195話 静電気と魔物使いの少女①
戦場には昂ぶった冒険者たちの戦声が響き、血濡れた魔物たちの断末魔の声が木霊する。
数多の剣と爪が交差する夜の草原に、似つかわしくない容姿の少女が黒衣の男と共に佇んでいた。
「ねぇ、スウマー。あいつ何者なの? うちの可愛い魔物たちを黒焦げにしちゃうし、あのクソ雑魚勇者だって簡単にやられちゃうし、ちょームカつくんだけど!」
話を振られた黒衣の男は、苦虫を噛み潰したような顔で少女に返事をした。
「どういう訳か、今は亡き雷の精霊神とおなじ魔法を使う冒険者だ。お前の大好きなクルトはあいつに殺された」
「え!? クルト死んじゃったの!? じゃあもう苛められないじゃん! なんだかもっとムカついてきた」
「そうだ。文句はあいつにいう事だな。我輩は女王陛下のお相手をしなくてはならないのでな」
「じゃあ、このムカムカはあいつで晴らそーっと。ねぇスウマー、うちもあいつさっさと殺すからさ、あんたもあんなババァさっさと殺して、早く魔物の牧場を作ってよ! 丁度いい草原があるって言うから、わざわざうちのきゃわいい魔物たち連れて引っ越してきてるんだからさぁ〜」
目の前にいる少女が「あ〜本当にムカつく!」と言いながら、ズンズンと大股でこちらに歩み寄ってきた。
俺の周りをぐるぐると犬のように回ると、フンと鼻を鳴らし胡乱げな視線を向け、
「あんた、よくもうちの可愛い魔物たちを殺してくれたわね」
と、人差し指をビシッと突き上げ、下から見上げてくる。
良く良く見るとなかなかの美少女。
闇夜に輝く金色の頭髪に紅い瞳。
すらっとした四肢に、固そうな胸。
黒を基調とし、真紅のリボンが所々にあしらわれたワンピースは夜風に揺られ軽く靡いている。
俺はその力強い目をキリッと見返しながら、刺された人差し指をぱしっとはたき落した。
「お互い様だろ。お前たちだってこの国の王を殺したんだ。まさかやられる覚悟がなかったなんて言うんじゃないだろうな」
「はん、言うじゃないの。まぁ多少の被害は覚悟していたわ。だけどあんたの所為で、多少じゃなくてかなりの被害になってしまったから怒ってるんじゃない!」
「うるせぇクソガキ。お前の都合なんて知ったこっちゃねーよ。これ以上被害を増やしたくなければ、さっさとあの可愛い魔物たちを連れてお家に帰るんだな」
「ク、クソガキ!? クソガキですって!? うちは今年で三百二十一歳よ!」
「三百二十一? どう見てもクソガキだろ。その歳でまな板ぺったんこならもう成長は見込めないな。可哀想に……」
「キー!! 女は器量よ! 胸の大きさじゃないわ! 完っぜんにあったまきた! ぐっちゃぐちゃにしてやるんだからぁあああ!!!!!」
幼い自身の容姿を気にしていたのか、不機嫌になった少女が、小さな足を振り上げ地面を踏みつける。
ドゴォン!
すると踏みつけられた地面が衝撃と共に大きく凹み、小さなクレーターができた。
(おいおい……。あの容姿でパワーファイターかよ……)
「おいで! ガウガウ!」
「アオォォーーン!!!」
戦場から何処からともなく現れた、紫色の体毛をした巨大な狼が、グルルとその大きな牙を見せつけるように唸る。
「ガウガウはそんじょそこらの魔物とは一線を画す強さよ」
「隠し球って奴か」
「あんたなんかあっという間に噛み殺されちゃうんだから」
身の丈を超える大きな狼を見るとどうしても、『彼女を解き放て! 彼女は人間だ!』と叫びたくなるな。
これは日本人の性だ。きっとそう。
さて、こっちには物理攻撃は効かない訳だが、どうやって俺にダメージを与えていくつもりかねぇ。
さっきの袴田との戦いを見てなかったのかね。こいつは。
ちょっと短絡的でお馬鹿な性格なのかしら。
まぁそれはそれでやりやすそうだから、楽なんだけども。
「あんた、自分が無敵だなんて思ってないでしょうねぇ?」
「さっきの見てなかったのか? 俺には物理攻撃は効かねぇよ。精々そのわんちゃんのご自慢の牙と爪で八つ裂きにしてみるんだな」
「あんた、馬鹿ぁ?? 属性そのものであるはずの雷の精霊神が死んでるのよ?」
ケタケタと少女が笑った。
「つまり、あんたを殺す手段があるって事よ。精霊だって斬られるのよ?」
(まじかよ……)
その言葉に警戒し、相手の出方を伺っていると、いつのまにか隣に来ていたライアが忠告してくる。
「ベック気をつけろよ。そいつの言っていることは本当だ。その力は強大だが、過信しないほうがいい」
「まじで……。まぁなんとか頑張るよ。お前も気をつけろよ。絶対に生きて帰ってこい」
「お互いにな!!」
「俺っちもいるんだけど!? 他の魔物は近寄らせねぇから、安心して戦って良いぜ!」
「「助かる!!」」
「仲間だろ! 当たり前だぜ!!」
二人と一人はそれぞれ背中合わせになり、自身の戦場を見つめる。
それぞれの戦いが始まる。
次回更新は2019年5月9日になります。
宜しくお願い致します。




