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188話

 


 王城の最も背の高い塔に、蒼白い稲妻が落ちた。

 それは戦局が変わる一撃となり、事態を大きく急変させた。


「遅いぞ。馬鹿たれが」


 片膝を付き、肩で息をするライア。

 艶のある綺麗な黒髪が汗で顔にへばり付き乱れている。

 かなり息苦しそうだ。


「おわっ! お前……傷だらけじゃねーか。ちっと待ってろ。今、花汁ぶっかけてやるからな」

「すまない。ありがとう……」


 ライアの身体は傷だらけだった。

 着ていた衣服は破れ至る所に赤い線が入り、その痛々しい傷口からは赤い血が滴っている。

 魔族の血も赤色なんだなと、変なことを思いながら神様が気を利かせて回収しておいてくれた、腰に下げているマジックバッグから花汁を取り出しライアにかける。


 傷だらけだったライアの身体は、あっという間に元の綺麗な肌へと治っていった。


 一安心した俺は一定の視線を敵に向けつつ周囲を確認する。


 横目に入る国王はピクリとも動かず、ペルシアは血溜まりに沈むその胸に抱きつき啜り泣いている。周囲にはまだ息のある倒れた騎士と首のない騎士。そして俺とライアを除く、見覚えの人物を含めた四人がこの場に立っている。


 《探知》を発動すると、城のあちこちには人の様な物体が倒れており、その大半は死んでいるようだ。


(くそッ、間に合わなかったか……)


 王に縋り付くペルシアを見ると胸が締め付けられる。

 もう少し早く来ていれば……、助けられたかもしれない。

 そんな俺の気持ちを察してか、ライアが俺の右手を握り首を左右に振った。

 それはまるで「お前のせいじゃない」と慰めてくれているようだった。続け様にライアが状況を整理するように話しかけてくる。


「ベック、状況は見ての通り劣勢だ……。王が死に、どういう訳か勇者は魔族側に付いている」


 なるほど、神様が言っていたのはそういう事だったか。


「花ちゃんやノーチェ達は無事か? まぁあいつらならそうそうくたばる事はないと思うけど」


「ノーチェやニエヴェ、そしてララは正面門で勇者と睨み合っている。だがそれももう間も無く崩れるぞ。直ぐそこまで魔物の大群が迫ってる」


「花ちゃんはどうした?」


「……花子は半年前から行方不明だ」


「はぁ!? どういう事だよ! それ!」


「私達にもわからない。突然、何も言わずに居なくなったんだ」


 突然居なくなったって家出娘かよ。

 やだぞ、急に子供連れて帰ってきたら。

 間違いなく父親ぶっ殺すわ。

 指先から徐々に炭化させてやる。


「何だよそれ。反抗期か? じゃあさっさとこいつらぶっ飛ばして花ちゃん探しに行かないとな」


 賢者のおっさんも一緒だから、問題はないと思うが。


「ぶっ飛ばすって……。確かにそうだが、奴は強い。お前一人では無理だ! 私も一緒に──」


 ライアは立ち上がろうと足に力を込める。

 しかしその力も無いのか、細い脚は震え立ち上がる事ができない。


「そんなこと言ったって、ぷるぷる足が震えてるじゃん」


「すまない……。連戦に次ぐ連戦、それに複数人で転移したせいで魔力が……」


 疲労からか、産まれたての子羊の様に足を震わせるライアを宥め、黒衣の男に向き直す。


「後は俺に任せてくれ」


 岩山の迷宮で会った時以来数ヶ月振りに見る、寒気のする冷たい目つき。以前は手も足も出なかったこの敵と、どの位力の差が埋まっているかわからない。しかし不思議と恐怖心はなく、唯々仲間を傷つけられた事に対する、腹の奥底から湧いてくるような怒りが俺を支配しようとしていた。


 その気持ちに水を刺すように、銀髪に黒い肌の男が前に出る。


「ぷっ、“後は俺に任せてくれ”、だってよ。かー、かっこいいなあんた! だが状況がわかってねぇみたいだ。誰に任せようがお前らは死ぬんだよ!」


 強い魔力を感じる。かなりの手練れだ。

 だが、俺の相手ではない。

 それだけは何となくだが感覚でわかった。


「そこに倒れている騎士や王様はお前がやったのか?」

「だったらどうしたってんだ? 王一人守れない愚鈍な騎士がいてもしょうがねぇから、俺がお前らの為に間引いてやったのさ!」

「そうか……じゃあお前、俺の敵だな」

「敵だと!? 人間風情じゃダークエルフである俺の相手にはなんねぇよ!! 調子に乗ってんじゃね──」


 名も知らないダークエルフが右手を前に出そうと動いた瞬間──、


 蒼白い閃光がダークエルフを貫いた。

 それは一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。

 その怒りの一撃は、悲鳴を上げさせる間も無くダークエルフを炭屑に変え、黒焦げになった身体は風に吹かれて崩れていった。


 雷鳴が遅れて空に響く。


「仲間を傷つける奴は容赦しねぇ」

「魔力適性の高いダークエルフを一撃だと!? ベックお前一体……」


 ライアは驚きのあまり目を白黒させる。

 本来魔力の高い種族は魔法に対する抵抗力が高い。

 エルフと魔族の混血である、高い魔力適性を持つダークエルフはその抵抗力も高い。なのにも関わらずその身体を一瞬で炭に変えるような火力。


 そんな事ができるのは、意思を持った魔力の塊とも言える精霊のような存在でもないと不可能。しかも精霊の中でもこれ程の威力の魔法はなかなか居ない。居たとしても高位の精霊、それも精霊神に近いような存在でないとあり得ない事だった。


 今まで眉ひとつ動かさなかった黒衣の男が口を開いた。


「貴様……その力どこで手に入れた」

「答える義理はねぇ。もちろん義務もな。王様を殺したはお前か?」

「そうか……人族には不釣り合いな力だ」

「質問に答えろ。王様を殺したのはお前かって聞いてんだよ」

「だったらどうする? 我輩を殺してみるか? そのダークエルフのように」


 ふらふらと覚束ない足取りで二つの人影が間に入る。

 俺もよく知る二人は共に眼の焦点が合っていない。

 その虚ろな瞳はぼんやりと宙を彷徨っている。


「ベック! ロッティーとフィーグーは操られている! 解放するにはスウマーを倒すほかない!」


 コイツ、二人を盾にするつもりか。

 くそ……卑怯な奴め。

 取り敢えず二人を解放させてからだな。

 どうする……? 無力化させるだけなら何とかなるか?

 再燃しそうな怒りを抑えるように深呼吸する。


「二人を解放しろ。さもないとお前を殺す」

「お前を殺す、か。随分と大きくでたな。この状況がわからないのか? この二人は盾であり人質だ」

「わからねぇ奴だな。お前は仲間を傷つけた。俺は仲間を傷つける奴を許さない。ただそれだけだ」

「先に手を出してきたのは貴様ら人族だろう。自分の事を棚に上げ、よくもまぁ抜け抜けとふざけた事を抜かせるものだな」

「何言ってんだお前。俺はお前に何かした事ないぞ。寧ろ牛頭人王の時といい被害者側だってんだ」

「詭弁だな。我輩は全ての人族に罪を償わせる。そのちっぽけな命を代償としてな!!!」


 赤い眼が怪しく光る。

 それに同調する様に、操られている二人が襲い掛かってきた。

 しかしその動きは緩慢に見えた。

 俺は冷静に指先を二人に向けて魔法を打ち込む。


(二人ともすまん。ちょっと痺れるかもしれないが、我慢してくれ……)


 二人はビクリと一瞬だけ身体を跳ねさせ前のめりに倒れる。


「くっ、雷属性とはなんと厄介な!」


 俺は二人に向けて対人用制圧魔法である《雷針》を打ち込み、その身体の自由を奪った。《雷針》は電撃針を放ちスタンガンの様に身体を麻痺させ一時的に戦闘不能にさせる魔法だ。


「ライア! 二人を頼む!」

「こ、こらっ! 人を投げるんじゃ無い!」


 倒れた二人を《魔力手》で掴み、すかさずライアの方へ放り投げた。麻痺させる事に成功はしたものの、依然二人は正気には戻っていない。完全に解放するにはやはり目の前の男を倒す必要がある様だ。


 これで残るは元凶である男ただ一人。


「残るはお前一人だけだ。大人しく観念しろ」

「確かにこれは分が悪い。我輩も仲間と合流させてもらうとしよう」


 黒衣の男は影の中に消えていった。




すいません。ちょっと仕事が忙しい為、次回の更新は2019/04/17になります。


追記:4/16 23:32 すいません。次回更新2019/04/20まで延長させてください。

全く書く時間がありません(´༎ຶོρ༎ຶོ`)


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