178話 決着
視線の先に鎮座しているのは黒い岩山。
「「ライアさん!!」」
通常のロックリザードと一線を画すその風貌と威圧感は、二人の胸に最大限の警戒の念慮を湧き立たせた。
漆黒の甲殻が幾重にも重なり合う事で特徴的な木目状の模様を創り出している。岩というより金属の様なその甲殻は、太い脚が一歩踏み出す度に軋み、金属を擦り合わせる嫌な音を響かせた。
その岩山のような姿は、五メートル級の大型のロックリザードがまるで赤子の様なサイズに見える程巨大なものだ。
体高は約二倍の九メートル、体長は十七、八メートルはありそうだ。ワニの様な大きな顎からは白く鋭い牙が覗き、地面を掻く五本の爪は足元の大岩を軽々と貫いた。
どうやら嫌な予感がしていたのはそう言うことだったか。
「あれは人造の王種だ。スウマーの奴め計ったな……」
「あいつが言ってた人工の王種か!」
ノーチェがその異様な風体のロックリザードを見て大きく目を見開いた。
あのロックリザードから漏れ出る黒いオーラは、スウマーが作った造王薬を飲んだ時に現れる現象だ。
ロックリザードは上位種であるアイアンリザードに進化している。──いや、黒光りする甲殻はドルガレオ大陸でさえ見たこともない。もしかしたらアイアンリザードよりも更に進化した個体かも知れない。
(ここまでして私を……、私たちを足止めする理由はただ一つ)
わざわざ指名依頼をしてまで、王都から遠く離れた土地におびき出したと言うことは──、
「……狙いは王都か」
その言葉は戦闘により研ぎ澄まされたノーチェの耳にしっかりと捉えられた。
「ライアさん? 狙いは王都ってどう言うことだよ」
「言葉通りの意味だ。これは罠だったということだ」
「罠!? 馬鹿な俺っちにもわかりやすく教えてくれよ!!」
「そんな時間はない。今は目の前の脅威を排除する方が優先だ」
ライアの言葉でノーチェはハッと我に帰り正面を向いた。
「GYAOOOOOOOOOO!!!」
漆黒の岩山が突撃の号令を掛けるように咆哮をあげた。
視線の先ではロックリザードの群れが土煙を上げながら斜面を転がり落ちる。
その強烈な体当たりは、森の木々を破砕しながら廻転し次々とライアが作り上げた防護壁へと衝突する。その衝撃を感じた村の中の人々からは悲鳴が上がった。
壁に当たり負けたロックリザードたちは、堀の中に沈む。
水に触れ、明らかに動きの鈍くなったロックリザードをノーチェが蹴り殺し、ニエヴェが尖った杖の先で豪快に眼球を貫いた。
如何に強固な外殻を持っていたとしても、粘膜部分や関節などの可動部はそこまで硬くはない。狙うとしたらそういった柔らかい部位が有効だった。
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断末魔をあげて散っていったロックリザードは既に二十を超えた。堀の中の水は赤い血で染まりその屍体の山が堀を埋めていく。
「あと数匹だ! 二人とも大丈夫か?」
「俺っちたちは大丈夫! だけど壁に亀裂が入ってきてるぜ!?」
兎人族の兄妹は心配そうに壁を見つめた。
その視線の先にある壁は、度重なる強烈な体当たりに表面が削れ、ぼろぼろと崩れ始めていた。
それに加え堀が屍体で埋まり、より直接的に衝撃を与えられる様になってしまった。
これではそう長くは持たないかもしれない。
況してや、まだ最重量の王種が残っているのだ。
「あれを止めることができたらこっちの勝ちだ!」
ライアは自身を奮い立たせる様に声を張り上げる。
それと時を同じくして、全てのロックリザードを送り出した、黒い甲殻を纏った群のボスが遂に斜面を転がりだした。
転がりくるその圧倒的な質量を目の当たりにした瞬間、本能的に村の防護壁が容易に突破されてしまうことに気がついた。
「あれはちょっとまずいんじゃないのか!?」
地面を揺らしながら迫る巨体を見たノーチェが叫ぶ。
亀裂の入った防護壁では防げないと判断したのだろう。
しかし何ら問題はない。
奴は防護壁に到達することはないのだから。
「安心しろ。考えがある」
最後の一匹となった、通常のロックリザードにとどめを刺しながら、心配そうな顔をしている二人に言った。
魔力を練り上げる。
使う魔法は防護壁を作った時と同じくガイアウォール。
──百メートル……。
──八十メートル……。
巨体が近ずいてくる。
──五十メートル……。
──二十五メートル……!
──十五メートル……!!
ギリギリまで引きつけ、魔法を発動する。
「空高く舞い上がれ! ガイアウォール!!」
土属性魔法のガイアウォールを村を守る為に発動するのではなく、地面に対して角度をつけ坂道を作る様に展開する。
山から転がり落ちてきた勢いそのままに、角度のついたガイアウォール上を転がった黒い巨石は、最終的に垂直まで反り上がった射出台を駆け上り、空へと打ち上げられた。
打ち上げられた巨体が満月を隠し、周囲に暗闇に包まれる。
「落ちてくるぞ!! 衝撃に備えろ!」
スドオオオォォォォオオオォォォン!!!
重力に引っ張られた巨体は重たい甲殻を下にしながら勢い良く落下し、木々を巻き込みながら地面に大きなクレーターを作り上げた。
ひっくり返った亀の様に弱点となる腹を晒した魔物は、ライア達の絶好の的となり呆気なく狩られるのであった。




