21話 静電気と報告と利権
岩山の迷宮での出来事から数時間。
俺はボラルスの街の冒険者ギルドへ、依頼の報告のために戻ってきていた。
「全然話が違うじゃないですか!」
バン! と応接室にある机を叩きながら、どれだけ大変な依頼だったかを訴える。
更に「死にかけたんですから!」と少しだけ話を大袈裟に伝えておく。
最初の大蛇は本当に食われそうになったし、牛頭人王も強敵だった。
どっちも花ちゃんがいなかったら危なかった。
それを考えると大袈裟とも言えないと思う。
つまりなんていうか花ちゃん最高。まじ卍。
「そう言われてものお。今までは本当に岩小鬼くらいしかいなかったんじゃよ」
困った顔をしながら弁解するのはボラルスの街の冒険者ギルドのギルドマスターである、巨大筋肉顎髭老人のアンブリックだ。
その手には俺が四階層目で倒した人造王種のドロップ品である牛頭人王の頭部付き黒毛皮を持っている。
その黒い毛皮は、岩をも安易に撃ち抜く俺の魔法、《雷銃》をまともにくらっても少しの焦げ付きしかつかないほど強靭な毛皮だった。
「それに魔族がどうとか、人間と魔族の戦争がどうとか言う、赤い目に白い肌の怪しい男だって居たんですから!」
あの漆黒の外套の男はまじでやばい奴だったな。
牛頭人王と一緒に襲われたら今頃死んでいたと思う。
あいつが温厚なやつで良かったぜ。
「なんじゃと? 魔族じゃと? それにそやつが戦争と言ったのか?」
「そうですよ! なんかその魔族の男やたらと速いし、牛頭人の首によくわからない赤い薬を打ち込むし……。そしたら牛頭人が急に苦しみだして巨大化しだすしで、本当に大変だったんですからね! その男は牛頭人王の事を『人造王種』って言ってたんですから!」
「人造王種じゃと? そんなもの聞いたこともないわい……」
アンブリックは机に肘をついて頭を抱えている。
「つまりじゃ、魔族が人間と戦争をする為に、魔物を人工的に王種にする方法を生み出したってところなのかの」
「さぁ、俺にはそんな難しい事わかりませんね。そもそも魔族ってなんなんですか?」
「なんじゃ、お主魔族も知らんのか? ここに来た時の格好と言い、訳の分からん男じゃのう。いいか?魔族っていうのはのーー」
そこからは長々とこの世界における人類の歴史と魔族との血で血を洗う争いの歴史を聞かされた。
この世界は魔族が住むドルガレオ大陸と、人間が住むオレガルド大陸に分かれているらしい。
魔族が住むドルガレオ大陸は魔力が豊富なせいで、魔物は強力だし、荒れた土地ばっかりだそうで、安全で資源の豊富な現界を奪おうと度々戦争を起こしていたそうだ。
しかし六百年前に侵略戦争をけしかけて来た魔王軍を勇者率いる現界軍が打ち破る事で戦争は終結。
以来、我々人間側は、唯一魔界と現界の接触している土地である《世界の終わり》という境目に大きな要塞を建てて日々魔族の侵攻を抑えているという話なのだが、ここ三百年程は魔族は愚か魔物の襲撃もないそうだ。
「それじゃあ、その魔族っていうのがまた戦争起こそうとしてるって事ですか?」
「恐らくそうかもしれんな。これは王都の冒険者ギルド総本部まで報告しなくてはいけないのお」
こっから先は俺には関係のない話だな。
報告も終わった事だし、宿に帰ってひとっ風呂浴びて飯でも食いに行きますかね。
『花ちゃん! ご飯食べに行こう!』
『花ちゃんご飯食べるー!』
そうと決まればさっさと帰りますか!
「じゃあ報告も終わったし、俺はそろそろ帰りますよ。あ、毛皮返してもらいますよ」
ずっと撫でやがって。
そんな物欲しそうな顔してもくれてやんねーからな。これで外套でも作って貰うんだから。
あ、そうだ。素材といえば、ジュエルパイソンって換金出来ないかな。
「あ、もう一つ忘れてました。魔物の買取ってやってます?」
「魔物の狩猟や素材目当ての捕獲依頼もあるからの。解体や売買の仲介などもギルドでやってるぞい。もちろん手数料は貰うがの」
いいねいいねー。
素材の買取とかファンタジーっぽくてワクワクすっぞ!
「じゃあ買い取ってもらいたい魔物があるんで、買取お願いします。ちょっと大きいんですけど大丈夫ですか?」
アンブリックは「じゃあ解体場に行くかの」と言って立ち上がり、応接室のドアから出て行く。
すまん、花ちゃん。
ご飯までもう少し外套の下で待っててくれ。
◇
「へえー、訓練場の左横には、こんな場所があったんですね」
冒険者ギルドの一階、受付カウンターを左に行くと、解体場の受付があった。
解体場の窓口は一か所だけで、カウンターの右横には、大型の魔物を吊るためのクレーンのようなものが天井からぶら下がっている。奥を覗くと何やらバラバラになった魔物の肉が作業台の上に置かれ、作業員が骨からその肉を剥がしているようだった。
ちなみに冒険者ギルドに入って正面は依頼受付カウンター、右に行くと酒場、カウンター横を真っ直ぐ通ると二階の宿舎への階段と外の訓練場に行くための扉がある。
「そういえばお主は持ち込みとかしたことなかったのお。ここは持ち込まれた魔物を解体して素材にしたり、その素材を商業ギルドや一般向けに販売したりもするんじゃ」
「なるほど。仲卸業者みたいなものですね」
「仲卸業者? よくわからんが、冒険者ギルドの重要な仕事の一つじゃ。それで、いつその買い取ってほしい魔物とやらを持ってくるのじゃ?」
「あぁそうでした。ちょっと下がってもらっていいですか?」
アンブリックや作業員達が全員が「何言ってんだコイツ?」みたいな顔をしているのを見ながら、腰にぶら下げたマジックバックを外し、《ジュエルパイソン》を袋から取り出す。
袋の中からは大穴の開いた《ジュエルパイソン》の頭部から始まり、徐々にゴツゴツとした背中や滑らかな蛇腹が顔を出す。
一分程かけてジュエルパイソンを出し終わった頃には、作業員達は勿論のこと、アンブリックですらも空いた口が塞がらないと言った感じだった。
「おいおい、マジックバッグを見た時も心臓が飛び出るくらいたまげたが、まさかこんな田舎街でジュエルパイソンを拝めるなんてな……」
続けざまに「王都で働いてた時でも、こんな立派なジュエルパイソン、数年に一回しか見た事ないぜ」と恰幅のいい筋肉質の作業員が言った。どうやら彼はこの解体場の責任者のようだ。
「ベックよ。コイツはどこに居たんじゃ?」
「あれ? 説明して無かったでしたっけ? 岩山の迷宮に岩小鬼以外も居たって言ったじゃないですか。その中の一匹ですよ」
「……コイツも四階層目に居たのかの?」
「これは二階層目の、三階層目に行くための坂道の前に居たやつですよ。四階層目にもいっぱい居ましたけどね。なんか四階層目って魔物が地面に吸収されちゃうんですよね」
「……なるほどのお。実のところ、岩山の迷宮はの、迷宮とは言うものの、迷宮ではないのじゃよ」
「え? どういう意味ですか?」
「まぁ簡単に言うと、只の入り組んだ岩小鬼の巣だったんじゃよ。恐らくじゃが、魔族の“お陰”じゃろうな」
「ん? それを言うなら“仕業”じゃないんですか?」
「まぁそうとも言えるがの。これはアーウィン殿が喜びそうじゃのお」
「……さっきから全然話が見えないんですが……」
「つまりはの。岩山の迷宮が、本物の迷宮になったって事じゃな。魔族はの、数は少ないが大体の奴が、凄まじい魔力の持ち主なんじゃよ。それこそ魔族一人で“魔力溜まり”の代わりになるくらいにの。偶然じゃろうが、岩山の迷宮の三階層目には恐らく迷宮石があったんじゃろうな。その魔族の魔力に当てられた迷宮石が成長して本格的な迷宮になったんじゃろうて」
アンブリックは「これからこの街も忙しくなるぞ」と何やら張り切っているようだ。
「お主は迷宮発見者となったんじゃ。まぁ第一発見者ってとこかの」
なるほど。この世界では迷宮は産業ってところなんだな。片田舎でも、近くに迷宮ができれば冒険者がくる。冒険者が来れば、宿屋や酒場、武器に防具と必要になる。そうすれば商人が来る。そうやって産業が出来上がって行くってことか。
だからアンブリックは「アーウィン殿が喜びそうじゃのお」って言ったんだな。
「出てくる魔物も魅力的じゃの。ジュエルパイソンは金になるぞい。四階層目の調査団も派遣した方が良さそうじゃのお。いや、まて、正確には一階層目じゃな。マッピングや他の階層もありそうじゃしの」
普通は出来立ての迷宮でも最低で五階層はあるらしい。そこから長い年月をかけて成長して行き何十階層と言う高難易度の迷宮になって行くそうだ。三階層目までは只の洞窟だったから、少なくとも後四階層はあるって事だな。
「まぁよくわかりませんが良かったですね。それよりも、この蛇の買取お願いしますよ」
「そうじゃの。おいカーター。このジュエルパイソンの買取に色をつけてやってくれんかの」
この恰幅のいいおっさん、カーターって言うのか。
それよりも、色つけてくれるって有難いね。
アンブリック、太っ腹じゃん。
「お主の迷宮の利権の話とか色々あるからの。今度はアーウィン殿と三人で話し合いが必要じゃな」
ん? 利権ってなんだ?
なんかめんどくさい事になってきたぞ。
「第一発見者はその迷宮で出た利益の三パーセントを収入として得ることができるんじゃよ。それが利権の話じゃな」
まじかよ。つまりは金利収入みたいなもんか。
働かなくても、皆んなが迷宮に潜れば潜るほど俺の懐に金入って来るってことじゃん!
やべえ。顔がニヤケて来ちまってるぞ。
『花ちゃん。今日はご馳走にしよう!』
『花ちゃんご馳走たべるー!』
こうして俺は苦労せずに金を手に入れることができるようになったのである。丸。
今度、漆黒の外套の魔族の男に会ったらマジお礼言わねーとな!
《こうして童貞は財力を手に入れた!》




