175話 襲われた村
「どうだった? 新しい情報はあったか??」
「ライアさん……。今日も特にそれと言った情報はありませんでした……」
白くて長い耳がピクピクと小刻みに動く。
その後ろから現れた黒い耳もそれに合わせるようにピクピク動いた。
兎人族の兄妹であるノーチェとニエヴェだ。
全身が体毛に包まれたその姿は、なんとも庇護欲をそそられる愛くるしい姿だ。
「まったく……。俺っち達をほったらかしてあいつは何をやってるんだよ!」
ノーチェがイライラした様子で足をタンタンと床に打ち鳴らした。
「あっ。でも兄さん! 私たちに指名依頼があったじゃない」
「あぁ、そういえばそうだった。デドステア山脈の麓に大型のロックリザードの群れが出たらしいんだよ。それの討伐と巣がないかどうかの調査がきてたぞ」
「麓だったらわざわざ王都まで使命依頼を出すんじゃなくて、アイアンフォードのギルドに言えばいいんじゃないか?」
「麓って言っても西の端っこらしいからなぁ。アイアンフォードよりこっちが近かったみたいだぜ」
「だからってなんでわざわざ指名なんだか……」
「さぁ? この間のエルダーリッチの討伐が話題になってるからじゃないかな?」
「上級アンデットはなかなか討伐報告がないですからね。ライアさんどうします? ロックリザードの討伐、行きますか?」
半年前、花子を探す際ついでに冒険者登録しておいた。
もちろん偽名で、出身地も誤魔化した上でだ。
ノーチェ達のパーティに入り、この半年であまり目立たない程度に依頼を受ける事でB等級まで冒険者等級をあげた。
先日も新しく王都の近くに出土した古代の遺跡の調査を受け、遺跡の最深部にいた太古の貴族のエルダーリッチの討伐をしたばかりだ。
パーティとして討伐し、その功績のお陰でC等級からB等級になった。魔物のいなくなった遺跡の中には用途のわからない持ち手のある筒状の道具や歴史的価値のあるらしい遺物、そして風化しかけた書物などが出土していると聞いた。
王都の地下にいる生き残った魔族の一人、魔工具研究所の所長であるフィーグーが昼夜問わず「ふぉおおおおおおお」と奇声を上げながら研究に明け暮れているようだ。
大方風呂にも碌に入らず、飯も食わずに不摂生な生活でもしているんだろう。
今度土産でも持って顔でも出してみるか。
「ちょうど退屈していたんだ。散歩がてらに行こうじゃないか」
「おっしゃ! じゃあギルドで受け付けてくるぜ!」
「待って兄さん、私も行くわ」
⌘
「あぁ……なんて事なの……」
「こいつはひでぇや……」
「……遅かったか」
目的地は王都より馬車で三日、鉱山都市アイアンフォードがあるデドステア山脈の麓から西側に向った山間にある渓谷。
近くを流れる清流には川魚が泳ぎ、秋になって紅葉が進んだ樹々がとても美しい景色を作り出していた。
しかしその美しい景色とはうって変わって、依頼を出してきたはずの村の状況は悲惨なものだった。
突き破られた木製の柵が地面を削り、崩れ落ちた数多の家屋や踏み荒らされた田畑が魔物の襲撃を物語っていた。
その中の一棟、巨大な何かに踏み潰されたような木造の家の隙間からは紅葉のような真っ赤な血液が流れ出ており、その周囲には蝿が集り腐敗臭が漂っていた。
襲撃から数日は立っているのだろうか。
「誰か生きてるものはいないか!?」
村中に聞こえる声で叫ぶ。
返事や反応がないか、少しでも見逃さないように神経を集中させる。
「あそことあそこ! 何か音がします!」
「あそこもだ! あの建物の下!」
聴覚に優れた兎人族の兄妹が異変を察知する。
急いで潰れた家屋に近づく。
「大丈夫か!?」
「足が挟まって動けないんだ! 助けてくれ……」
「クソ! 重すぎて持ち上がらねぇ!」
「うぅうぅぅ! 持ち上がらないです」
外側からは潰れた中の様子は見えない。
崩れた屋根に手を掛け、ノーチェとニエヴェが持ち上げようとするもビクともしない。
「二人とも離れて」
折れた家の柱をイメージしながら、屋根を持ち上げるように魔法を唱える。
「ガイアウォール」
屋根が落ちた家を支えるように地面から四本の石柱が生える。
ズズッと屋根が持ち上がり中の様子が見えるようになった。
「居たぞ! 足が折れてるな。ニエヴェ、治癒魔法を!」
「──この者を癒し給へ、ヒール!」
折れた足や身体中についた傷が治療されていく。
「まだ奥に家内が……」
「わかった。私たちに任せろ」
その後も救出活動は続く。
残念ながら助けることができなかった村人もいたが、そうこうしている間に時間は過ぎ、あっという間に日が傾いていった。




