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155話 静電気と海の王者①



鞭の様にしなる触手腕がゴォっと風を弾きながら、船を守る様に展開した魔障壁を殴り付ける。


(キツイな……)


障壁ごと船を揺らす強力な一撃は、何度も、何度も、何度も何度も何度も、執拗に繰り出され、黒い筋肉の塊が打ち付けられる度に、魔力で出来た壁にはびきりと嫌な音をたててひびが入り、俺はその都度魔障壁を貼り直す。


猛威を振るう巨大なタコと、一発でも当たれば大破は免れない船舶の間を仕切るように展開した魔障壁。広い範囲を守る必要がある分硬度は普段より低下している。


そのおかげで、非常に残念なことだが、一撃受ける毎に魔障壁を張り替える必要が出てしまっているのだ。


頼りにならない領主様と騎士たちを横目に見ながら、どう切り抜けるか頭を回転させる。


四方は海に囲まれ、足場は不安定。

剣しか使うことの出来ない騎士と、腰を抜かしているフレデリカは戦力外だ。

目の前には巨大なタコがマストより太い触手腕と、鋭い爪を振り回しながら、奴にとっては取るに足らない矮小な存在であろう俺たちを叩き潰そうと襲いかかってくる。


(それにしても、何たってこんなにでかい化け物ばっかり相手にしないといけないんだ……。本当に運がないなぁ)


《魔障壁》を張り、巨大タコの攻撃を防ぎ続けるだけなら、今のところ問題なくこなせそうだ。

魔力の消費も《魔力創造》のおかげで最小限に抑えられている。この分なら疲れる事もなく攻撃を防ぎ続ける事が出来そうだが……。


(気を抜くと、うっかり抜けられそうで困る)


四方八方から、六本の脚が襲いかかる。


残りの二本は魔障壁越しに船に組み付き、まるで熱烈なハグをする様に抱きついて離れない。


かなりの力で締め付けてくる為、少しでも魔力を緩めれば、たちまち魔障壁ごと握り潰されそうだ。


現に締め付けられ、ひびが入り、魔障壁を貼り直すという作業をこなしていると、徐々に徐々にだが貼り直す位置が押し込まれているのがわかる。


このままでは何れ、蛸壺の如く胴体にはまっている船舶の様に半分にへし折られ、海の藻屑と消えてしまうだろう。


現段階で、巨大タコの攻撃を防げるのは俺しかいない。これならば、俺自身は防御に徹して、攻撃は花ちゃんの様に魔法を使える人達に任せた方が安定した戦闘できそうだ。


誰も動こうとしないのならば俺が指示するしかない。


「ノーチェ! お前は魔法を使える騎士達と船に絡まっている脚に向かって攻撃! 花ちゃんはどんどん魔法で攻撃してくれ! 出来れば足を一本でも減らして貰えると助かる!」

「おう!」「わかったよ!! パパ」


ノーチェが騎士達の尻を、「おらぁ!」と蹴り上げながら檄を飛ばす。

半魚人へファイヤーボールを放っていた魔法騎士達がノーチェに続き、船舶の両舷に絡みついている触手腕に魔法を放ってゆき、ノーチェも負けじと蹴刃で攻撃する。


「柔らけぇのに硬え!」


魔法騎士の火属性魔法ではダメージを与えられず、ノーチェの強力な蹴り技も決定的な傷にはならないようだ。


「お次は花ちゃんの番だよ〜!」


花ちゃんが高らかに宣言する。

花ちゃんが小さい両手を前に突き出すと、手の平に小さい火球がそれぞれ灯った。その二つの火球はだんだんと大きくなり、重なることで巨大な一つの火球になると、その火球は花ちゃんの身の丈の三倍ほどの大きさの焔の剣となって顕現した。


その焔の剣の熱量は、花ちゃんの周囲の船の木材を焦がし、空気を歪ませて、十m以上離れた俺の所まで熱さを感じるものだった。


「なにそれカッコいい!」

「パパの《雷槍》の真似っこ! 獄炎の剣(レーヴァテイン)って言うんだよ〜。かっこいいでしょ!」


花ちゃんの右腕には煌々と輝く焔の剣が握られている。

巨大タコもその脅威に気がついたのか、必死に花ちゃんを狙うも、俺が黙ってそれをさせるはずがない。


踏み込みと同時に振り抜かれた、三m以上の長さの焔の刀身は、船に絡みついていた触手腕の内一本をまるでバターを切るかの如く、いとも簡単に切り落とした。


「GYAOOOOOOO!!!!」


タコの魔物は悲鳴をあげる。

痛みからか残った触手腕は闇雲に海面を叩き、宙を舞った触手腕は、その質量に見合った巨大な水飛沫をあげながら水中へと沈んでいった。


まるで歯が立たないと思っていた事実が、まだ幼さが残るたった一人の少女の魔法によって覆された。


その光景を見た騎士達からは歓声が上がり、其処彼処から、剣を引き抜く音と共に、少女に続け! 我々も遅れをとるな! と威勢のいい声が聞こえてくる。


「残り七本! みんなガンガン頼む!!」

「「「「「おおおおぉおぉぉおぉお」」」」」


船上に戦士達の気合のこもった声が響いた。


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