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19話 静電気と魔族

いつも読んでいただきありがとうございます。


 

 扉を開けた先には広い空間が広がっていた。

 天井からは骸骨で出来た悪趣味な室内灯が不規則にぶら下がり、その室内を明るく照らしている。

 室内には何かの科学実験で使いそうな器具や書類、よくわからない薬品のようなものが所狭しと並んでいる。



 ゆらゆらと揺れる室内灯のその影の奥には、人の背丈ほどの大きさの斧槍を持った体長四メートル程の牛の頭をした怪物と、まるで星のない夜を体現したかのような、漆黒の外套を纏ったナニかが立っていた。



「はて、貴様、そこで何をしている。ここに来るまでの道は崩しておいたはずだが」

 


 漆黒の外套を纏ったナニかが洋也に問いかける。

 その声から判断するに男のようだ。

 外套の奥には不気味に光る赤い目と異常なまでに白い肌が見て取れる。



「……俺はこの迷宮の調査に来た冒険者です」

 


 何があってもいいように、相手の一挙手一投足、見逃さないように観察を続ける。

 特にやばそうなのはあの微動だにしない牛頭だ。



 てか、やっぱりあの崩れた岩はこいつの仕業かよ。

 異変の原因ってこいつなんじゃねーの。



「其の肩に乗っている植物は魔界草か? 嗅いだことのある血の匂いがするな」



 俺の全身をなめるように見た後、右肩の一点を凝視する。

 危険を感じるのか、花ちゃんがまたしてもギュッと俺の手を締め付けてくる。



『大丈夫だよ。花ちゃん。俺がしっかり守るから』

 


 安心してくれたのか、腕を締め付ける力が緩む。

 漆黒の外套の男は顎に手を当て、少し考えるような仕草をし「あの岩小鬼(出来損ない)の王種のか」と、小さく呟く声が聞こえた。



 やはりあの魔物災害(スタンピード)に関わっているようだ。



「貴方こそ、ここで何しているんですか? この部屋は一体なんですか? この間の魔物災害(スタンピード)について何か知ってることがあるんですか?」



「質問ばかりだな?」



 前方にいたはず漆黒の外套の男は黒い煙だけを残して消え、目の前には牛頭だけが鼻息荒く立っている。



 背後から声がする。眼は離してないはずだった。

 なのに見逃したという事実に背筋が凍るような思いになる。



「どうした? そんなに慌てて?」



 後ろを振り向いたときにはもういない。

 すでに牛頭の横に戻っていた。



 こいつはやばいな。

 まったく目で追えない。

 恐らくこいつと戦闘になったら今の俺じゃ勝てないかもしれない。

 花ちゃんが怖がってたのは牛頭じゃ無くて漆黒の外套の男の方だったのか。



「ここまで来た褒美だ。一つだけ貴様の質問に答えてやろう。私はここである実験をしていただけだ」



「ある実験? いったい何の……。その隣にいる動かない魔物と関係でもあるんですか?」



「質問に答えるのは一度だけだといったはずだが?」



 情報を聞き出そうとしたが、これ以上会話をしようとする気配ではない。



「私の実験は終了した。後は始めるだけだ。人間と魔族の戦争をな」



「戦争……?」



 そう言うと漆黒の外套の男は、その外套の下から太い注射器のようなものを取り出すと、隣にいた牛頭の太い首に突き刺した。



「今回の被験体は牛頭人だ。岩小鬼よりは役に立つことを祈ろう」



 赤い液体が徐々に牛頭人に注入されて行く。

 嫌な予感がし、止めようと咄嗟に《雷銃》と放つ。

 漆黒の外套の男は、勢いよく外套をはためかせ、俺の《雷銃》をはじく。

 瞬く間に赤い液体は全て注ぎ込まれ、空の容器だけが床にカラン、と落ちた。



「無詠唱魔法か。我ら魔族以外にも詠唱を必要としない魔法を使えるものがいるとは」



 嘘だろ!? 初めて《雷銃》防がれたぞ……。

 本日二回目の背筋が凍る思いだ。



「今回ってどういうことだ!? 岩小鬼だと? お前は今何をした!」



 再度質問するが魔族と名乗る男は一切答えようとしない。

 そうこうしている間にも、赤い液体を注ぎ込まれた牛頭人が苦しそうに「ブモオオオオォォオォォォオ」と、叫び声をあげ全身を掻き毟り始める。



 全身がボコボコと異様な音を上げ姿を変えて行く牛頭人を横目に、魔族の男の足元には紫に光る幾何学模様の魔法陣が現れ、その魔法陣の中に沈み込んで行く。

 漆黒の外套の男は外套の奥に見える赤い瞳をこちらに向けながら話しかけてくる。



「現界にも面白いやつがいるものだな。またどこかで会おう。まぁこの人造王種(パペットキング)を倒せたら、だがな」



 そう言い残すと漆黒の外套の男は魔法陣に沈み込んで消えていった。



 目の前に残るのはまさに怪物。

 4本の角を頭部に拵え、血走った眼でこちらを見据える牛頭人。

 その体躯は先ほどまでの牛頭人とは比較にならない程巨大で重厚な筋肉の要塞。



 巨木の幹のような腕に持たれた、その斧槍を一振りすれば放れた場所でも風圧と衝撃を感じる。

 あの不気味な威圧感を持つ魔族がいなくなったことに安堵しつつも、目の前の怪物との戦闘に臨戦態勢になる。



 今まさに、牛頭人王(ミノタウロスキング)との戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


 



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