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180話 英雄と勇者

 


 執務室で書類に印を押していた冒険者ギルドのグランドマスターであるピッタ=アラックスは、カタカタと小刻みに揺れる小さな地震の様な振動に気がついた。


「地震……か?」


 その小さな揺れは次第に大きくなり、バキィンと言う何かが砕ける音が王都中に響き渡った。


「ッ! サラ! 緊急事態だ!!」


 執務室を飛び出し、人の少なくなったカウンターに突っ伏していたサラに冒険者の緊急招集を出すように指示する。


「ますたぁ? 何かありましたかぁ?」


 眠そうな眼を擦りながらサラが顔を上げる。


「結界が破られた。何者かは分からんが敵が攻めてくるぞ」


 ピッタがそう言うと、一瞬で目つきの変わったサラは各方面に指示を出し始めた。


「外を見てくる! 招集を急がせろ!」

「はいッ!」


 眠そうにする受付嬢の姿はそこにはもうなかった。





 ⌘





「何故こんなにも静かなんだ……?」


 結界が破られてから数分しか経っていない。


 恐らく王宮にいる騎士達も、結界が破壊されたこの事態に気がついているはず。だが距離からしてまだここまで到着するには時間がかかるだろう。


 今は真夜中、街唯一の入り口である正面の大門は固く閉じられている。これはいつもの事だ。基本的に夜中に街に入ってくる様な旅人や商人は滅多にいない。いたとしても正面門の横についている潜戸を使い街へと入る事になる。


(門番は居ないのか? それとも詰所の中にいるのか?)


 潜戸周辺にそれらしき人物が立っている事は確認できない。

 しかし少し離れているにしてもこの静けさは異常だ。

 周囲に人の気配はなく、声も一切聞こえない。

 常駐しているはずの衛兵達の姿が何処に見当たらないでは無いか。国の一大事だと言うのにどう言うことか。


 先程までの地鳴りの様な揺れも息を潜め、異様な静けさが辺りを包み込んでいた。


「誰かいないか!?」


 大門横に設置してある詰所に向かって声をかける。


 ……反応が無い。






 キィ──、ヒュッ。


 ゴロゴロゴロ。







 詰所の扉が開き、中から丸いものが地面に転がった。

 それは苦悶の表情を浮かべる衛兵長ミハールの生首だった。


「ミハール……」


 生首に続いて黒いローブの集団が詰所から出てくる。

 その中の一人が声をかけてきた。


「よぉ〜、ピッタ。久し振りだなぁ」


 その男の事をピッタはよく知っていた。

 この国の最高戦力の一人、勇者と呼ばれている男だ。


「結界を破ったのはお前か? アキラ」

「だとしたらなんだよ? どうでも良いだろそんな事」

「何故だ。勇者であるお前が何故王都を襲う。半年間も何をしていたんだ!」

「何故ってそりゃあ──」


 勇者アキラ=ハカマダとの会話を遮る様に、赤い眼の男が間に入る。アキラから以前とは比べ物にならない強い魔力をビシビシと感じるが、この男はそのアキラよりも遥かに巨大な力を感じる。


 ピッタの頰に一筋、冷たい汗が流れる。

 この二人の背後にいる黒いローブ達からもアキラと同等かそれ以上の力を感じているからだ。しかもその中には赤眼以上の力を持つ者もいるでは無いか。

 間違いなく、一人では止める事ができない。


「アキラ、感動の再会を邪魔して悪いが時間が勿体無い」

「あぁ、そうだったな。こいつは俺にやらせてくれ」

「……さっさと片付けろ。先に城に向かうぞ」


 赤眼の男の足元に黒い渦が発生し、アキラを残して集団を沈み込んでいく。


「クッ! 行かせるか!!!!」

「おっと、そうはさせねぇよ」


 ガキィン!

 剣と剣が交差し、周囲に火花が散る。


「半年間の間で俺の価値観は変わっちまったのさ」

「国を裏切ると言うのかッ!」

「俺の元いた世界にはな、長いものには巻かれろって言う諺があるんだよ」


 鍔迫り合いをしながらも会話は続く。


「俺は自分に正直なだけさッ──身体強化ぁああ!!!」


 アキラの肉体が不自然に盛り上がる。

 今まで拮抗していた力関係が崩れた。


「グッ」

「どうしたピッタ! そんなものか!」


 横腹に蹴りを入れて距離を取る。


「蹴りなんて痛くも痒くもねぇぞ!」

「ハァッハァッ。力比べは趣味じゃ無い──、今度はこちらから行くぞ」


 アキラの眼の前からピッタがかき消える。

 一瞬、月明かりが消え、地面に影が訪れる。


(速い……! 上か!)


 アキラが上空に眼を向ける。

 既にそこにピッタの姿はない。


「下だよ」

「ぐあっ!」


 ドゴオオオオン!


 腹部に斬撃を受けたアキラが正門に叩きつけられる。


「相変わらず馬鹿速えな!」

「貴様が遅いだけだ」

「だが軽いぞ!! 身体強化ぁあ!!!」


 身体が更に強化される。

 内から溢れる筋肉に耐えきれず、バキバキと軋みを挙げて亀裂の入る白銀の騎士鎧。


「アキラ百パーセントぉぉぉぉおおお!!!!!」


 異様な程発達した筋肉。


「力だけ強くなっても勝てんぞ!!」


 地面を蹴り疾駆する。

 あの膨れ上がった筋肉で速く動ける筈がない。

 ピッタは近づいた時のカウンター狙いだろうと考えていた。

 殺しても構わない、そのつもりで首筋に剣を閃かせた。


「!?」


 目の前からアキラが消える。


「何処見てんだよ?」


 うぉら!と言う声と同時に背中に衝撃を感じる。

 視界が回転する。

 地面に叩きつけられながら高速で吹き飛ばされた。

 その体は正面門に叩きつけられ、先程とは立場が逆転した。


 ピッタは驚愕した。

 速さで自分が負けるとは思っても見なかったからだ。


「ガハッ……」

「どうしたんだよ。英雄さんよぉ〜」


 身の丈ほどの大剣を引きずりながら近ずいてくるアキラ。


 身体を起こし目を向けると、見上げるアキラの背後に雨雲が見える。


 ピッタは立ち上がり剣を構える。

 久し振りに血湧き肉踊る戦いができそうな事に心躍らせていた。


 思わず口元がニヤリと緩む。


 伝説の英雄ピッタ=アラックス。

 数百年前に起きた人魔戦争にて数多の魔族を屠ってきた人族の英雄。

 その本質は、戦闘狂のサディストだ。

次回更新は2019/04/04になります。

宜しくお願い致します(*^ω^*)

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