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177話 襲撃



雲が掛かり、暗くなっていた夜空から見事な満月が顔を覗かせた。


デドステア山脈の雲嶺が晴れると、岩が剥き出しになった山腹からは影が滑り落ち、山肌に反射したその月明かりが麓に広がることで木々を明るく照らし始めた。


「来たぞ」


目の前で黒い大きな耳がピクピクと前後左右小刻みに動く。

どうやら忍び寄る音の気配を察知したようだ。

その言葉通り、数秒もしないうちに紅葉した木々の間に砂煙が上がりはじめた。


虫の声が聞こえる程静かだった山間部に破砕音が響き渡る。



──バキ!


 ──メキメキ!


  ──ドオォォオン!



まるで道が作られていくように樹木が倒れ、その度に地面が揺れる。


意味がないことを理解しているかどうかはわからないが、村人たちは手に持ったクワや鎌などの農耕具を構えて戦う意思を見せる。刻一刻と迫るその審判の時を待っているようだった。





岩のように硬く重い甲殻で覆われたロックリザードは、お世辞にも早く動けるような魔物ではない。


しかしこの魔物の攻撃方法の一つに、岩で包まれた強固な身体を玉のように丸めて転がり、その進行方向上の障害物を圧壊しながら進むと言うものがある。


太い尻尾を器用に動かし、平面での移動や方向移動を可能にするその動きは驚く程俊敏で厄介なものだ。


狭い坑道などの通路で出会い、壁とロックリザードに挟まれて無残にも口や尻から臓物を撒き散らせながら圧死する冒険者は少なくはない。


村に建っていた家や防御柵が、何かに潰されたように粉微塵に破壊されていたのはこのような特殊な行動によるものであった。


「兄さん……」

「あぁ……。 あのおっさん、何処が五匹くらいだよ……」


ノーチェとニエヴェは驚きのあまり大きく目を見開いた。

それもその筈である。村の北側からは森に差し掛かったロックリザードとは別の群れが、次々と大小様々な大きさの()()()のように無数に転がってくるのが見えたからだ。


その数、優に二十は超えており、山腹を転がるロックリザードの群れ、遠目から見えるその光景はデドステア山脈の山肌が崩れ落ちているかのようだった。


「もう終わりだ……」

「みんな逃げろおおお!」

「おかーさあーーーん!!」

「儂の畑が……」

「あんまりじゃないか……」


襲い来るロックリザードの群れを自身の眼で見た村人たちはその恐怖の余り恐慌状態に陥り、村中が阿鼻叫喚の巷と化した。


農耕具を手に持ち、戦う意思を見せていた一部の村人達も力無くそれを手から取り落とし、地面に膝をついて嘆いた。


「一体俺たちが何をしたと言うんだ!!」


村人達が叫ぶ。

しかしこの絶体絶命とも言える危機的状況の中でも、ライアは平静を保ち計画的に魔物を打ち倒す算段を頭の中で考えていた。


「狼狽えるな」


ライアの透き通った声が村に響いた。


「私のガイアウォールは、並みのロックリザードの体当たりなんてものともしない」


より強固な壁にする為に、樹木を根ごと巻き込み、地中に埋まっていた岩石も纏めて圧縮してあるのだ。

余程のことが無い限り破られない自信がライアにはあった。


迫り来る魔物の群れを前に、まるで怯える様子のない女性の姿に村人達の視線が集中した。


その時だった。


「来るぞおおおおおおおお!!」


ノーチェが衝撃に備えるようにと声を張り上げる。




 ドゴオオオオン! ドゴォン!!

ドゴオオオオン!!!!

ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!

 ドゴオオオオン!! ドゴオオオオン!!




ロックリザードの第一陣が、次々と村の防護壁に激しく衝突し、水の張った堀の中に落ちた。


もっとも壁に激突したロックリザードは五メートル級の大型のもので、小型の二〜三メートルサイズのロックリザードは水を嫌い、堀の手前で急停止する。


「すげぇ! ビクともしないぞ!!」

「うおおおおおおお!!!!」


ロックリザードとの戦闘で注意しなくてはいけない攻撃は体当たり攻撃のみ。それを止める事が出来れば後は普通に戦うだけだ。


「ノーチェ、ニエヴェ。いくぞ」

「おう!」「はい!」


三人は壁の外の躍り出る。


付与魔法(エンチャント)、ウォーターエッジ」


ライアが呪文を唱えると、ノーチェの武器である《脚刃》に水の刃が現れた。

付与魔法は特定の属性魔法を武器に付与させる魔法だ。


「ひゃっほおおおおおおおお!!!!」

「あっ兄さん待って!」


水の加護を受けたノーチェは、壁に激突し水の張った堀の中でもがくロックリザードとの距離を、その強靭な脚力で一瞬にして潰す。


水中で鈍くなった横薙ぎの尻尾による攻撃を潜って避けると、堀の底を蹴り上げ勢いよく首元を狙った。


ロックリザードの首が血飛沫をあげ宙を舞う。


「「「「「グオオオオオオオオン」」」」」


その様子を見た残りのロックリザード達の目に怒りの炎が灯る。






「マルチアクアランス」





地面で唸り声をあげていた、小型のロックリザード達の腹部に極太の水で出来た槍が突き刺さる。


それは胴体を見事に貫き、次々とロックリザードの目の光を奪っていく。

ロックリザードの弱点は腹部の柔らかい部位だ。

背中に背負うその強固な甲殻に比べ、腹部は非常に柔らかい。


「おっらあああああ!!! 二匹目ええええ!!!!」


ロックリザードの側面を蹴り飛ばし、横倒しにして腹部を露出させたノーチェは、まるで魚の腹を捌くように横一閃に蹴りを入れる。


内臓を零しながらのたうちまわるロックリザードは次第に動かなくなった。


「次!!!」


威勢良く第一陣を壊滅させた三人は迫り来る第二陣に向き直し目を向けると、山の斜面に佇む黒いオーラを纏った黒い外殻のロックリザードが目に留まる。


その黒い外殻は月明かりに照らされて怪しく光り、金色の木目状の模様を浮かび上がらせた。


「王種か」


冷静に物事に対処してきたライアの目に焦りの色が見え始めた。


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