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221話

お待たせして申し訳ございません。

ようやく、復旧しました。

 

 ヌヲォル族総出で大いに歓待を受けた晩から一夜明けた翌日。

 タイムリミットまであと一週間と少しと言ったところ。

 刻一刻と時間は過ぎ、ライメムトーでの決戦の刻限は着実に迫っていた。


 (解毒薬の素材は集まった……。後は赫霧をなんとかする為のマスクが必要だな。何か良いものはないだろうか……)


 早朝、毎日の様に行なっている魔力鍛錬の最中にそんな事を考えていると、鎧を修理する工程やその作業を見学したいと兎人族の兄妹から相談があった。


 朝食時に族長であり稀代の皮革職人であるバルガスに聞いてみると、快く受け入れてもらえた為、深夜に帰ってから未だ起きてこない、非常に酒臭いライアを放置し作業場へと赴いていた。


 昨日に引き続き興奮した様子で、忙しなく作業場を見て回る兄妹。邪魔にならない様にと二人に注意したベックは独特な匂いと雰囲気の作業場にて、じっと鎧の修復作業を見守っていた。



     シャッシャッシャッ。



            ギッギッギッ。


       トントン。


               ググッグッググッ。



 額に汗を滲ませながら、丁寧に作業を進めていくその姿は、豪快な見た目とは裏腹に繊細そのものだった。


 激しい戦いを経て襤褸になった飛竜の鎧の中途半端に欠けた鱗や、その下に見えるちぎれ欠けた革の部分、それらを繋ぎ合わせ新しい鱗を縫い付けていく事で修繕を行なっている。


 作業場の大箱に入っていた、鎧の大元になっている飛竜の革を取り出したバルガスは、その鞣した革を糸の様に細く裁断していった。

 その伸縮性のある強靭な革の糸でもって鱗を縫い付けていくのだ。


「この間来た商人が言ってたんだけどよ。あの話は本当か?」

「あの話って何です?」


 先程まで黙々と鱗を縫い付けていたバルガスが、ふと思い出したかの様に顔を上げ、ベックに尋ねた。

 その表情は破損したベックの飛竜の革鎧の、汚れた部分を布で丁寧に拭き取っている時の真剣な表情とは違う、どこか影の刺す様な不安気な面持ちだった。


「分かってんだろ? ライメムトーの話だよ」

「……本当です」

「そうか……。商人たちが言ってる噂は本当なんだな。……戦争が始まるのか」

「はい。国の冒険者、騎士、衛兵たち総出でライメムトーに向かいます」

「絶対に死ぬなよ。あんたに死なれたらライラが悲しむんだ」

「死ぬつもり……「ベックさんは死なせませんよ! ね、兄さん」

「おうよ!」


 バルガスの言葉に一瞬どきりとしたものの、「死ぬつもりはさらさらありません」と、そうベックが言おうとした時、バルガスの工房を見学し終わったノーチェとニエヴェが会話に割って入った。


「そいつは頼もしいな! だが、大丈夫なのか? あそこは死の沼地。毎年何人もの冒険者が向かっては帰って来てない危ねぇ場所だ。俺の防具を買ってった冒険者だって何人も戻って来なかった恐ろしいところだぞ」

「対策はバッチリ! ……と言いたいところなんですが、正直不安なところもあります。このニエヴェが解毒薬は何とか用意したんですが……まだ対策は完全とは言えません」

「ん? なんでわざわざ解毒薬を用意するんだ?」


 ──解毒系(アンチポイズン)の魔法があるじゃねぇか。冒険者でもない俺だって知ってる魔法だぞ。


 呆れた様子で腕を組んだバルガスが言った。


「あの辺の土地の採取や、魔物の素材目当てで普通に行くならそれで十分なんですが……」

「人数が多すぎて、解毒系の魔法が使える治癒士が全く足りないんですよ」

「あぁ、なるほど。そういう事だったか。素人な考えで申し訳なかった」

「いえ、みんな初めてのことですし仕方ないです。少人数であれば問題ないんですけどね……」

「何か対策は考えてるのか? ライメムトーって言えば【赫霧】が一番厄介だろう? 一息でも吸い込んじまったらイチコロらしいからな」

「今私たちもそれに悩んでいるんです。残り一週間とちょっと、あの赫霧に対抗できる策を考えているんですが、話し合いの中ででたのは、ティラガードの砂塵対策で使われる防塵マスクをつけるくらいのもので……」

「あの全面をカバーする奴か……。だがあれじゃ無理だろうな。砂塵は防げるかもしれねぇが、あの毒の霧は吸っちまうだろうよ」

「問題はそこなんです。もっと通気性が高くて、尚且つ赫霧を通さないような素材がないかと冒険者全員で探し回っている段階です」


 バルガスが眉を顰め目を瞑り、腕を組んで「う〜ん」と唸った。


「海綿なんか行けそうだが、大所帯だと今から用意は無理だな。ところで、ライメムトーの毒はなんの毒なんだ?」

「なんの毒……?」

「いやよ、まぁアンタら冒険者だったら知ってると思うが、魔物の中にも皮なんかに毒素を持つ奴もいるんだよ。そういう場合は皮に下処理を施すんだが、これが色々とやり方があってな。例えば爪や尖った鱗に毒のあるコモドラの処理なんだが、カッチカチに凍らせると良いんだよ。そうすっと爪や鱗の色が鮮やかにな緑色になって毒気も抜けるわけだ」

「……そうですよ! なんでそこに気がつかなかったんだろう!」


 バルガスの話を聞いた何かを思いついたようで飛び跳ねた。


「なってから対処するんじゃなくて、なる前に解毒してしまえばいいんですよ!」


 光明が差した瞬間だった。

次回更新は2019/09/17になります。

よろしくおねがいします。

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