150話 静電気と親衛隊
一週間後。
早朝、霧が立ち込める海洋都市ブリッジポートの冒険者ギルド前には、異様な殺気を放つ全身鎧の集団が完全武装で待機していた。
「…………皆様、準備はできましたか?」
「「「「はい!!!!!」」」」
全身鎧の騎士達が声を張り上げる。
三十人程だろうか。
如何にも高価そうなローブを羽織った、海色の髪の女性が、手に持った杖をカツンと地面に打ち鳴らすと、杖先の宝石が青く輝き、その青い光は周囲に弾けると霧に解ける様に消えていく。
打ち鳴らされた杖をよく見ると、杖先には流れ落ちる涙の様な形の宝石が付いており、銀色の竜の細工がその宝石を大事そうに抱きかかえている。
「…………今回の件は完全に私に落ち度があります。…………前回、私が海賊の討伐に同行していれば、今回の様に長引く事はなかったはず……」
「そんな事はありません!」「領主様のせいでは!」「ナーナイル様のせいではありません!」「我々が不甲斐ないばかりに……」「おのれ海賊め!」「領主様に心労をかけるな!」「こんな時隊長がいれば……」「うおおおおおおお」「ナーナイル様ぁ」「くっそおおお!!」「ぶっ殺してやる!!」「海賊めええ!!!」
盛り上がりすぎだろ……。
もはやアイドルを追っかける親衛隊みたいな奴らだ。
たった今騎士達の前で弱気な態度を見せたのは、海洋都市ブリッジポートの領主、そして、南部辺境伯で《水龍》の二つ名を持つフレデリカ=ナーナイルだ。
前回、魔法学校で出会った時との印象とはだいぶ違う。
俺の知っているフレデリカ=ナーナイルはもう少し高圧的な女性だったイメージなのだが、今俺の目の前にいる女性はお淑やかでしおらしい印象だ。
「…………今回の目的は海賊の討伐と《海底神殿》に取り残されている冒険者の救出です。海賊は出来れば捕縛、駄目なら殺しても構いません。ですが自軍の犠牲は許しません。一人も欠けずにこの問題を解決しますよ」
「「「「「「はっ!ナーナイル様!!」」」」」
「行くぞ!貴様ら!!」
「「「「「おう!」」」」」
騎士達の中でも一際大きな鎧姿の男を先頭に、騎士団は一糸乱れぬ行進で街を進み、次々と用意された船舶へと乗り込んで行った。
「今からお船に乗れるの?」
「そうだぞ〜」
「俺っちもこんなに大きな船乗るのは初めてだ」
花ちゃんの髪の毛のような蔓先がピクピクと揺れている。
どうやら花ちゃんも船に乗るのが楽しみのようだ。
ずっと乗りたいって言ってたもんなぁ。
思わぬところで願いが叶った形となった。
◇
船の帆が風を受け大海原を進んで行く。
船上から見える海面には、見た事のない黒い魚が、船を追いかける様に泳いでいる。
「すごい! すごい! お船が水に浮いてるよ! それに見てパパ! お魚さんが一緒に泳いでる!」
騎士達の緊張なんか何処吹く風か、静まり返った船上で花ちゃんの暢気な声が弾けては消えていく。
「あんまり覗き込んで落ちるなよ〜」
「は〜い!」
蔓を水面に伸ばし、魚に触れようとしているは非常に楽しそうだ。ノーチェは船首で風にあたり黄昏ている。
「…………久しぶりですね」
「領主様」
「…………フレデリカで良いわ、《雷帝》。依頼を受けてくれてありがとう」
「いえ、利害が一致しただけですよ。美味しい魚介を食べたいですからね」
「…………あの時と一緒。良い目をしていますね」
俺は今牛頭人王の外套を被っている。
なので俺の目は見えないはずだが……。
「…………不思議ですか? 私の目は、《真眼》と呼ばれる特殊な眼です。この眼はあらゆる物を見透かすことが出来ます」
フレデリカはその水晶の様な目を指差して言った。
「あの報告書が俺のでっち上げではなく、事実だということもわかっていただけましたか?」
「…………はい。しっかりと裏どりもさせて頂きました。私はあの方を信頼していたんですが、非常に残念です」
「じゃあ──」
カーン、カーン、カーン
突如鳴り響く警鐘。
それは海賊の襲来を報せる鐘の音。
かと思ったのだが──
「ナーナイル様敵襲です! 船首北東側に海面に巨大な影! 水生の魔物と思われます!」
「…………皆様、迎撃準備をしてください。迎え撃ちますよ!」
船上の戦いが始まるのであった。
次回の更新は21日になります。
よろしくお願いいたします。




