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243話 感

 

(……おかしい。静かすぎる)


 イースグランデ王都跡地に入って一時間ほどたった。

 最初にその異変に気がついたのは、背中に巨大な白剣を背負った冒険王サイラス=カロボトムだった。


「サン、お前は気がついたか?」

「? 何がです?」

「馬鹿野郎。お前今までも何度か通った事あんだろうが」

「そんな事言われましても……。みんなわかるか?」


 サンがそう言うと、行軍を共にする《白剣》のメンバーが思い思いに回答する。


「いやぁ、オデにはわからんどす。とりあえず腹が減ったなぁ。早く目的地に着いてほしいだぁ」


 身体が隠れるほどの大きな盾を持った冒険者が言った。

 その巨盾で身体が隠れるからと言って、決してその冒険者が小柄なわけではない。


 前を行くその巨体は身長190cm近いサイラスよりも頭ひとつ分が高い。

 2mを優に超える巨軀の上に、ちょこんと乗ったそのジャガイモのような頭。

 サイラスの全身を完全に隠してしまうはち切れんばかりの身の詰まった鎧が、声をかけられたことで後ろを向いた。


 Aランクパーティ《白剣》の盾役、ゴフリーである。

 鉄の塊のような分厚い鎧、鉄板を何枚も重ね合わせたような盾の重さは軽く100kgは超える。


 その重さを気にする素振りもなく、汗ひとつかかずに行軍についていくその姿を見るに、その鎧の下には並々ならぬ膂力が隠されているのだろう。


 盾以外に武器を持っている様子はない。


 魔物の攻撃を一身に受け、パーティメンバーの安全を確保するのが《盾役(タンク)》の仕事だ。



「ほんとあんたは口を開けば腹減った腹減ったばっかり! 少しはサイラス様の役に立ってみなさいよ!」



 キーキーと甲高い声が響く。

 その声の主の姿は、この荒廃した街並みの中にあっては異質と言えた。


 金色の髪の毛を三つ編みにし、フリルの付いた真っ赤なドレス、低い身長を誤魔化すためか、真っ赤な高いヒールを履いている。


 その姿はまるで、廃墟に咲く一輪の赤い薔薇。


 整った容姿と、ドレスに似た燃えるような赤い眼は、しっかりとゴフリーを捉えており、凶器にもなりうる高いヒールで丸太のようなその脚を蹴り付けている。



「あぁ、キャシーやめでぐでよぉ〜。オデの鎧が傷ついちまうだぁ〜」



 冒険者はゴフリーやサイラス、ノーチェやベックのように、必ずと言って良いほど鎧を身に付けている。


 一口に鎧と言っても、ゴフリーのような金属製の鎧を筆頭にして、ベックのような魔物革製の鎧なども多く、鎧の一部に布が使われる事もあるが、基本的には身体を守る──冒険者自身の命を守る為の──装備は強固なものが多い。


 今回の行軍のように、一見すると布製の軽いローブなどを羽織っている冒険者も多々いるが、そういう場合だいたいが盾役に守ってもらう事を前提とした治癒士であり、その治癒士であっても実際のところローブの内側には楔帷子などの装備をしていることがほとんどだ。


 ──が、キャシーが身に纏っている装備はおおよそ戦闘に向いている装備には見えず……、その姿はまるで社交場で着用するような華美なものであった。


 露出の多いドレスの下には楔帷子が身に付けられている訳でもなく、ただただ優雅で美麗な真っ赤なドレスをその身に纏っているのだった。


 それはそれは今にも踊り出しそうなほどに。


 それ以上の返答は望めないと判断したのか、ぎゃあぎゃあと喧しく揉める二人を横目に、サイラスは大きく溜息をついた。



「はぁ〜。お前ら良い加減にしろ。寄れば触れば喧嘩ばっかり……。サン、お前は斥候だろ? ご自慢の耳で周囲を探ってみろ」


「周囲を?」


 先ほどからずっと、警戒を怠らない様子で、兎人族特有の長い耳を忙しなく動かしているサンが、更にその耳を激しく動かして周囲を確認する。


「えっと──静かですね……。魔物はいないと思いますが……」


「だーかーらー……。それが問題だっつーの。静か過ぎるんだよ」



「「「???」」」



「静かなことが何がいけないんだ?」そう言いたげな様子の3人に向かって、呆れた様子でサイラスが言った。


「良いか? どんなに冒険者の手が入っていたとしても、亡霊(ワイト)一匹でないって言うのはおかしいだろうが。こんなに多人数で、しかも固まったままなんだぞ? 襲われない方がおかしいんだ」


「な、なるほどっす……」


「お前は耳が良い。だが、それに頼るな。もっと研ぎ澄ますんだ。斥候ならな。何事も慎重に、慎重にだ。それが早死にしないコツってもんだぞ」


 静かになった三人にそう言うと、サイラスは自身の感を確かめるように、再び周囲を探り始めた。


 前を行くリーダーの頼もしい背中。

 それを見たパーティメンバーの三人は顔がギュッと引き締まった。


 虫の声ひとつ聞こえない廃墟の中。

 その静けさを一掃するかのように、目の前に聳えていた王城が爆音と共に弾け崩れた。


 その光景を目の当たりにしたサイラスは、自身の直感が正しかったと背中の《白剣》に手を掛けた。

次回更新は4/27の予定です。

宜しくお願いします。

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