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247話 ジャンピン

 


「何ボーッとしてんだよ。早く謝ってこいよ」


 ドリュウズと俺の間に割って入ったのは黒い牡牛の被り物をした男。

 その男が俺の背中をバシンと叩いた。

 力強いその衝撃によろけた俺は一歩踏み出した。



「ひッ……」



 一番前にいた冒険者が小さい悲鳴の後に後ずさる。

 何かしようとしたわけではないが、何かにすがるように右腕が上がってしまっていた。


 冒険者すら畏怖する傷だらけになった自身の腕。

 そんなにこの腕が怖いのだろうか……。

 ──いや、違うか。

 腕などではなく、俺自身が恐れられているのだ。



(俺は何の為にここに来たんだ……。そうじゃないだろ……)



「次は逃げるなよ!」



 後ろから野次にも似た声が飛んでくる。

 アイツの声だ。



(誰が逃げるかッ! 俺は俺自身にもう逃げないと誓ったんだ。こんな情けなくて、ダメな俺を慕ってくれたアイツらのためにも、アイツらの仇は俺がとる!)



 そう思えた途端、自然に身体が動いていた。



「すいませんでしたぁッ!!!!」

「「「「「!?」」」 (ひィッ!)」」


 ズゥン!



 謝罪の言葉と同時に地面に亀裂が入る。

 打ち付けた額は地面を割り、衝撃で周囲の崩れた建物は更に崩壊する。

 ズキンと痛む額からは一筋の血液が流れ、左目の視界を赤く染め上げた。


 またもや小さな悲鳴が漏れたのが聞こえたが、俺はただじっと、額を、そして両手両足を地面につけ反省の色を示した。


 いつぶりだろうか。

 本気で他人に謝罪したのは。

 日本にいる時は口を開けば謝っていた気がする。


 情けない話だが、俺はこの土下座だけは得意だ。

 取引先でポカした時も、間髪入れずに土下座する事で何とか丸く収めてきた。


 謝る時は全身全霊で。

 先輩が俺に教えてくれた謝罪の極意だ。


『お前さぁ、土下座までしろとは言ってねぇよ。ま、お前らしいけどな』


 カッカと先輩は笑った。

 先輩に苦言を呈されている俺を見て、ニヤリとお前が笑っているのを見た。


『おい、笑うんじゃねーよ。別宮……だっけか』


 それからだったよな。

 お前とつるむようになったのは。

 文句を言いながらもいやいや付き合ってくれるお前に、俺はいつの間にか甘えてしまうようになっていた。


 だけどそれと同時に、社内で疎まれながらもしっかりと結果を出すお前に嫉妬していたんだ。


 だから岩瀬を……。


 あの日もお前に仕事を押し付けて……、結果俺はここにいる。

 そして何の因果かお前もここにいる。


 ……こうなったらついでに謝っておくか。


「別宮もすまん! 岩瀬抱いた!」

「ハァ!?!?!?!?」


 土下座した状態のままカミングアウトした。

 背後に感じる魔力の動きで、別宮がワナワナしているのがわかる。



「おい、お前、い、いまなんて言った!?」



 聞き返してくる別宮を無視して、俺は立ち上がった。



「皆んな、すまねぇ。俺はどうかしていた。勇者としてあるまじき行為をしたと思っている。謝って済む問題じゃないと思う。お前らの中には、俺のことを死ねば良いと思っている奴もいるかもしれねぇ。だけど俺は今死ぬ訳にはいかねーんだ。目的はお前らと一緒だ。殺さなきゃいけねぇ奴がいる。その後だ、俺を煮るなり焼くなりするなら、その後にしてくれ! 俺が馬鹿で自分勝手だって事もわかってる。今更信用してくれなんて言わねぇ。だから俺は常にお前らの前に出て戦う。背中を狙いたい奴は狙え! 俺はもう逃げねぇ!」



 アキラは背中に背負った大剣を地面に突き刺した。

 事情を知らないティラガードの民は困惑し、ドリュウズもどうしたもんかと頭を掻いた。



  (「おいアキラ!どう) (いう事だよ!」)



 静まりかえったその場で、ただ一人騒がしかったのはカミングアウトされたベックだけだった。


 俺の背後で大騒ぎをしている。


 だがそれも、いつの間にかベックの後ろにいた黒衣の女性が素早く──『 (ベック、イワセとは誰) (の事だ?)』──黙らせていたのだが、何をどうやって黙らせたのかはわからない。


 心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 反応を待つ時間が数時間にも数日にも感じられた。

 すると一人の冒険者が口を開いた。



「そんな話、信用出来ねぇ! 俺はギルドマスターにした事を忘れてねぇぞ!」



 それを皮切りに冒険者たちの不満が爆発した。



「そ、そうだ! また、あの時みたいに我を忘れて化け物になるんじゃないのか!?」

「それよりも今、お前がここにいるのは魔王の差し金じゃないのか!?」

「また裏切るかもしれない奴と一緒に戦えるか!」



 武器こそは手に持っていないが、前に詰め寄っている冒険者は眉間にシワを寄せ納得していない様子だ。


 アキラは「言い返す言葉もない」と腰を深く折っている。


 一向に進まない事に業を煮やしたのか、今まで黙っていた最後の四大辺境伯の一人、ウロヤミゴが口を開いた。



「貴様ら良い加減にしろ。我々は今、このような下らない小競り合いをしている場合じゃないのだ。貴様らがそんなに不安なら、我々が勇者と貴様らの間に入る。それで文句はないな? 少しでも怪しい動きをすれば、この私自ら勇者を炭クズに変えてやろう」



 先程まで興奮していた冒険者たちも、辺境伯が盾になってくれるならと引き下がった。



「ウロ、悪いな」

「フン、いつでも殺してやる。精々気をつけろ」

「そんな怖い事言うなよ。同級生だろ」

「貴様が味方のうちは多めに見ておいてやる。だが、少しでも疑わしい素振りをしたら──」



あとは分かるな?

そうとでも言いたげに、ウロヤミゴはアキラに杖を向けた。



死の沼地、ライメムトー。

決戦の地まで残すところ僅か。

すいません。送れました。


次回更新は2020/07/27を予定しています。

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