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197話 静電気と魔物使いの少女③

お待たせしました。

 


 巨狼の動きが緩慢に感じる。

 雷化によって加速された思考と肉体は、少女が放った巨狼の、すべての面において遥かに凌駕していた。


 ──ガキン!!


 顔すれすれを、ナイフのように研ぎ澄まされた鋭利な牙が通り過ぎ、耳元で顎が噛み合わさる音が聞こえる。


 ゆっくりと宙を舞う涎を避け、生臭い息に呼吸を止める。


(遅い! これならいける!)


 重力に従って落ちて行く、巨狼の涎を視界の端に捉えながら、全身を雷光に変え移動する。


 ──バリッ!


 閃光、そして一瞬の浮遊感。


 雷と化した身体が空高く飛翔し、そして地面を撃つ。

 地面を焦がす、その0,1秒にも満たない高速移動は、紫色に輝く毛皮を持った巨狼の、黒く半月のような鋭い爪が振り抜かれるよりも早く背後を取った。


「ガウガウ!!!」


 少女が声を上げる。

 引き伸ばされた時間の中でも()()()()()()()()()少女の声。

 巨狼はその声に反応し、振り向きざまに爪の一閃。

 俺は遅々とした動きの腕を軽く避け、再度雷となりまたも狼の背後に移動する。


「さっきまでの威勢はどうした! 俺を殺すんじゃなかったのか!?」

「もちろん殺すけど?」

「ガウウウウ!!!!」


 ガウガウと呼ばれた魔物の苦戦は、まるで問題ないとでも言いたそうな様子で見守っている少女。


 先程の地面を凹ませた脚力といい、この落ち着きようといい、この少女も戦闘が出来ない訳ではなさそう。


 むしろ意外と短気な性格をしている癖に、こちらの様子を見ながら巨狼に指示を出すその姿は、手慣れているような気がして何とも不気味なものだ。


 この少女の本当の姿は魔物強くて、飼い主弱いというパターンの魔物使いでは無いはず。


 幾度と無く繰り出される、巨狼の攻撃を躱しながら少女の出方を伺う。

 もし本当に何か手段があるのであれば、必ず行動に移すはずだからだ。


(……しかし、タフな魔物だな。この犬っころ……)


 何度目の交差だろうか。

 繰り広げられている戦闘は、ノーチェが一度瞬きをする毎に数度繰り広げられ、蒼白い雷光と紫色の軌跡が幾度となく交わっている。


 加速した思考の中では、以前のような脳への負担は感じられない。俺は自身の肉体を完全に制御出来つつあった。


 しかし相対するガウガウという巨狼も大したものだ。

 始めほどの勢いがなくなってきたとはいえ、その繰り出される攻撃は依然鋭い。


 もしあの巨大な顎に噛みつかれでもしたら、はたまた鋭く弧を描いた黒く鋭利な爪に引き裂かれでもしたら……、上半身と下半身は間違いなく別れを告げることだろう。


 自身の結末を想像し、ブルリと身体が震える。

 これは恐怖か、それとも武者震いか。


 だがしかし。

 確実にわかっていることは一つ。




「──当たらなければどうって事はない!!」




 執拗に繰り出される巨狼の攻撃は全て避け切っている。

 しかも危なげなく、確実にだ。


 爪や牙を避ける際には、電撃を放ち反撃を繰り返していた。

 一瞬だけの放電になるため、そこまでの威力はないが、それでも放たれた電撃で地面が若干焦げる。


 それほどの威力だ。


 少女の動きを警戒しながらも、徐々に、徐々にと巨狼にダメージを蓄積させていった。




 ⌘




(どれ程の時間が経った……?)


 繰り返される戦闘は優に百回は超えたと思う。

 ハッハと、息苦しそうに首を上下させる巨狼の姿が、戦闘の凄まじさを物語っていた。


 ──バリバリッ!


 右腕に電力を集中させる。

 警戒していた少女からの、使い魔である巨狼への援護も無く、完全に警戒を解いていた俺は、


(やっぱり、俺を殺せる手段があるなんてハッタリか)


 とタカを括り、完全に攻撃へと意識を集中させていた。





 ──だから気が付かなかったのだ。




 地中へと張り巡らされた、少女の()()()()()()




 微かに地面が揺れる。




「!?」





 ゴオオオオォオオオオオオォオ!!!!





 地中から、まるで間欠泉のように水柱が上がり、俺の身体を一気に濡らしていった。


「おいおい、こんな水遊びじゃ子供だって死なね……!?」


 濡れた身体に不快感を感じながら、雷化し少女と距離を取ろうとした時、肉体に起きている異変に気がついた。


(雷化が出来ないだと!)


 気がついた時には既に遅く、ニヤリと口角を歪ませる少女の顔を見た瞬間、今までの鬱憤を晴らすかのような巨狼の爪撃が、俺の胸を引き裂くべく直ぐ其処まで迫っていた。


 突然の出来事に、冷静な判断力を奪われながらも、太陽鱏を倒した事によってレベルの上がった肉体が間一髪反応し、袈裟斬りのように振るわれた巨狼の爪は胸の薄皮一枚を引き裂いただけに留まった。


「グルルるる……」


 悔しそうに喉を鳴らす巨狼。


 雷化しなんとか距離を取ろうと試みるも、何故かうまくいかない。

 その間にも、身体にへばりついた水がまるで生き物のように蠢き、どんどん身体中を覆っていくではないか。


「クソッ! 何だこれ!! 水が払えない!!」


 払っても払っても纏わりついてくる水に悪戦苦闘する。

 雷化できない原因はこの水以外に考えられない。

 早く、早く取り払わなくては。


「ふふっ。焦ってる焦ってる。だから言ったじゃない。うちはあんたを殺せるって!」

「ぐはっ!!」


 水に気を取られた俺の腹部に、少女の岩のように変質した拳が深々と突き刺さった。

次回の更新は5月15日になります。

よろしくお願いいたします。

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