189話 決意
崩れて壁のない王城の頂上には強い風が吹き、目の前にいる男の黒衣が風に煽られて乱れた。
その外套の下に見えるのは、病的なまでの蒼白い皮膚。骨と皮だけの痩せ細った身体。
目の前の男を形容するとしたら死神。
まさにその言葉がよく似合うと思えた。
「残るはお前一人だけだ。大人しく観念しろ」
異様な姿の男に対し、有利な立場になった俺は降伏を促す。
聞き入れないであろう事は分かっていたが、男の顔に若干の変化が現れたのが見て取れた。
ロッティーとフィーグーを《雷針》で麻痺させ魔力手で即座に回収した。もちろん麻痺が解けても動かせないよう、魔力を硬質化させ縛り上げる事で無力化済み。
これでこの場に残るは黒衣の男ただ一人だけなのだ。
操作系の魔法と言えど、肉体の自由を奪えるのであれば制圧は可能、どうやら黒衣の男は二人を操ろうとしているようだが、物理的に縛っている以上動かす事が出来ないらしい。
威嚇に努めバチバチと放電しつつ戦闘態勢を整える。
すると肉盾というアドバンテージを失い不利と感じたのか、余裕綽々だった黒衣の男の顔に薄い焦りが見え始めた。
「確かにこれは分が悪い。我輩も仲間と合流させてもらうとしよう」
黒衣の男が外套を翻し右手を上げる。すると男の足元には影よりも濃い漆黒の闇靄が一瞬で広がった。
その闇靄はまるで底無し沼のように、ズブズブと男の身体を飲み込んでいく。
静止しようと放電するも、闇靄が盾の様に立ち塞がり雷撃を吸い込んでしまった。
「待てっ! 逃げるつもりか!?」
「ふっ、そう慌てるな。折角の魔王様の居城になる建物だ。我輩がこれ以上壊すわけにはいかないからな。場所を移させてもらう」
闇靄に飲み込まれる直前、男は「城下町はいくら壊れても問題ないからな」と言い残し、その姿を闇へと隠して行った。
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黒衣の男が沈み、俺は即座に倒れていた騎士の治療を行った。
「私はなんて無力なのだ……」
「……」
騎士は俯き、打ち拉がれている。
かける言葉が見つからない俺は、何も言わずに花汁を飲ませ、回復したのを確認してから一礼してその場を去った。
早く黒衣の男を追いかけなくてはいけない。
《探知》を発動し、消えた男の所在を確認する。
(街の入り口にいるな……。まさかあの魔物の群も、全てあの男の支配下にあるのか? だとしたら厄介過ぎるぞ……)
既にノーチェやニエヴェ、ララたちと魔物の戦いは始まっていた。周囲にいる冒険者達が剣を振るい、何とか城門を抜かれないように魔物の群れを抑えている状況だ。
魔物が狭い門に雪崩れ込んでいるお陰で渋滞が発生し、一度に相手にしなくてはいけない魔物の数が少ない今の状況はこちらにとっては有利な状況であった。
だがそれも、飛竜のような城門を超えられる魔物がいた場合、形成は一気に逆転してしまうだろう。
「ライア、早く──」
「王女様……。申し訳ありません」
早く向かおうと声をかけようとした俺よりも先に、ライアが王女に向かって謝罪の言葉を口にすると、亡き王の胸に縋り付いていた王女ペルシアが、涙を拭いながら立ち上がった。
「いいえ、謝らないでください。私は貴女のお陰で生き延びる事ができました。私こそ御礼を言わなければなりません」
王女様は力強く前を向き、俺とライアをゆっくりと見据えると、「お二人ともありがとうございました」と、ゆっくりと、そして深く頭を下げた。
頭を下げた彼女の身体は小さく震え、零れ落ちた一雫の涙は床に小さなシミを作った。
女王は既に他界し、国王である父もこの世を去った。
長年生きていればそういう事もあるだろう。
しかしまだ二十歳にもなっていない、彼女にとってそれは早すぎる別れであった。
気丈に振る舞う王女。
小さく小刻みに揺れる、下げられた頭。
しかし短い哀しみを味わった次に再び顔を上げた彼女の目には力強い光が宿っていた。
先程まで目尻に溜めていた涙はそこには無く、眼下に広がる魔物の群れを見やるその双眸には、強い決意と責任感を感じる。
「私は父に言われたように……、私はこの国を……、民を守らなくてはなりません。ライア様、お力をお貸しください」
醜かった王女の姿はどこにも無い。
そこに居るのは、民を思い、民の為に行動する美しい女王だった。
延長申し訳ありませんでした。
まだ仕事が落ち着かない為、毎日投稿は出来なくなりそうです。二日に一回は投稿するつもりではありますのでお待ちいただければと思います。
次回更新は2019/04/22となります。宜しくお願い致します(´༎ຶོρ༎ຶོ`)




