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207話

 


「白髪の少女と黒衣の男……」


 俺は常夜が言った襲撃してきた相手の特徴を、いつの間にか繰り返し口に出していた。

 そしてその特徴に心臓が締め付けられるような感覚を味わい、一瞬だけ目の前が暗くなった。


(ベック……)

(……あぁ間違いない。花ちゃん達だな)


 ライアと目を合わせ頷きあう。


「そうです。その二人は圧倒的でした。……特に少女の方、あれは悪魔だ。彼女の魔法は一瞬で城を吹き飛ばしました」


 常夜は「外をご覧になったでしょう」と言うと、ブルリと身を震わせ自身の両肩を抱いた。

 何かを思い出したかの様に目が虚になり息が荒くなる。

 その姿はまるで捨てられた子猫の様に弱々しいものだった。


 幾ばくかの時間その状態が続いた。

 しばらくして落ち着きを取り戻した頃、数回大きく深呼吸すると続きを話し始めた。


「初めは近くの村が襲われました。その時はまだ、我が国はこの事態をごく一般的な魔物災害かと思っていたんです。ですので殿は討伐軍を編成し、事に当たろうとしました。ですが、村に阿波武士団を出兵し、手薄になった都に──」

「その二人が現れたと」

「えぇ」


 そこからの話は魔族と魔物による国の蹂躙と、胸糞の悪い奴のやり方の話だった。


 蝋燭の灯で薄暗く見える地下室を見回す。


 周囲で聞いていた生存者達からも啜り泣く声が聞こえ、互いに肩を寄せ合い抱き合っている。


(何してるんだよ……。花ちゃん……)


 俺たちは花ちゃんは操られた状態だと考えている。

 操血魔法は血を媒介にして他者を操る魔法。

 そうである事が自然の様に思えた。


(花ちゃんがそんな事する訳がない。彼奴が操ってるに決まってるんだ)


「それで、生き残ってる人達はこの地下室にいるので全員ですか?」

「あぁ、私の従者と生き残りです。魔族に襲われて一ヶ月、もう間も無く食料も底をつく。それを見越して、救援の依頼を出させてもらいました」

「分かりました。俺たちが乗ってきた船があります。それで一旦フォレスターレ王国へとお送りしますので、準備をしてください」

「かたじけない。このご恩は必ずお返しします」

「お礼はペルシア女王へ。俺たちは女王の命でここにきていますから」


 救援と分かったからか、力無く地面に座り込んでいた人々から歓声が上がった。





 ⌘





 船で待機していたフォレスターレ王国の兵に常夜達を任せ、引き続き阿波国の内部を調査するも──、結局何も出てくることはなかった。


「やっぱりここも何一つ手がかりが出てこないな……」

「……一体どこに行ったんだ花ちゃんは」

「分からん。奴等の動きが読めない以上、地道に情報収集していくしかない」

「俺っちにはわからねぇが、ニエヴェ、臭いはどうだ? 何かわかるか?」

「わからないわ、兄さん。だいぶ時間が経ってしまっているもの……」

「そうか……」


 フォレスターレ王国が襲撃されてから二週間後、俺たちは準備をした上で、ドルガレオ大陸にある旧マノス王国の城跡に赴いた。


 そこに花ちゃんがいると思っていたからだ。

 しかし行ってみれば、そこはもぬけの殻。

 崩れた城がそこにあるだけだった。


 ドルガレオ大陸に初めて行った時の様な濃厚な魔力を感じる事もなく、酸の雨が降る事も強力な魔物が出現する事もなかった。


 情報を少しでも得ようと、神樹がある魔樹人族の集落にも赴いて話を聞いてみたが、地下を通る魔力の龍脈を吸い上げている神樹があるおかげか、その周辺の環境は変わりないようだった。


 大した情報も得られず、ノーチェには「またヴェロヴェロ言ってる」と言われ、馬鹿にされただけだった。

 どうやら俺がヴェロヴェロ言うのが大層面白いらしい。

 だが気にかかる事もあった。


「──精霊神の気配がなかった事も気にかかる」

「ドルガレオ大陸の禍々しい魔力が薄れてるって言ってたことか?」

「そうだ。あれだけ強く感じていた精霊神の存在感が全くなかった。これは異常だよ。ベック」

「どっか良いところに移り住んだんじゃねぇのか。ほらもっと奥地の方とかにさ」

「いや、それはないだろう。ドルガレオ大陸の奥には精霊神たちですら手を焼く龍が住んでいると言われているからな。何かするとしたらスウマーだが、彼奴に精霊神を動かすだけの力があるとはあたしは思えないんだ」

「うーん、じゃああれか? 精霊神がいなくなったのは花ちゃんが何かしたからって言うのかよ」

「あり得ない話ではないだろうな。魔力も豊富で全ての属性に適性のある花子だ。素体としては申し分ない素材だろうからな」

「素体?」

「精霊神たちが魔力の薄いオレガルド大陸に行くには、魔力の高い人間に取り憑いていく他にないからな」

「花ちゃんの魔力に寄生しているのか」

「あぁ、それならばスウマーが花ちゃんを担ぎ上げるのは理解できる。もしかしたら精霊神でさえも操っているかも知れないがな」

「そうなったら最悪だな」

「……これ以上被害が出る前に止めないと」



俺たちは目的を再確認し、転移魔法で帰国した。






次回更新は2019/06/20になります。

宜しくお願いします。

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