18話 静電気と岩山の迷宮 ④
「何だこりゃあ」
思わず声が出してしまう。
崩れた岩をどかした先に見えたのはまさに地獄絵図。
奥行二十メートル、横幅十メートルほどの空間には、バラバラになった複数の岩小鬼の死体が無惨にも散らばっていた。
地面に散らばる岩小鬼の他には、頭目岩小鬼や魔導岩小鬼などの上位種の死骸も混ざっている事から、恐らく、この部屋のボスはこいつらだったのだろう。
しかし驚いたのは岩小鬼達の死に様だけではない。
本来ならばあるはずのない”四階層目”の階段がそこにはあったのだ。
(岩山の迷宮って三階層しかないって言ってたよな……)
俺が聞いていた岩山の迷宮の情報は三つ。
【一つ目】
迷宮内部の魔物は、岩小鬼しかいないこと。
【二つ目】
迷宮の内部は岩や鍾乳石でできた洞窟状であること。
【三つ目】
迷宮の階層は、全三階層の構成であること。
この三つだけの、比較的簡単で、何の旨味もない迷宮だったはずだ。
だが、迷宮の中に入ってみれば、魔物は小鬼だけではないし、目の前には明らかに洞窟にはないはずの、黒い光沢のある煉瓦のような石を、規則正しく丁寧に積み重ねて出来た石造りの階段がある。
そしてその階段を下りた先には、確実に三階層目よりさらに下の階層が存在するだろう。
(参ったなあ……)
『花ちゃん、どうする? 先進んでみる?』
『花ちゃんねーなんかねーいやなカンジがするのー』
『いやなカンジ? どういうこと?』
『下のほうにねーなにかいると思うー』
下? 階段を下りた先のことかな?
花ちゃんが今までこんなこと言ったことなかったな。
さっき戦った巨大な大蛇の時でさえ突っかかっていたのに、何を警戒しているんだろう。
昔読んだ漫画に、”冒険者は冒険してはいけない”ってフレーズがあってすごく好きだったんだけど、今まさにそういう状況なのかな……。
一応、依頼通り、三階層目までの魔物の駆逐と、異変の調査は終わっているからここで調査終了にして帰っても問題ないけども、どうしても未発見の階層って響きがすごく俺の中二心をくすぐる。
やっぱり俺も男の子だし、こういうのに興味持っちゃう年ごろなんだよね。
二十七歳のおっさんだけど。
(先っぽだけ! 先っぽだけだから!)
ちょっとくらい覗いてもいいよね。
『花ちゃん、ちょっとだけ見に行きたいんだけどいいかな?』
『花ちゃんはパパとずっと一緒だよー』
花ちゃんギザカワユス。
俺たちは期待と不安を半分半分に、一歩一歩足元を確かめるように階段を下りていく。
◇
「洞窟……じゃないな……」
階段を降りた先には、黒い鉄製の大きな扉があり、その扉を開けた先に見えるのは、洞窟ではない人の手で作られたような煉瓦造りの通路だった。
どういう原理かわからないが、この通路は灯りもないのに明るい。
「《探知》」
状況を確認するために《探知》を発動すると迷宮内の全容がわかってきた。
四階層目は通路と小部屋が集まってできた本格的な迷宮のようだ。
更に意識を集中すると、通路には落とし穴などのトラップ、小部屋には何やら大型の魔物などの反応がある。
この通路を進んだ先には曲がり角があり、どうやらそこに魔物がいるみたいだ。
『花ちゃん、少し進んでみるね』
花ちゃんはくるりと腕に蔓を巻き付けて返事をする。
通路に向かって歩を進めると、魔物もこちら側に向かって進んできているようだ。
しかし、こちらに気が付いている気配はない。
少し離れて待機し、曲がり角に現れたタイミングで《雷銃》を放つ。
ボンッという破裂音と共に魔物が四散する。
どうやら軟体系の魔物だったようで、通路のそこかしこには、ねっとりとした黒い半透明の液体がこびりついている。
四散した軟体生物の亡骸の中心には、親指の爪サイズの紫色の濁った石が落ちていた。
『花ちゃん、これって何かわかる?』
石を拾い上げて花ちゃんに見せながら尋ねる。
『魔魂石だよー』
『アルマストーン? それって経験値のこと?』
『けいけんちー? 花ちゃんわからないー』
そういえば今まで倒して来た魔物は、岩小鬼とかばっかで利用価値がないから、討伐部位の耳だけ切り取ってそのまま放置してたから知らなかったな。もしかしたらなにか価値のあるものなのかも。
『魔魂石はねー、死んじゃうと綺麗じゃなくなるのー』
綺麗じゃなくなる? さっきの石は濁ってたし、魔魂石っていうくらいだ。
何か魔力や魂的なものを貯めておく為のものなのかな。取り敢えず拾っておくか。
魔魂石をマジックバッグに突っ込み、トラップを避けながら迷宮の奥へ奥へと先を進む。
四階層目の通路には黒い軟体生物や岩小鬼、部屋と呼べるような空間には二階層目で戦闘した大蛇などがいたが、慣れたもので苦も無く倒していく。
「ふぅ……。それにしても三層目までとはえらい違いだな」
どうやらこの四層目の迷宮内部で死んだ魔物は、三層目までとは違い、黒い通路の壁に吸収されるようで、吸収された後に残るのは魔魂石と体の一部だけのようだ。
その後も魔物を倒しながら四階層目を探索していく。
《探知》でマッピングをしながら探索すると、遂に最後の部屋にたどり着いた。
二階層目や三階層目と違うのは最後の部屋に入るのに、扉を開けて入らないといけないということだ。
恐らく、ここには二階層目の大蛇のようなボスと呼ばれる強大な魔物がいるはず……。
『パパ、ここに怖いのがいるよ』
扉の前につくなり花ちゃんが俺に警告してくる。
恐怖からなのか花ちゃんの蔓が痛いくらいにギュッと力強く俺の右腕を締め付ける。
その痛みに思わず顔を顰めてしまう。
『大丈夫。危なくなったらすぐ逃げよう』
冒険に危険はつきものだ。
名を挙げるなら、こんな所で逃げ出すわけにはいかない。目標のためにも避けては通れない道だ。
重厚な両開きの扉を、緊張しながらも、力強く押し開ける。
目の前に現れたのは、巨大な斧槍を持った体長四メートル程の牛頭の魔物。
その傍らに佇むのは、黒い外套を纏った不気味なナニカだった。




