表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/259

217話

 


 背の高い樹々を抜けた先、見上げると空が細く見える崖に囲まれた道を進むとその集落はあった。

 ゴツゴツとした剥き出しの岩が目立つ山の中、突如として現れた木製の扉。

 切り出されたムエスマ大森林の巨木を強固に組み合わせたその扉は、集落の周囲を囲んでいる切り立った崖の様な岩山と相まって集落の守りを堅牢にすると同時に、この森に住む凶悪な魔物や名産品を狙う犯罪者の侵入を防ぐ役割を担っていた。


「久しぶりだな、ここにくるのも」

「私たちは初めてです! ね、兄さん!」

「おぉそうだな!」

「……」


 不機嫌そうなライアを他所に、三人は足早に門へと近づく。

 入り口まで二十メートルをきった頃、魔物の牙で出来た槍を持った若者が守衛室らしき小屋から出て来た。


「そこで止まれ!」


 若者は槍を突き出し大声で叫んだ。


「あんた達商人じゃないな!? ここに何しにきた!」

「お、おい、なんか怒ってないか? 明らかに歓迎されてないみたいだぞ」

「いや、分からん……。俺も知らない村の人だ」


 ベックは両手を上げて敵意がないことを示しながら、「バルガスさんに会いに来た」と告げる。

 若者が守衛室に入り暫くすると、扉の横にある小さな扉から、


「ベックお兄ちゃーん!」


 と、髪をおだんご状にまとめた少女が駆け寄ってきた。

 前回、ベックが食料の提供をするきっかけになった少女だ。


 勢い良くドスンとそのまま腹部に抱きつき、ぐりぐりと頭を擦り付ける。

 飛竜の装備に抱きついたままベックを見上げると前回会った時より背が伸びているのがわかった。


「ちょっと大きくなったか?」

「そうだよ! アリア、身長伸びたんだよ!」


 ──あれから一年近く経つのか。

 冷静になって考えてみると、あれだけお世話になったのに一年近く何の音沙汰もなかった俺を、みんなは快く迎えてくれるだろうか。


 アリアの頭をそっと撫でるベックの表情には一抹の不安が残っていた。

 しかしそれもアリアの歓待ぶりを見るに杞憂なのかもしれないと、その様子を見たノーチェは思った。


 アリアが守衛室に戻ると、先程の若者は──敵視していた態度を軟化させ──笑顔で招き入れてくれた。

 黒い毛皮に包まれた兎人族のふさふさ耳には、すれ違いざまに「あとでサインください」と小声でベックに言っているのが聞こえ、何だか微笑ましく思えた。





 §





 村に入ると鞣し剤の薫りが周囲に漂っているのがわかる。

 香ばしい様な、甘ったるい様な……、なんとも言えない匂いだ。


 ベックの鼻には良い匂い感じる鞣し剤の薫りだが、ノーチェやニエヴェの鼻にはきつく感じる様で、二人は鼻をヒクつかせ眉を顰めている。


 アリアに手を引かれ作業場の横を通り抜けようとすると、ベックの存在に気がついた住人達が集まってくる。


「大人気ですねぇ。ベックさん」

「当たり前だよー! お兄ちゃんはこの村のヒーローなんだから!」


 そう言うとアリアは腰に手を当て、その可愛らしい控えめな胸を張った。


「こりゃ村人中が集まってるのか!? すっげぇ人集り」

「全員じゃないよ! 男衆はみんな奥で作業してると思う! おねぇちゃんも、お父さんもいないし!」

「お父さんって名工バルガスか!?」

「メイコウ?? よく分からないけど、お父さんの名前はバルガスだよ! 良く商人さんとかがいっぱいくるんだよ」

「か〜〜〜!! やっぱすげぇ! 早く会いテェ!」

「もうすぐ来ると思うよ! 職人さんに伝言伝えたから! フフッ、ライラおねちゃん大急ぎで来ると思うよ!」


 ノーチェは興奮のあまり足をバタバタとしている。

 アリアが言った言葉には全く興味がない様で、周囲に視線を忙しなく飛ばし、木の台にかけられた森林狼(フォレストウルフ)の毛皮や、拵えられている外套、作りかけの皮鎧などを楽しそうに見つめていた。


 その様子と打って変わってアリアの言った言葉に反応したのは、昨日より終始不機嫌そうな顔をしていたライアだった。


「なぁアリアとやら……」

「なぁに? ライアおねぇちゃん!」

「お、おねぇちゃん!?」

「うん! おねぇちゃん!」

「……はは、その、なんだ……。ベックとライラとやらは仲が良いのか……?」

「えーっとね。内緒だよ?」


 アリアはライアの耳元にそっと唇を寄せると小さな声で言った。


「ライラお姉ちゃんはね……。ベックさんにホの字なんだって!」

「ホの字!?」

「それにお父さんも、ベックお兄ちゃんに“お父さん”って呼ばれたって言ってたし!」

「お父さん!?」


 ライアは目の前が真っ暗になり、地面に膝をついた。


(お父さんって……、家族公認の間柄なのか!? あいつ、散々色仕掛けしても何もしてこなかったのは、婚約している女が居たからなのか!?)


 今日に至るまで軽い色仕掛けや、性的なイタズラをし気を引こうとしていたがことごとく失敗していた。

 アリアの言葉を聞いたライアの勘違いは──そう言うことだったのかと──エスカレートしてゆく。


 実際はライラとベックの間に婚約していると言う事実はなく、ベックが行動を起こさないのはただ単純に童貞であるが故の度胸の無さから来るものであった。


 そしてその直後、ライアは強力なライバルの出現を目の当たりすることになり、更なる勘違いが加速していった。


 そんなことはつゆ知らず、女子供、特に子供たちに揉みくちゃにされるベック。

 遠くから「助けてくれ〜」と言う悲痛な声が聞こえてくるのであった。


遅れてすいませんでした。

次回更新は2019/08/19になります。


追記:更新遅れます。22日に変更します。

度々すいません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ