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157話 静電気と水龍



「この機を逃すなよ。小僧」


隣にいる花ちゃんの頭部から声が聞こえる。

正確には頭部に咲いている、赤と白の花房からだ。

その見事に咲いた花房の中心にある花序の部分が横に裂け、中からは白い歯を覗かせていた。


「うわっ、気持ち悪っ。ってかおっさんそこから喋れたのかよ」

「パパ、花ちゃん気持ち悪い……?」


花ちゃんが悲しそうな顔をする。


「違う違う! 気持ち悪いのは花ちゃんじゃなくて、賢者のおっさんの事!」


俺は取り繕うように両腕を振り、花ちゃんの言っていることを否定した。


「賢者さんは花ちゃんに良くしてくれてるよ? 賢者さんの事悪く言わないで!!」

「嫌われたようだぞ? 小僧」


花ちゃんが顔を赤くして怒っている。

頭部のおっさん(花)が揺れ、その花序がまるで俺を笑うようにニヤリと歪んでいる。

ちくしょう、賢者のおっさんしたり顔かよ。

このままでは花ちゃんに嫌われてしまう。


「ごめんよ、パパが悪かった」


《多重魔障壁》に送り込む魔力を高めながら、花ちゃんに謝る。

ぷいっと花ちゃんに顔を背けられるのと同時に、船尾が押し上げられ、船がぐらりと揺れると大きく前進した。


「船に掴まれ!」


何事かと船に揺られながら海中を確認する。

《探知》で見ても巨大タコはまだ水中だ。

不自然に浮き上がった船尾に目を向けると──、


「水で出来た神龍(シェンロン)!?」


そこには七つの玉を集めると出てくる、願いを叶えてくれる龍にそっくりな水の化け物が噛み付いていたのだ。


すわっ、新手かと思ったのも束の間、


「フレデリカ様の水龍(アクアタイヌーン)だ!」


副騎士長が喜びの声を上げた。


突き上げられる直前、フレデリカの二つ名の由来でもある水属性魔法《水龍》が船を魔物の射線から押し出していたのだ。


急に船が動いたことにより、狙いを外した海中にいた魔物は、勢いそのままに空を舞う。


それはさながら、水族館のイルカショーのようだった。


「はぁはぁ……。間に……あった……」


最悪、《多重魔障壁》がやられた時のことを考え、魔力の船を作って逃げるかとも考えていた。


なのでフレデリカの《水龍》による船の移動はNICE!とサムズアップしながら感謝せざるを得ない。


空高く打ち上げられた巨大なタコは、上昇する勢いを失い重力に引き寄せられ、空中でジタバタしている。


「ほら、しっかり狙え」


蔓で上空を指し、賢者のおっさんが言う。


「そう言うことか!」


この機を逃すなという賢者のおっさんの言っていることが、ようやく今になって理解することができた。


俺が今まで防御に徹して攻撃をしてこなかったのは、タコの攻撃によりビショビショに濡れた船上では、電気による攻撃が味方を傷つけてしまう可能性を考慮しての事だった。


うっかり感電でもさせてしまったら、目も当てられない。一番弱い《雷銃》でさえ、簡単に人を殺すことが出来てしまうからだ。


それに比べて空中に浮いている魔物に対してだったら、感電を機にすることなく、気兼ねなく魔法を打ち込める。


右腕に魔力を集中させる。

狙うは蛸の両眼の間。

キョウカが言っていた、オクタゴンの弱点である眉間の部分、ただ一点。


バチバチと放電音を放つ右腕を空に向け──、




「《局所破壊放電(エクレール・ナイツ)》」




眩い閃光。

右腕から青白い雷光が迸る。

最期の足掻きか、宙を舞うタコの口から吐き出された蛸墨を突き抜け、音を置き去りにした雷の砲弾が巨大タコの眉間を貫いた。


凄まじい雷音が周囲に響く。


蛸墨は遅れて聞こえた雷鳴と共に爆散し、船の周囲に雨のように降り注いだ。それはまるで、勝利を祝福する打ち上げ花火のようだった。


船全体を魔障壁で覆い、蛸墨を避ける。

確か蛸の唾液には毒がある種類がいたはずだ。

蛸墨に混じっているかはわからないが、当たらない方がいいだろう。


魔障壁に当たる蛸墨と、海面に落ちて大きな水柱をあげる海の王者を見ながら俺はボソッと呟いた。


「汚ねぇ花火だぜ」


その呟きを聞いている人間はいなかった。

こうして俺たちは何とか脅威を退けることに成功した。








先程までの喧騒が嘘だったかのように、海上には静けさが戻ってきていた。


「やはり、この船は先日出航した、騎士長達の船で間違い無いようです……」

「…………そうですか。遺品などはありましたか?」

「いえ……、剣はおろか、鎧の破片すら船内には見つかりませんでした。おそらくクラーケンに喰われたか、海底に沈んでいる可能性が濃厚だと思われます」


死んだ事で黒い表皮が白色に変わった海に浮く巨大な魔物、クラーケンを調べた副騎士長が暗い表情で報告する。


「…………騎士団の半分を失ってしまいましたか」


そういうと意気消沈した様子で、フレデリカは船室へと戻っていった。


船上では騎士達が工具片手に、クラーケンとの戦闘で壊れた船のパーツの簡易的な修復が行われている最中だ。


穴の空いた甲板には何となく木の板が打ち付けられ、砕けた船縁は雑な感じにロープで落ちないように結ばれている。


「海賊も、こいつの犠牲になったのかなぁ?」


船上に絶賛放置中のぬめりのある触手腕を、まるで汚い物を触るようにつま先で小突きながらノーチェが言った。


「悪いことしたら、巡り巡って自分のところに帰ってくるってこったな。どうせ犯罪者だろ? なら何も問題なしだろ」

「まぁそうだなぁ。犠牲っていうより自業自得か」


腕を組み納得した様子だ。


「この行き場のない怒りはどこへ向ければいいと言うのだ」


その一方でキョウカは握りこぶしを作り、それをわなわなと震えさせている。この一連の事件の最初の被害者はキョウカだ。怒るのは無理もないだろう。


その辺の諸々のことは、是非黒幕らしい商業ギルドのギルドマスターに請求してもらいたいところだ。


「花ちゃ〜ん、そろそろ許してよ〜」

「花ちゃん、パパとは口聞きたくない」

「ごめんなさいって〜」


未だに花ちゃんはヘソを曲げたままだ。

こういう時は放っておくべきなのだろうか。

くそう、俺には分からん……。

もしかしてこれが思春期ってやつなのか!?


修理の終わった船は、クラーケンを引っ張り、一旦漁港へと戻るのであった。



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