表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/259

168話 静電気と海底神殿⑥



「本当にありがとうございました」


地面に落ちたフレイムタイタンのドロップアイテムを拾っている最中の上半身裸の男に対して、聖職者のローブを着たサティナが深々と頭を下げた。


彼女が着ているローブは、右膝付近が何か不自然な形に欠損をしており、その欠損部分からは溶岩怨霊(マグマバンシー)によって噛みちぎられたはずの、スラッとした美しい白い足が覗いていた。


「それにこんな素敵な靴まで」


ぴょんと嬉しそうに跳ねる彼女の足には、魔力で出来た透明な靴が身につけられていた。


靴ごと足を食いちぎられた素足のままの彼女に、第七十九階層の様な溶岩で出来た道を歩かせるわけには行かない。


かと言ってサティナを背負って行くほどの余裕は、この凶悪な環境下にある七十九階層ではないのも事実。


そこで男は少し考えると、行動に移した。


あり得ない……あり得ないわ……と頻りに呟く赤毛の魔法使いを横目に、つい先程、男は出来うる限りに圧縮した超高濃度の魔力を、まるで靴の様にサティナの足に纏わせた。


問題はそう長い間、形を保っていられないところだろうか。

持って数時間だろうと男は感じていた。


「……幾ら払えば良い?」


しばらく黙っていた、戦々恐々とした様子のガスターが口を開く。


もし……もし仮に伝説級の回復薬、エリクサーだとしたら幾ら払えば良いかも検討がつかない。金貨千枚? それとも五千枚? 一つ売れば一生遊んで暮らせる……そんな噂さえ聞いたことがある。だとしたら一万枚以上か……?


背中に嫌な汗を掻きながらゴクリと生唾を飲み込み、サティナを助けてくれた冒険者の返答を待つ。


しかし男から帰ってきた返事は、何とも欲のない返事だった。


「薬は一杯あるんで別にお代はいらないんですけど……まぁ取り敢えず七十五階層に戻りませんか? ちょっとここ暑くて堪らないんです」


《銀の翼》のメンバーは全員キョトンとした顔でその男を見る。


《銀の翼》がこの階層に来てから既に三日。

二日目の夜に奇襲に会い、丸一日以上寝ていない彼ら四人の体力は限界に来ていた。そんな事は知らないであろうその男は、疲れ果てた彼らの顔を観て一時撤退を提案したのだ。

その提案は彼らにとって願っても無い提案だった。


「……色々聞きたい事はあるが、それに賛成だ」


もとよりサティナが負傷した時点で、それ以外に手がない事は分かっていた。エリクサーのお陰で傷が治っているとは言っても、回復魔法を使えるほどには回復できていない。


現状を冷静に考えるとそれが一番現実的な案であった。

リーダー格のガスターが提案に乗ると、周りの冒険者達も頷き、満場一致で一時撤退を選択した。


「ロートス、行けるか?」

「あぁ、左手で盾を持てば行けそうだ」

「ん? そういえば、あんたも怪我してたな」

「あっ! また!」


そう言うと男はもう一本の回復薬を腰にぶら下げた鞄から取り出し、火傷を負ったロートスの右腕に振りかけた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺たちはあんたにどれだけの金銭を払わなくちゃいけなくなるんだ」

「そうよ! 私たちはガスターの所為でそんなに裕福なパーティーじゃないんだからね!」

「今はその話しをしなくても良いだろ!」


ガスターやアンが止めようとした時には既に回復薬が振りかけられており、その凄まじい効果は瞬く間にロートスの右腕を治していった。


「だからお金なんていらないですから。そんな事よりも早く七十五階層に行きましょ」


グッと握りしめている火傷の痕一つないロートスの腕を見たガスターは、頭を抱えたくなる気持ちで一杯だった。


なんなんだコイツは? 信用できるのか? 俺たちの窮地に漬け込んだ新手の押し売りか何かか?


ガスターは一度、王都で美人局に騙され仲間に大きな迷惑をかけてしまった苦い記憶を思い出した。


しかし危機的状況だった戦闘が終わった事で緊張感が途切れ襲いかかってくる極度の疲労は、ガスターの正常な思考力を奪い去っていた。


ぐるぐると廻る湧いては消える意味をなさない思考の末に、ついにガスターは考える事を辞めた。


黙って男の後を付いていこうと決めたのだ。


分かっている事は、この男の圧倒的な強さ。

火山弾やフレイムタイタンの即死級の火力を物ともしない強固な防御魔法や、腕が雷に変わる見たことのない攻撃魔法。

そして湯水の様に使われる完全回復薬(エリクサー)

A等級以上、いや、S等級並みの強さ、そしてそれに準ずる財力ではないだろうか。

そう思わざるを得ないほどの事実がここにはあった。

この男がいれば、メンバーを誰も失う事もなく、第七十五階層まで辿り着けるだろうと言う事だけは確信していた。



向かう先、目的地は第七十五階層【海底の楽園】。

高難易度迷宮《海底神殿》で確認されている、最下層のセーフティエリア。


これからの事はしっかりと休息した後に考えようと言うガスター。

彼がそう思いたくなるのも仕方のない事なのかもしれない。

それぞれ死にそうな顔をした仲間達三人を見たサティナはそう思った。

次回の更新は2019/03/17となります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ