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194話 静電気は癪に障る男

 

 後ろをついてきていたノーチェ、そして少し遅れて追いついたライアは目の前で起きている光景に目を疑った。


「「ベック!!!」」


 それはまさに一瞬の出来事だった。

 突如土煙が上がり、二人が気がついた時には、袴田の異形な腕と爪はベックの胸を貫いていた。


「友人をごんな゛がたぢで喪うのは残念ダ」


 寂しそうな声色で勇者が言った。

 ベックの胸を貫いている腕は、樹齢数十年は経過している大木の様に太く、歪で、鋭い。


 その勇者の凶腕がベックの胸部面積の大半を占めている。

 

 生命活動を行う上で大切な部分である肺や心臓といった臓器を失うという事は生物として致命的だった。


 誰もが最悪の事態を想定し、崩れ落ちるベックの姿が脳裏に浮かんだ。


 しかし、初めに違和感に気がついたのは、ベックの胸を貫いた張本人である、勇者アキラ=ハカマダだった。


(手応えがない……、それに何を笑っているんだこいつは……)


 魔物ですら、斬られ、殴られ、貫かれれば、その目に恐怖の色を浮かべ、その傷が致命的であれば、苦しみながら絶望の内に生き絶えてゆく。


 胸を貫かれて笑っていられる生物なんて、コア(弱点)を外れた軟体生物(スライム)(実際には顔がないので笑っているかは知らないが)くらいではないだろうか。


『友人をごんな゛がたぢで喪うのは残念ダ』


 これは俺の本心で言った言葉ではない。

 俺の知る限り、別宮洋也は生物的にそれほど強い生き物ではなかったはずだった。

 仕事はできたが、頼まれれば断れない性格、休日は家でゲームやアニメに没頭するインドア派で、女性に対しても奥手なまさに引きこもり体質といっていい男だったはずだった。


『"アンタッチャブル"別宮洋也に関わると、部長の機嫌が悪くなるぞ』


 社内でよく言われていた言葉だ。


 俺はあいつを馬鹿にしていた。いつもへらへらと笑い、へたくそな愛想笑いを振りまいているあいつを。

 あいつは社内では()()()()嫌われ者だった。部長の新入社員歓迎会をアニメが見たいという理由で断ったからだ。勿論部長の機嫌は言わずもがな。

 それからと言うもの、別宮に関わるととばっちりが飛んでくる、関わらないほうが身のため、と言うのが部長以外の社員の共通認識となっていった。


 だけど別宮洋也という男は、そんな事は一切気にした素振りも見せなかった。それどころか要領の良さからか仕事だけは出来た為、それ程部長以外の人間から受ける評価は悪い評価ではなかった。


 関わらなければと言う条件付きではあったけれども。


 そんな中俺は部長のご機嫌をとりながら、仕事だけは出来たあいつをうまく使い、甘い汁を吸う生活を続けていた。

 それでいいと思っていたし、しばらく続いたその関係に俺は満足していた。


 いつ頃からだっただろうか……、そんな俺より仕事ができたあいつに、なんとも言えない劣等感を抱くようになったのは。


ひょっとしたらどうでもいい事だったのかもしれない。

だけど、なぜか俺はその時、どうしようのない不安だけを感じていたのだ。


 その当てつけから俺はあいつが密かに思いを寄せていた、総務の岩瀬愛子を口説き落とした。


 俺があいつより優れていると証明するために。


 岩瀬愛子はチョロかった。

 おしゃれなバーで甘い言葉を囁けば、あっという間に俺の腕の中に収まった。


 あいつが思いを寄せている女を手に入れることで、俺があいつより上だということを証明したかった。


 完全にあいつは俺より低次元の生き物だと思い、心の底から見下していた。


 しかし今、その低次元だと思っていた男が俺の前に立ちはだかり、あまつさえ胸にぽっかりと穴が空いた状況で、俺に笑顔を向けているではないか。


(相変わらず癪に障る男だよ。お前は)


 その目の前にいる癪な男が口を開いた。


「誰を喪うって?」

「な゛ッ!? グガァッ!!」


 勇者袴田の身体がびくりと跳ねた。

 蒼白い雷光が腕を伝い勇者を襲った。

 その稲妻は勇者の全身を蛇のように這い、一気にその強靭な肉体を縛り上げた。


「ゾのへらへらした笑顔、アいがわラズ、ムガつく顔だ。ゴノ状況で、な゛んデ、生きていられる」


 痺れて体が動かないながらも、俺はムカつく男に悪態をついた。


「今の俺には物理攻撃は効かねぇ。全身が雷になったからな」

「ゼんしんガ、ガミナリ? ゾれじゃ、まるデ、あいヅらと一緒ジャないか」

「だからあいつらって誰だよ。勇者だろ? そんなもん跳ね返して見せればいいだろうが!」

「ジたさ!! な゛んどモ!! だガ、オれはまゲた!! あいづラにまゲだんだ!!!」


 なんとも言えない表情をしているかつての同僚。

 痺れて口以外動けない俺の代わりに、その別宮が数歩後ろに下がった。

 ずるりと腕が抜け、ぽっかりと穴が開いたままの胸が、チリチリと青白い火花を上げながら塞がる。


「じゃあやり返す相手が違うだろ。ただお前は逃げてるだけだ。いつもみたいにな」


 更に激しい電流が全身を貫いた。

 意識を手放す直前、かすかに聞いた同僚の声。

 その声が繰り返し脳内に響いた。




「しかたないな。お前の仕事、また俺が面倒見てやるよ」




 ほんとにお前はお人よしな男だよ。

 癪に障る男だ。

次回更新は5月6日(月)になります。

宜しくお願い致します。

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