163話 静電気と海底神殿②
《海底神殿》を一旦後にし、洞窟を抜ける。
こっそりと洞窟の反対側、目立ちにくい場所に転移魔方陣を設置。
(これで何かあった時に一応緊急脱出は可能かな……)
備えあれば憂いなし。
ブリッジポートの家や他の場所に逃げてもいいんだけど、流石にまた船に乗ってくるのは面倒だ。
何もないこの島の反対側に来ようとする奴はいないし、木陰に設置したので問題はないと思う。
現に設置場所をあちこち探している一時間の間、洞窟の反対側であるこちら側に来た人間は一人もいなかった。
(後は迷宮に戻って転移魔法が使えるかチェックだな)
もう一度入り口にて認識票を見せ《海底神殿》の中へ。
セーフティゾーンである広場を抜け、再度迷宮内部に入る。
周りに誰もいないことを確認したのち転移魔法を使うと──、
(反応なし……迷宮内部では転移魔法が使えないのか?)
その後も場所を変えつつ何度か転移を試みてみようとしたが、何処にも転移することができなかった。
迷宮は転移ができない仕組みなのだろうか。
理由は解らないが緊急脱出が出来ない以上、無理は厳禁だ。
慎重に進まないといけない。
とは言ってもまだ第一階層。
負ける要素などなかなかなさそうだが。
⌘
薄暗い通路には天井から水滴が滴り落ち、ジメジメとした湿った空気が充満している。
この水滴は海水の様でこの迷宮が海中にあることを示していた。
湿ったその空気の中には強い潮の匂いに加え若干の腐臭が含まれており、その鼻を突く匂いを嗅いでこの迷宮の特徴を思い出していた。
《海底神殿》には精神体系の魔物や死霊系の魔物が多く生息している。
大昔この辺一帯は陸地で、大きな都市が栄えていたそうだ。
迷宮に入る前の、釣り人達のいた割れた海の壁をよく見てみると、海底に沈み崩れた街並みを見て取ることができる。
都市が沈んだのは数千年以上前の話らしいが詳しい事は分かっていない。
この《海底神殿》と呼ばれる迷宮の中に出る魔物は、人型の魔物、それも骸骨や腐人、そして亡霊といった生前人間であったであろう魔物ばかりである。
その為、都市が沈んだ原因となった大規模な災害が起きた際、この神殿に避難するも残念ながら非業の死を迎えた人々の、怨念などの強力な呪いが、長い年月を経て魔力と一緒になり、迷宮石が取り込む事でこのような特徴を持った迷宮となっていったと考えられている。
時折冒険者が発見した宝箱の中に書物が入っている事があり、その書物を元に研究が進められているそうだが、そもそも出土することが少なく、都市の研究は進んでいないようだ。
事前にライアから聞いていた情報を思い出しながら、滴り落ちる水滴を横目に迷宮を進んでいたその時の──、
「魔物か……?」
《探知》に複数の反応があった。
突き当たりT字路右手側、四つの反応。
角から現れたのはボロい衣服を纏った骸骨が四匹だった。
(あながち予測も間違いじゃないのかもしれないな……)
と、その姿を見て思った。
骸骨が着込んでいる服装は、古代ローマの人々が着ていたトーガと言う、身体にウールの布を巻きつけただけの服装によく似ていたからだ。
顎や全身の骨を鳴らしながら走ってくるスケルトンは、肌蹴たトーガの奥、肋骨越しに見える紫色の魔魂石を怪しく光らせながら襲いかかってくる。
カタカタカタカタカタカタ──、
《魔障壁》で通路ごと塞ぐ。
スケルトン達はまるで「臆病者が!!」と、馬鹿にするように顎を鳴らし、その肉のない骨だけの拳で、乾いた音を響かせながら殴りつけている。
暗く窪んだ眼窩の奥に光はなく、ただ機械的に、ひたすらに殴りつけるその様は、まさに死霊そのものだ。
通路を埋め尽くす大きさに変化させた、魔力を込めた《魔力手》で思いっきり強打すると、その衝撃に耐えかねたスケルトンの骨が、バラバラと周囲に散乱した。
あまりの手応えのなさに呆気にとられていると、地面に散らばった骨が魔魂石の怪しい紫色の光と共に動き出す。
それはまるでビデオテープの逆再生のようだった。
カタ、カタカタ──、
カラカラ、カラリ──、
(げげ……骸骨は魔魂石を砕かないとダメなのか)
カラカタ、カタリ──、
カタカタ、カタ、カタカタ──、
カタリ、カタカタ、カラリラ──、
カポリ。
バラバラになっていた骨が魔魂石を中心に集まり、最後に頭蓋骨がしっかり嵌ると、一瞬カラリと身を震わせまた同じように《魔障壁》を叩き始める。
スケルトンでは俺の魔障壁を壊せないようだ。
しばらく観察したのち──、
「《雷銃》」
バリッと言う音と共に指先から四つ雷の銃弾が発射。
その銃弾は吸い込まれるように魔魂石を捉え、魔魂石を砕く。
活動源を喪った四人の人骨は崩れ落ちるよりも早く、黒い霧となって消えていった。
その後何度か遭遇するも、しっかりと《雷銃》で仕留め進んでいく。
《海底神殿》第一階層。
冒険はまだ始まったばかりだ。




