161話 静電気と精霊
3/5 11時58分 加筆しました。
風呂から上がり、ララの用意してくれた朝食を食べる。
朝食のメニューは、ふわふわの白いパンとトメトのサラダ。
そしてカリカリに焼いたオークのベーコンと何かの卵の目玉焼きだ。
ノーチェと花ちゃんは既に朝食を終え、ライア達の手伝いに行っている。
ララに頼んでパンを半分にしてもらい、トメトとベーコン、そして目玉焼きを挟んで勢い良く口に放り込んだ。
「うん、美味い。……おっと」
口の端から零れ落ちそうになる半熟の黄身を《魔力手》で人差し指を作りヒョイっとすくい上げる。
「ご主人様は非常に器用で御座いますね」
その様子を見たララが感心した面持ちで言った。
「そうかな? なんか自分の手を動かすより楽なんだよね」
手を伸ばしても届かないちょっとした距離は必ず《魔力手》を動かす。会社員時代から休日も家でゴロゴロしていた様な俺は生来のめんどくさがりと言える。
まぁ彼女もいなかったし?!
趣味もインドアのものばっかだし?!
何より友達もいなかったしな!?
「そうですよ。私たち精霊でもそこまで自在に操れる者は少ないと思います。それだけ魔力を操作するのは難しい事なんですよ?」
「でもララだって凄いじゃないか。ほら、今だって食器が勝手に綺麗になってるじゃんか」
ノーチェと花ちゃんが食べた後の食器が、ふわふわとテーブルを離れ、皿やコップが連なりながら宙を舞う。
食器が台所のシンクに飛び込むと、かちゃかちゃと音を立てて綺麗に洗われていった。
ララは腕を振り、食器やブラシを操っている。
その姿はまるでオーケストラの指揮者の様だ。
「これはそう言う仕組みになっているからですよ。ご主人様の様にご自分の手の様に使えるのは凄い事なのです」
俺が魔力を上手く扱えるのはスキルの《魔力操作》がかなり大きいと思っている。スキルのLvは既にMAX、上がりきっている為、これは通常の人より何倍も有利だろうと思う。
だけど日頃から自分の手の様に《魔力手》を使っているからこそ、色々とできる様になったことが多いのも事実。
日々魔力を使い続けているお陰か、細かな作業などの精度は、Lvが上がりきった今でも上がり続けていると言ってもいい。
床に落ちている髪の毛すら《魔力手》で拾い上げる事ができる。
ことわざでいうと雨垂れ石を穿つといったところか。
「それをただ動きたくないという理由で使うなんて、本当にご主人様は変わったお方ですね」
関心通り越して、呆れ顔になっている。
「はは、耳が痛いよ。ところで精霊ってみんなララみたいに人型になって話す事とか出来るの?」
引き続きむしゃむしゃと頬張りながら聞く。
「私の様に自我が芽生えるのは、魔力の多い土地で消費されずに数百年顕現している極一部の高位精霊だけですね。低位精霊は空気中に漂う魔力や、魔鉱石の中に潜んでいることが多いです」
「じゃあ魔法を発動させる時はその空気中に漂っている精霊の力を借りて使うってことなのか」
「そうともいえますし、そうじゃないともいえます。雨が降ったり、風が吹いたりなどの自然現象は、精霊神様たちの眷属である空気中の精霊が起こしていることが殆どで、魔法の発動は発動者自身の魔力と属性によるところが大きいです。例えば火魔法を撃った際、風の精霊が近くにいると火魔法の威力が上がったりしますが、これは魔力に惹きつけられた風の精霊が消費されることで起こる現象です」
魔法の源は魔力で、属性ってのは個人の資質で変わって……。
なんかややこしいけど、これだったら雨だの雪だのっていう発生の仕方は地球と一緒なのかな。
火の精霊が全くいないところでは雨が雪になって、ある程度いるところでは雨になる……みたいな。
まぁ魔力すげぇって認識でいいかも。
組み合わせ次第では氷属性なんていけるんじゃないか?
「なるほどね。昔ライアも言ってたんだけど、その精霊神って何なの? 精霊の親玉みたいなやつ?」
「精霊神様はこの世界をお創りになった女神様が、世界を豊かにする為に産み落とされた最初の精霊達のことです。火、水、土、風、雷、光、闇の七の精霊様たちが今の豊かな大地を作り上げました」
「え? ちょっと待って? 精霊って六属性だけじゃないの?」
「雷の精霊神様はもうすでにこの世界にはおりません。なので六属性は間違いありません。雷の精霊神様の眷属の精霊達は存在しますが圧倒的に数は少なく、どういう理由かは存じあげませんが、数千年前に雷の精霊様がいなくなってしまったことは事実です」
ライアは精霊神達が権力闘争みたいなことをドルガレオ大陸でしてるって言ってたよな。だから過酷な環境なんだとも。
雷の精霊神はその権力闘争で負けたってことなのだろうか。
「その精霊神がいないと、属性の精霊達も消えちゃうのか?」
「精霊神がいなくても精霊達は増え続けます。ですが加護がない分脆弱と言うべきでしょうか。急速に増える事はありません。消費されれば消費されるほど消えて無くなっていきます」
なるほどね。
通りで雷の事を知らない人が多いわけだ。
精霊が少ない分、雷が発生することがあまりないのかもしれない。機械がない分、電気がなくて困る世界ではないからな。
「ご主人様、そろそろお時間ですが……」
「やべ! 船が出ちゃう!」
ララから教えられた事実にびっくりしながらも、急いで朝食を食べ終えた俺は、一人寂しく転移魔法でブリッジポートへと向かうのであった。
次回更新は九日土曜日とさせていただきます。




