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176話 戦闘準備



「迷宮の外にいるロックリザードは夜行性だ。日が完全に暮れる前に防衛体制を整えるぞ」

「で、ですが、一体どうやって……人手も資材も今からではどうにも……」


先ほど救出した村人の一人が言う。

潰れた家や、運良く襲われなかった建物の中で震えていた住民達は村の中心部分にある井戸の側へ集められていた。


「助けた時と一緒だ。そこから動かないでくれよ」

「なるほど! ライアさんの魔法で壁を作るんですね」


ニエヴェがポンっと手を叩く。



ゴゴゴゴゴゴ!!!



ライアが深く息を吸い込み土属性魔法の呪文を唱える。

すると地震のように地面が縦に揺れ、木々に留まっていた鳥達が一斉に空へと飛び去った。


住民達はお互いが倒れないように抱き合いながらその成り行きを見守る。


その揺れは次第に大きくなり、壊れた柵や生えている樹木を巻き込みながら地面が隆起し、厚さ1メートル程の岩の壁が村の周囲を囲っていった。


土が隆起したことによって壁の外側にある地面は削れ、村の入り口を避けるように堀が出来上がると、ライアは次にその堀が崩れないように岩を生成し積み上げていく。


この間、僅か数分の出来事で、民家二十軒程の村をあっという間に強固な壁が覆っていった。


その高さは五メートル、厚さは1メートル。

見張台や松明立ても備え付けられており、その壁の上は巡回もできる。村の防衛は並みの街よりも堅牢な作りになっていた。


「相変わらずライアさんの魔法はスゲェな」


その思いは村人達も一緒だった。

暫しの沈黙の後、住民達から大きな歓声が上がった。


ライアは堀に魔法で水を張り、より魔物が攻めにくい体制へと整えていく。


「良し……。ロックリザード程度ならこれで侵入が防げるだろう」


ロックリザードはその名の通り岩で出来た、体高三メートルで体長五メートル程のトカゲのような魔物だ。


水を極端に嫌い、腕についた強靭な爪で岩山などに巣穴を掘って生活している。なので山を越えてこの清流が流れる沢の近くにある村を襲うなんていうことは聞いたことがなかった。


「村長はいるか?」


先程までの歓声が一気に静まり返った。

男が一歩踏み出し、最も被害の大きい家屋を指差す。


「あそこは……」


そこはこの村に来て一番最初に目についた、倒壊した家屋があった場所だった。

その家の持ち主は家財に潰されて圧死していた。

あの埋葬された太った男が村長だったのだろう。


「知っている限りでいい。ロックリザードが襲ってきた時の状況を教えてほしい。頭数や大きさ、特殊な個体などがいなかったかどうかなどだ。なんでもいい。気がついたことがあったら教えてくれ」

「後どっちに行ったかもだな」


ノーチェが付け加えるように言った。


「少なくとも五匹以上はいたよな……?」

「いや、俺はワカらねぇ……。昨日の晩、夕食の時に気がついた時は下敷きになってた」

「さっき畑を確認したんだが、畑は踏み荒らされただけで、作物の被害はないみたいだ」


村人達が昨日の状況を話し始めた。


「ロックリザードを見かけるようになったのは?」

「ちょうど一週間前だ。一匹だけ山の斜面を転がる奴を見かけたのがいたんだ」

「じゃあその時に依頼を出したっていうことか……」

「依頼……? なんの話だ?」

「? ロックリザードの討伐依頼を指名で出したのはあんた達じゃないのか?」

「いや……一匹しか見てないからな。村の会議でしばらく様子を見ようという話になっていたから、依頼なんて出していないぞ」


どういうことだ?

二人に目配せをすると、知らないとばかりに首をブンブンと振っている。


「私たちは冒険者ギルドから依頼を受けてここにきている。ロックリザードの討伐と巣の除去をな」

「村長がこっそり依頼したって事はないか??」

「それは無いはずだ。村長がここ最近出かけている所は見ていないからな。仮に人を使ったとしてもこんな狭い村だ。誰かが気がつくはず」


村人が嘘をついているようには見えない。

況してや指名依頼だ。

誰が、一体なんの目的で依頼を出したんだ?

間違いなく悪意のある第三者が、何かしらの意図があってやっているように思えた。


村人達が心配そうな顔をして此方を見ている。

その様子を見たニエヴェがライアに尋ねた。


「ライアさん、どうしますか?」

「安心しろ。ロックリザードはなんとかしてやる」

「そうこなくっちゃ! ニエヴェ準備すっぞ!」

「はい! 兄さん!」


ノーチェが村人達に指示を出していく。

壁上には見張りが立てられ、松明を片手に巡回を始める。

崩れた家の瓦礫の撤去も同時に勧められ、次第に空が暗くなっていった。


魔力回復の為に、庭で採れたリトル花子の葉で作ったポーションをあおる。

じわじわと回復してくる魔力を感じながら、行き交う村人の動きを見守る。


「まぁどの道、あっちからやってくるだろうよ」


ライアの小さな呟きは、防衛準備をする村の喧騒にかき消された。



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