向かおうとした矢先、聞き覚えのある声に呼び止められた。


ドリュウズ将軍である。


重厚な砂色の鎧を脱いだ彼の張りのある肉体は、齢60を超えていると言うのにも関わらず、凄まじいほどの膂力と歴戦の強者のオーラを感じられる。


見上げるほどの高身長。


そしてその身体に刻まれた無数の傷は新しいものから古いものまであり、彼が戦場を駆けてきたその期間の長さを物語っていた。


手に持ったジョッキをグイッと傾け酒を煽る。

既にその顔は赤く、ある程度出来上がっている感じだろうか。


そんな姿を見てつい口走ってしまった。




「いやぁ、こんな戦場のど真ん中で良くやるな、と」




しん……、と場が静まり返った。

場の空気が一気に重くなるのを感じる。

忙しく料理や酒を運んでいた給仕もその歩みを止めてこちらを見ていた。


冒険者たちは各自馬車で静かに休息をとっているのに対し、ティラガードや辺境伯たちのキャンプは一言で言えば豪勢だった。


一般的な冒険者の考え方としては、質素に、体力も物資も、出来るだけ消耗を少なくするのが遠征を成功させるコツだ。


こう言った野営で無駄な体力の消費を抑えるのは、事戦闘になった時致命的なミスを犯さない様にするための言わば予防策で、やりたい放題するのはよほど自分の力に自信がある冒険者か、単なる馬鹿か新人か、当てはまるのはそのくらいだろう。


彼らと冒険者の違いは考えの違いだろうか。

だからこそつい口から出てしまったのである。



「そうか! そう見えるか!」



ドリュウズはそんな俺の言葉を聞いて大声で笑った。


腹に底が唸る様な声で笑うと、釣られる様に周囲の兵士も笑った。


そして興味がなくなったかの様にまた騒ぎ始めた。


なにが面白いのかと首を捻る。

いったんは落ち着いたが、いまだ戦闘中と言わざるを得ない。


その様な状況下で、判断力の鈍る飲酒や馬鹿騒ぎは命取りになりかねないのだ。


いや、この結界に絶対的な自信があるのか?

それともここに集まった戦力に安心しているのか?

何か馬鹿にされている気分だ。



「そんなにこの戦いに勝つ自信があるんですか?」



少なからず負傷者はいる。

先程の戦闘でも死者が出ている。

死者を弔う訳でもなく、なんでこの人たちは楽しそうに酒を飲んで騒いでいるんだろう。




「小僧、お前戦争は初めてか?」




ドリュウズは俺の質問には答えず逆に質問をしてきた。


この世界に来て随分と立つ。

命のやり取りの経験は幾度もあるが、戦争に参加したことは一度もない。

もちろん前世でもない。

ごく普通のサラリーマンだったからな。

あるはずもないのだ。



「ない、です」



俺は端的に答えた。

すると、



「じゃあお前にはわからねぇだろうな」



と一言だけ言った。

なんだよそれ。


俺がむすくれた顔をしているといつの間にか隣にいたノーチェが俺の肩を叩いてこう言った。



「怖いんだよ。みんな」



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