16話 静電気と岩山の迷宮 ②
「キシャアアァァアァアアァ!」
十五メートルほどの大きさの蛇が、その太い首を鎌のようにあげ、鋭く尖った牙と、先が二つに割れた真っ赤な舌を、見せつけるように威嚇してくる。
その牙から滴る液体が地面に触れた瞬間、硬質な地面が解ける嫌な音と、鼻を突くような異臭が其処かしこに漂う。
鎌首を揚げたことにより見えるその大蛇の腹部は、とても滑らかな蛇腹状だが、それとは対照的にその背に見えるのは、この洞窟内のようなゴツゴツとした岩肌だ。
目を凝らすとその背には岩の他に大小様々で色とりどりの鉱石が犇き合っている。
『花ちゃん、この魔物って何かわかる?』
『ジュエルパイソンだよー!』
ジュエルパイソン……。
めちゃくちゃ金になりそうな名前だな。
岩山の迷宮の二階層の最奥に居たこの大蛇は、今にも襲い掛かりそうな勢いで威嚇してくる。
大蛇の背後には、階下へ続く坂道が見えており、その道を下れば、この迷宮の最下層である地下三階に行くことが出来るのだが……。
正直に言うと、俺は蛇があまり得意ではない……。
あのヌメヌメとした鱗と動きが生理的に受け付けないのだ……。
『パパ? 何時もみたいにどーん!ってやらないの?』
花ちゃんが俺の異変を察知してか、心配したように声をかけてくる。
『パパ、蛇苦手なんだよ……』
『じゃあ花ちゃんが倒すー!』
そういうと花ちゃんは凶悪な蔓を勢いよくジュエルパイソンに伸ばす。
しかし、無数の蔓がジュエルパイソンに襲い掛かるも、その巨体からは想像できないような速さで蔓の波を掻い潜っていく。
瞬く間に距離を詰められ、成人男性の胴位ありそうなその太い筋肉質な尻尾を叩きつけてくる。
咄嗟に横っ飛びすることで回避する。
その尻尾に着いている鉱石のせいか、その尻尾が叩きつけられた地面は深くえぐれていた。
(花ちゃんのレベルは十一。ステータス的にまだ厳しいか……)
『花ちゃんありがとう。パパ頑張ってみるよ』
『パパ!頑張って―!』
とは言うものの、気持ち悪いなあ……。
できるだけ早く終わらせたい……。
「雷装鎧、雷槍!」
全身が雷に包まれる。
それはまるで意志を持つ稲妻。
『花ちゃん、しっかりつかまっててよー!』
右足に力を入れて疾駆する。
その姿はまさに稲妻。
素早い大蛇も接近してしまえば、どうということはない。
気を付けるとしたら、今まさに叩きつけようとしている太い尻尾だけだ。
右から襲い来る鉱石を纏った筋肉の塊を前方に飛び込むようにしゃがむことで躱す。
その飛び込むようにしゃがんだ勢いを使って間合いを詰めるが、頭上からは大蛇が俺を飲み込もうと、その口をこちらに向けて醜悪なその鋭い牙を叩きつけてくる。
「っつ!」
あわや飲み込まれる瞬間、間一髪で花ちゃんが蔓を束ねた巨大な拳で大蛇の横面を殴打する。
地面には牙から放出された溶解液が飛び散る。
頬に溶解液が掠るが痛がっている暇はない。
大蛇は突如現れた巨大な拳に驚いているようだ。
『ありがとう花ちゃん!』
額に嫌な汗をかきながら、花ちゃんにお礼を言う。
花ちゃん越しの接触放電で感電するかと思ったが、電力が足りず、痺れる様子はない。
『パパ!チャンスだよ!』
大蛇は花ちゃんの殴打により、その巨体が横に流れている。
俺の目の前には滑らかで軟らかそうな蛇腹状の胴体が晒される。
好機と捉え、雷槍を突き刺そうとするが、大蛇は器用に胴を捻り躱す。
しかしそれは想定の範囲内だ。
「電弧放電!!」
躱された雷槍から大蛇へ向けて一条の雷が迸る。
直接当たらずとも、雷槍から放電することで攻撃を加える二段構えの戦法だ。
雷槍からの放電により大蛇は感電し、一瞬だが動きが止まる。
一瞬でも動きが止まれば、それは戦闘終了の合図。
目の前にいるのは痺れて動けない、口を開けて威嚇する大蛇。
その口腔内に、吸い込まれるかの如く、雷槍が大蛇の頭蓋ごと突き破る。
脳漿をぶちまけながら倒れる大蛇の奥に立つのは、肩に奇怪な植物を乗せた【雷の騎槍兵】だった。
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