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203話

 

「すまなかった」


 ぽつりとライアが言った。


(何のことだ……?)


 急に謝られて、頭の中が疑問で埋め尽くされそうになる。

 しかし湯気が立ち昇る浴槽内で男と女が二人っきり。

 神妙な面持ちで俯いているライアだが、慣れない状況にそんな事を気にしている余裕は俺には無い。


 童貞には、女性と一緒に風呂に入っている状況はあり得ないことなのだ。


 数秒後には、ライアがなぜ謝っているかなんて考えるのをやめていた。


 こいつは何か話しするときは風呂じゃ無いと話せないのか?

 前回もこんな感じで勝手に風呂に入ってきた気がする。

 俺は今煩悩に打ち勝たなくてはいけないのだ。

 ライアの謝罪を受け入れようにも、何のことかわからない謝罪にリソースを割くわけにはいかなかった。


(非常に気まずいぞ……)


 風呂に入っていると言うのに、逆に汗をかいている気分だ。

 颯爽と、スタイリッシュに出ていく方法を考えるも、何も思い浮かばず、その気まずさから、


「良いから早く出てってくれよ。俺はゆっくりしたいんだよ


 この状況を少しでも変えるため、思わず口に出してしまった。


「…………」


 しかしそれでも尚、出て行こうとしないライア。


(あれ? もしかして逆効果だったか? 違う意味で捉えられてしまったかもしれない)


 だが、我慢の限界だ……。

 俺は痺れを切らし、自ずから浴槽から出る事を選択した。

 立ち上がると湯面が揺れ、ザパァとその淵からお湯が零れ落ちた。


 前も後ろもしっかりと隠した状態で、そそくさと立ち去ろうとする。

 しかしそれをライアが呼び止めた。


「待ってくれ。話がある」

「おわぁ! お前は立ち上がるなよ!!」


 そう言って、急に湯船から立ち上がったライア瑞々しい身体が露わになる。

 魅惑の肉山は弾ける様に上下に揺れ、肩から胸にかけて湯が滴り落ちる。

 目眩のする様な煽情的なその肢体に、思わず生唾を飲み込む。

 普段ならば鼻の下を伸ばして歓迎したい状況だが、今の空気は最悪と言っていい。


(ヤバイ……、このままじゃ……)


 反応しかけた息子を隠す為、湯船に戻り両膝を抱える。

 何やら真面目な様子のライアを前に、そんな痴態を晒すわけにはいかなかった。


 いつまでも生まれたままの姿で突っ立ているライアに、目の毒だと伝えると、彼女は静かにそれでいてゆっくりとまた湯船に沈み込んだ。


 いつのものような童貞の俺を小馬鹿にした態度は一切見せず、何やら物憂げに黙り込んでいる。


 目のやり場も困るし、そろそろのぼせてきたしと言うところで、この状況に耐えかねた俺はライアに問いかけた。


「……で、話って何だよ」

「花子の件について何だが……」

「花ちゃん? だったらお前が説明してくれたじゃねーか。問題なく無事だろうってさ」

「無事なのは確かだ。担ぎ上げようとしている魔王をスウマーがどうこうする事は無いと思うし、そもそも彼奴は弱者を担ぎ上げたりはしない。何があったか迄はわからないが、この半年間の間に花子は相当強くなっているのでは無いかと考えている。魔王と呼ばれる程にな」

「じゃあ何も問題ないだろ。無事なんだからさ。それに非行に走った子供の人生を修正するのは親の役目だぞ。必ず迎えに行ってバッチリと教育しないとな。お尻ペンペンでもしてやるよ」

「………………」

「何だよ。まだ何かあるのか?」

「……花子をスウマーに引き合わせたのはあたしなんだ」

「どう言う事だよ」

「花子がまだ繭だった頃、ドルガレオ大陸にある別荘で預かっていた時期があっただろう。その時、あたしが別荘にいない間に花子を看ていたのがスウマーなんだ」

次回更新は2019/06/02になります。

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