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149話 静電気とダメ冤罪



コーン──……、コーン──……、コーン──……





船を打つ槌の音が周囲に響く。





ギッ──、ギッ──、ギッ──、ギッ──……

えいっ──、おうっ──、えいっ──、おうっ──……





男共の威勢の良い掛け声とともに、

ロープに吊るされた一本の太い木材が宙に浮き、

風でわずかに揺れながら船上へと移動していく。






──ゆっくり下ろせぇ! ──力入れろぉ!


──もう少し右だ! ──おい馬鹿!左だっつうの!


──良いぞ下ろせ! ──ゆっくりだぞ!


──おーし、手を挟むなよぉ!!


──そぉれっ!!!!






船大工達は声を掛け合い、慎重に木材を下ろす。

今修理している船は、恐らく昨日手紙と荷物を届けた時に修理をしていた船だろう。


船側面に開いていたはずの、砲弾が打ち込まれたような穴は既に塞がっていた。


継ぎ目が一切わからないその修復跡は、熟練の職人のなせる技だろう。


そのほかにもあった、折れた手すりや外れた扉など、細かい破損や壁の傷も綺麗に修理されている。


忙しそうに働く船大工と、青く透き通った透明度の高い海を交互に眺めながら、俺は話しかけるタイミングを伺っていた。


(忙しそうだなぁ……)


今日も船大工達は忙しそうに働いている。

相変わらず皆んな死にそうな顔をしているが、昨日よりはまだマシな顔つきだ。希釈花汁が効いたのだろうか。








「おう、来てたのか」


しばらく待っていると、肩にデカイ木槌を担いだクラウスが歩いて来た。


「クラウスさん。こんばんは。小瓶の事とお伺いしましたが、どうかしましたか?」

「おう。わざわざ来てもらって申し訳ないな……。まぁ……、いや、その、なんだ……。小瓶の事は建前でな。実はそうじゃないんだ」

「と、言いますと?」


俺が聞き返すと「紹介する」とクラウスが言い、船の陰から誰かが歩いて来た。


「あっ! あんたは!」


その人の顔を見たノーチェが驚いている。


「流石に知ってるか、この街では有名人だからな」

「ベック、この人だ。この人がタゴン焼き屋、《オクタゴン》の店主だよ」


目の前にいるのは綺麗な女性だった。

力強い目つき、筋の通った鼻、その佇まいからは意志の強さが感じられる。

特徴的な赤い頭髪は、編み込まれた毛束が八本に分かれている。確かドレットヘアーという髪型だったはずだ。

その八本の毛束は、まるでお弁当に入っているタコウィンナーの足の様に、ぴょんと外側にはねていた。


この人がノーチェがべた褒めしていた、大層美味いタゴン焼き屋の店主か。

てっきり俺は、商業ギルドの副マスターと聞いていたから、厳ついおっさんか何かがやっているものだと思っていた。


彼女の来ているのは店の制服だろうか、どことなく和風テイストな黒い衣装を纏った彼女は、非常に真面目そうな雰囲気だ。


「そんなに私を見つめるな。孕ませるつもりか?」


前言撤回。完全に頭おかしい奴だ。

いきなり何言ってるんだこいつは……。

見ただけで孕む訳ないだろうが。


俺とノーチェがいきなり浴びせられた台詞に絶句していると、見かねたクラウスが間に入ってきた。


「悪い。こいつの名前はキョウカ。かなり頭のおかしい奴なんだが、少しだけ男が嫌いなだけで悪い奴じゃないんだ」

「そ、そうですか……。で、話とはなんでしょうか」

「ほら、話があるんだろ? 俺も忙しいんだ。さっさと話せ」


グイッとキョウカの肩を前に押し出す。

クラウスは苛ついた様子だ。

若干の沈黙。

船大工達の作業している音が造船所に響いている。


「悪いな、冗談だ。どうも商業ギルドのギルドマスターのセクハラのせいで男が若干苦手になっていてな。クラウスに呼んでもらったのは他でもない。君達にお願いがあって来たんだ」


キョウカは頭を下げた。


「頭をあげてください。なぜ依頼ではなく、お願いなんでしょうか」

「依頼という形で出してしまうと色々問題が出るのだよ」

「問題だと? まさか、俺っち達に犯罪の片棒を担げって訳じゃねぇだろうなぁ?」


警戒した様子でノーチェが言った。

俺もノーチェと同意見だった。

依頼できないって犯罪とかか?


「犯罪なんてとんでもない。見張ってほしい奴がいるんだ。もちろん報酬だって払わせてもらう。ただそれを冒険者ギルドに依頼として出してしまうと、それが標的にバレる可能性がある」


見張る対象は冒険者ギルドの関係者か?

それにしても一体なんのために見張るんだ。

今俺たちは海賊の討伐依頼を受けてしまっている。


一週間後に向けて準備もあるし、少しでも情報を得るための被害者達へに聞き込みも終わっていない。そんな忙しい中、更にそこに特定の人物を見張るなんて依頼をこなせるだけの時間があるだろうか。


「俺たちは今、海賊に関する依頼を受けてしまっています。とてもじゃないですが、見張りなんてやってる暇がないですよ」

「それを知った上でお願いをしているんだ」


現状を説明し断ろうとすると、キョウカが急に俺の手を握り「これで海賊が捕まえられるかもしれない」と切実にお願いして来た。


「どういう事です?」

「私はここ何日か店を休んで色々調べ回った。材料がないからそもそも開店できなかったしな。商業ギルドに上がって来た被害者名簿を通じて被害者とも話したし、クラウスにも協力してもらい、ここ、造船ギルドで被害にあった船舶やその持ち主についても調べたんだ。その結果ある疑惑が浮上して来た」

「疑惑……ですか」

「あぁ、北側の人間が仕組んでいるかも知れないという疑惑がな。そしてそれは昨日の夕方、タゴン焼きを売っている屋台を見て確信したよ」


もしそれが本当の事なら、商業ギルドのギルドマスターがこの海賊騒ぎに関わっているって事か?


まさか選挙で有利になるために、自作自演の海賊騒ぎを起こしていると?


だとしたら大問題だが、あくまで疑惑だ。

彼女は確信したと言っているが、一方的な主張だけ聞いて判断するわけにはいかない。

鵜呑みにして間違ってました、じゃシャレにならないからな。

しっかりと裏を取る必要がある。

そうなると、海賊討伐まで一週間あるというのはちょうど良かったのかも知れない。


「見張ってほしい奴の名前はな──」



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