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187話 再会

 

 王の胸をスウマーの闇魔法が貫いた。


「予定より早いが、これで精算とさせて頂こう」


 スウマーの放った漆黒の棘は王の心臓を貫き、背中まで突き出たその棘先からは、真っ赤な鮮血が滴り落ちている。


「ご……ふッ……」


 吐血しながら崩れ落ちる王。


「イヤアァアァアァ!! お父様!!!」

「陛下あああああああ!!!!」

「スウマー! 貴様!」


 伏した地面には血溜まりが出来てゆく。


「余所見とは随分余裕だな!」

「くっ!」


 王へと駆け寄ろうとするユーリに、

 言霊から解放されたクルトが襲いかかった。


「邪魔をするな!」

「騎士なら守ってみせろ!」


 クルトとユーリが死合う。

 お互い、腰に下げた剣を引き抜き、ガキンと鍔を寄せ合う。

 金属音を響かせ、一合、また一合と火花を散らせながら、まるで舞うように剣を打ち合わせていく。


「ライア殿ッ! 王とペルシア様を頼む!」

「他人の心配より、自分の心配をするんだな! 雑魚が!」

「クッ、ぐぁッ!」


 二人の剣舞は続く。






「くっ……これは……」


 ライアは急いで王に駆け寄る。

 傷は深い、深いどころか穴がぽっかりと空いている。

 庭で採れたミニ花子の汁をかけるが反応が悪い。


「もう……いい、儂……は助からん」

「グスッ……お父様! ペルシアを置いて逝かないでください!」


 ペルシアが泣きながら王の手を握る。

 ……やはり胸の傷の治りが遅い。

 そもそもこの劣化花汁で臓器の回復は可能なのか……?

 嫌な汗が額を流れる。


「我輩は的確に奴の心臓を貫いた。助かる筈がない」


 スウマーのその言葉通り、王の顔が蒼白くなりどんどん血色を失っていった。

 焦点の定まらない目、呼吸が浅くなりながらも王は口を開く。


「儂はこの国の平和の為……、全身全霊を賭して統治をしてきたつもりだ……」

「王よ! それ以上喋るな!」

「ライア殿……。先祖がした事とはいえ、申し訳なかった……。死にゆく儂の……、儂の命一つで許してもらえないだろうか。そして、願わくばこの国を救って貰えないだろうか……」


 王の瞳から涙がこぼれた。

 もはや何も感じていないのか、その身体は力無く横たわっている。


「お父様……。お父様が居なくなったら、私はどうすればいいのですか……」

「儂の可愛いペルシアよ……。お前はこの国を導け……。全ての民が幸せを感じられる国を……お前の……手……で……」


 ペルシアが握っていた王の手が力無く落ちる。

 瞳孔は散大し、身体から精気が抜け落ちた。


「お父様ぁぁぁぁぁ!!!!」


 フォレスターレ王国、第21代国王オージ=フォレスターレは静かにこの世を去った。





「これで満足か! スウマー!」


 感情のない顔で見つめていたスウマーに問いかける。


「満足……? これが始まりだ。この国は無くなるのだよ。見てみろ、外の光景を」


 正門の前には千を超える魔物の大群と、見覚えのある魔族、そして変わり果てた姿の勇者アキラ=ハカマダの姿があった。


 それに相対するように立ち塞がっているのは、屋敷妖精のララ、仲間である兎兄妹ノーチェとニエヴェ、冒険者ギルドの受付嬢であるサラ、その肩を借りているグランドマスターのピッタ、そして武器を掲げ自身を鼓舞する数十人の冒険者たちだった。


 それは圧倒的な戦力差だった。

 あの魔物達の身体から立ち昇る黒いオーラ。

 間違いなくあの千の魔物は全てが王種なのだろう。

 質だけでなく、数ですら確実に負けている。

 状況は絶望的だった。


 此方の状況もすこぶる悪い。

 この場で戦えるのは王宮騎士団長であるユーリと私だけだ。しかしそのユーリは、ダークエルフであるクルトという男との戦闘で押されており、共闘は期待できない。


 こっちの危機的状況とはうって変わって、賊であるスウマー側の戦力は、未だに動かない不気味な二人を入れると四人。

 その不気味な二人からも、並々ならぬ脅威を感じている。

 個々の戦力的にも、人数的にも外と同じように圧倒的不利な状況に立たされていた。


「私の仲間が、貴様の群勢相手に立ち塞がっているようだな」


 焦る気持ちを抑えつつ、必死に虚勢を張ってみせる。


「立ち塞がる? 死ぬ順番を待っているの間違いだろう。今日、この国は、滅びるのだ。そして新たに魔族の国を立ち上げ、全世界に宣戦布告する! 魔王が復活し、この世界を支配する時が来たとな!!」

「スウマー、貴様、自身が魔王にでもなったつもりなのか?」

「我輩が魔王だと……? 笑わせるな、裏切り者よ。畏れ多くも我輩が魔王を名乗ることなどあり得ぬ」

「では誰が魔王だと言うのだ。よもやその後ろにいる二人のうちのどちらかだと言うまいな」

「はて、この者に見覚えがないと言うのか?」

「さてな。顔も見えなければ姿も見えん。これでは判断のしようがない」

「だ、そうだぞ、貴様らその黒衣を脱いで顔を見せてやってはどうだ?」


 脱ぎ捨てられた黒衣の奥に見える顔は、ライアが良く知る人物であった。


 一人は魔法学校で教頭をしているはずの我が孫。

 もう一人は王都の地下で魔工具を弄っていた魔族であった。


「ロッティー、フィーグー……何故、お前がそちら側に付いている! スウマー! 貴様、二人に何をした!!」


 ロッティーの目には光がなく虚ろで、意思がないかのようだ。

 ダランと力が抜け、操り人形のように佇んでいる。


「ロッティー! 返事をしろ!」

「無駄だ。こいつらに意思はない」

「二人に何をした!」

「この二人には私の血が流れている。忘れたか? 私の魔法を」


 床に滲んでいた血液が、スウマーの身体へと戻っていく。


「そうか……、操血魔法ッ! 強固な結界をいとも容易く破壊したのはフィーグーを操っていたからか!」

「その通りだ。フィーグーに造王薬を飲ませるのには苦労したがな」


 スウマーは魔族にしては珍しく、魔法の基本属性を闇しか持たない。しかしだからこそ、そのスウマーだけが持ち得る生来の特殊な魔法の属性があった。それが操血。


 魔力で血液を操り、自在に操る。

 操れる範囲は自身の血液だけだが、その血液を操ることで驚異的な回復や、身体能力を得る特殊な魔法だ。


 造王薬はスウマーの血液を使い作られている。経口摂取してしまった事により操り人形と化してしまったのだろう。何故そこに気が付かなかったと、過去の自分を張り倒したくなった。


「思い出したか。既にこの二人は我輩の傀儡、貴様は信じた仲間に殺されるのだよ!」

「ロッティー! フィーグー! 眼を覚ますんだ!!」

「無駄だと言ってるのがわからないのか!! ロッティー! 貴様の手で祖母を始末するんだ!」


 ロッティーの身体から魔力が溢れ出す。

 ベックと戦った時より遥かに力強く、そして遥かに素早く魔法を発動させる。


「ハアァアアァアアア……」


 闇魔法のダークニードルが迫る。

 その百を超える棘の弾幕が容赦なくライアを穿つ。

 暗闇の中、そこら中に影があるこの状況は闇魔法にとって都合が良く、魔法の威力が昼間より段違いの威力だった。


「ロッティーよ、眼を覚ますんだ!」


 声を掛けつつガイアウォールで闇魔法を防ぐ。

 しかしロッティーの眼は未だ虚ろで、声に反応する事はない。


「フィーグー! 貴様も行け!」


 フィーグーが筒状の魔工具を取り出した。


(あれはこの間出土した魔工具か……)


 直後──、


 筒状の魔工具から魔力の塊が放出され、ライアの胴体を捉えた。


「ぐはっ!」

「おねぇ様!」

「どうした! ライア=マノス! 貴女の力はそんなものか!」


 ライアには二人を傷つける事ができない。

 二人の猛攻を何とか防ぐものの、熾烈な攻撃を前に防戦一方のライアの傷が徐々に増えてゆく。


 騎士団長のユーリはいつのまにか地に伏し、ダークエルフのクルトはスウマーの指示を待っているようだ。

 これで形成は完全にスウマーに傾いた。


「これで残るは、裏切り者と憎っくき国王の娘のみ。どうですか? 貴女がこちらに着けば命は助けましょう。まぁそこにいる小娘には死んでもらいますが」

「誰が貴様のいう事なぞ聴くか!」

「仕方ない。それでは残念ですが、貴女にも死んで貰います」


「やれ」という言葉でロッティーとフィーグー、そしてクルトが攻撃を放った。


(仲間を攻撃するくらいなら死んだ方がまし……)


「ごめんなさい。ペルシア様……」


 空に眼を向けると、雨雲の中に光が見え、そしてそれは目の前に降り注いだ。


ドコォォオオォオオン!!


 雷が落ち、襲いかかろうとしていた三人を吹き飛ばす。


「「「!?」」」


 激しい光と轟音、そして雷鳴と共に訪れた男。

 それは半年振りの再会だった。


「すまん。待たせた!」

「遅いぞ。馬鹿たれが」


 待ち焦がれた男がそこにいた。


次回の更新は2019/04/14になります。

宜しくお願いします。

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