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183話 敗北

 


「おいおい、何だこりゃあ……」

「なんで勇者と英雄が戦っているんだ!?」

「わからねぇ、わからねぇが、この騒ぎの犯人は勇者なのか!?」

「これじゃあどっちを狙えばいいかわからねぇじゃねぇか!」

「バカ言え! どうやってこんな戦いの間に入るんだよ!」

「ますたぁ〜……。どうかご無事で……」


 正門前は騒然としていた。

 冒険者ギルド、受付嬢のサラによって集められた冒険者たちは、目の前の光景に呆然と立ち尽くし、その光景を見守る事しか出来なかった。


 いや実際には見守る、いや、視界に捉えることすら出来ない。

 剣を打ち合う際に一瞬だけ止まる、唯その時だけが二人の存在を確認することの出来る機会だった。

 サラに至っては目を瞑り、手を組みひたすら神に祈りを捧げていた。



 それは何故か──、



「「うおおおぉぉおぉああ!!!」」


「ピッタああああああああ!!」

「アキラああああああああ!!」



 剣と剣が交差する。

 質量が違うからか、一合、また一合と、打ち合うたびに打ち勝つのは、身の丈程の大剣をまるで棒切れのように軽々と振り抜く、二メートルを超える身長の大男、アキラ=ハカマダ。



 

          ──    ギィン!


     ──  ギィン!  ──


             ギィン!    ──


   ──  ギィン!




 押されているのは、緑色の長髪をはためかせながら速さを武器に戦うすべての冒険者ギルドの頂点に立つ男、ピッタアラックス。


 勇者と英雄。


 淡い残像を残しながら交戦する二人の戦いは、もはや異次元の戦いだった。火花を散らし、地面を削り、家屋を破壊しながら戦闘は続く。


 目で追うことのできる冒険者はこの場にはいなかった。


「ハッはぁ!! 楽しいなピッタ!!」

「その無駄口、すぐに叩けなくしてやる」

「ギャラリーも増えてきた! お前が地面に転がるところを此奴らに見せてやるゼェ!!!」


 不自然に盛り上がった筋肉が弾ける。

 踏み込んだ一歩は地面を抉り、勢いそのままに大剣を振りかぶる。


「ぜあぁぁああぁ!!!」


 空を切った大剣が石畳の地面を砕く。


「「「「「うわぁあぁあぁあ!!!」」」」」


 砕いた地面が爆風と共に周囲にビシビシと散らばり、ぼけっと突っ立ている冒険者たちの身体を叩いた。


(どう言う事だぁ……?)


 アキラは先程まで打ち合っていた、ピッタとの剣が合わなくなってきていた事に疑問を感じ始めていた。


 ピッタは回避に専念しているのか、打ち合う事もなく、ひらり、ひらりと木の葉のように宙を舞う。


(風……?)


 自分が動いた事による風切り音では無い。

 明らかに違う、身体の動きとは別の空気の流れが出来ていた。


「どうしたアキラ。遅くなっているぞ」


 ピッタが更に加速した。

 まるで味方する様に周りに吹き荒れるその風は、細いピッタの背中を力強く押す。


「エアリアル・ハイ!!!」


 ピッタが練り上げた魔力を、詠唱と共に解放する。

 緑色の風となったピッタを、最早アキラは目で追うことすら出来ていない。


「あの時の力か!」


 風が横を通り過ぎる度、その鋼の様な筋肉が斬り裂かれ、地面を赤く濡らして行く。


「クソがああああ!! ちょこまかとハエの様に飛びやがってええええ!!!」


 血まみれになりながらも巨大な剣を振るその姿は獣の様だ。


 しかし次々と迫り来る剣戟に──、


 アキラは遂に膝をついた。



「ハァハァ……」



 息も絶え絶えの様子で崩れ落ちたアキラだが、その瞳に宿した焔がまだ消えていない事にピッタは気がついた。


「はぁ、ッちくしょう。これだけは使いたくなかったんだがな」


 アキラは決心した様な顔で呟いた。


 身体強化魔法で異様に発達したその肉体に対して、腰にぶら下げていた余りにも小さなバッグに指先を入れると、赤い液体に入った瓶を取り出し、アキラは一気に煽った。




「ぐおおおぉおおぉぉおおおお!!!!」




 するとバキバキと全身の骨が砕ける様な音と共に、鎧の様であった筋肉が更に隆起する。


 不自然なまでに光沢のある黒光りした皮膚を、その下にみっちりと詰まった筋肉が押し上げた。


 発達した筋繊維の一本一本が目に見えるようなると、それはもう人ではなく筋肉の塊にしか見えなかった。

 その身体からは黒いオーラが溢れ出ている。


(報告のあった造王薬か)


「化け物だ……!」

「あんなのもう人間じゃねぇ……」


 いつのまにか集まっていた周囲の冒険者から悲鳴が上がった。


「ハァハァ、アイツの力を借りるのは癪だが、アキラ百二十パーセントてところか……。行くぞ──」

「グ!?」






 決着は一瞬だった。






「「「「「マスターーー!!!!」」」」」


 吹き飛ばされたピッタの身体は、正門を木っ端微塵にしながら突き破り、街の外へと放り出された。


 ピクリとも動かないこの街の最高戦力。

 冒険者たちの顔が恐怖に引き攣った瞬間──、


「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 余りにも変わってしまった勇者が吠える。

 その雄叫びに呼応する様に空に巨大な火球が打ち上がった。



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