148話 静電気と打算
商業ギルドのギルドマスターとの会談は、結果から言うとあまり意味が無かった。
おおよそアスタールに聞いた情報と変わりが無かったからだ。
その中でも有用だった情報は、街内の商店が大きく分けて北と南の二つの派閥に分かれている事と、被害者の内数名の所在がわかった事、そして選挙がある事くらいだろうか。
「おかえり。さっき冒険者ギルドのサムがお前のこと探してたぞ」
「俺を? もしかして領主様から連絡でも来たのかな」
「さぁ? 帰ってきたら伝えとくって言っておいたからギルドに顔を出しといてくれよ」
宿屋に帰ると、どうやら部屋にサムが訪ねてきたようだ。
花ちゃんは寝ているようなので、そのまま部屋で寝かせたまま、俺とノーチェは冒険者ギルドへと向かった。
「あっベックさん。お呼びだてして申し訳ありません。二点ほど報告がありまして……」
サムは手元に書類を用意し、目を通した後用件を話し始めた。
「先ずお伝えさせていただくのは、造船ギルドのクラウスさんから、「小瓶の事で話がある」と伝言を受けています。それ以外には何も仰らなかったのですが、何かご存知ですか?」
小瓶ってことはあの栄養剤、もとい希釈花汁のことか。
気に入ったからまた寄越せってことなのかな。
だとしたら余計なことをしてしまったのかもしれない。
疲れ果てた船大工達の慰労の為に渡した小瓶が、さらなる悲劇を生み出してしまった可能性が出てきたな……。
ブラック企業、恐るべし。
「それともう一つ、こちらは海賊の件についてですね。出航の日時が決まった様です。一週間後の早朝、冒険者ギルド前に集合しろとナーナイル様から仰せつかっております」
一週間後の朝?
五十人の衛兵を乗せた船が一隻行方不明なのに、一週間後ってゆっくりしすぎじゃないか……?
「……私も、いえ、ギルドとしても、同じ意見の職員はいます」
俺がその期日の長さを聞いて眉根に皺を寄せると、サムも同じような顔で言った。
「ですが仕方のないことでもあります。今このブリッジポートには、海賊を捕らえることの出来うる船舶が無いのです。漁船は論外ですし、冒険者ギルドの船もないですからね……」
そうか。海に出た漁船は軒並み被害にあってるんだったな。
だからこそ造船ギルドがブラック企業化してるんだった。
瞳を閉じるとジャックと呼ばれる若人の、休憩を懇願するあの切ない表情が鮮明に思い出される。
「一週間後ならその船が用意できると、そう言うことなんですかね」
「恐らくそうだと思われます。これ以上被害が拡大しないように、明日にでも商業ギルドから、漁には出ないように通達を出すと言う話を聞いています」
「その通達って拘束力あるんですか?」
「いえ、あくまでも注意喚起に止まりますね……。この通達を程のいい隠れ蓑にするつもりだと思います」
なるほど、商業ギルドとしては注意したから何かあっても自己責任ですよって言う話で押し通すつもりか。
今日営業してたタゴン焼き屋や鮮魚店のように、求める人間がいるのであれば漁に出る漁船はある程度居そうだ。
そう言う店が現状を見て、獲ってきた魚に高値をつけると言い始めたらもう止めようがないだろう。
需要があるから供給があるのである。つまりは明日以降も漁に出る漁船は後を絶たないだろう。
「商業ギルドも随分セコいことするんだなぁ」
ノーチェがポツリと言う。
「まぁ、一枚岩じゃないみたいだからね。苦肉の策ってやつなんじゃないかな」
そう、商業ギルドは一枚岩でない。これは商業ギルドのギルドマスターの言葉の端々に感じる南側への差別的な言い回しと、他の職員や出入りしている店の店主達の副マスターへの信頼の厚さがそう感じさせる一端となっていた。
「どう言うことだ?」
「北側はギルドマスター派閥で、南側は《オクタゴン》の店主である副マスターの派閥みたい。あんまり仲良くないみたいでさ。意見をまとめるのが大変みたいだよ」
それに近々、商業ギルドのギルドマスター選挙があるらしい。
現ギルドマスターとしては、再選のためにも今のうちに評価を上げておきたいところだろう。
ブリッジポートで商売している商店一店舗につき一票の投票権があるようで、今のところ副マスターが優勢らしい。現ギルドマスターはこの海賊騒ぎをなんとか解決して、支持率を上げていきたいという思惑があるだろう。
「縄張り争いみたいなもんか。こんな時までそんな事してないで協力し合えばいいのにな」
「その通りだけど、人間誰しも自分の利益になる様に打算的になりがちだから仕方ないんじゃね」
「……商売ってめんどくせぇな」
「別に商売に限った話じゃないでしょ。俺としてはさっさと海賊を退治して、美味しい海鮮食って、《海底神殿》に行って見たいよ」
その後少しだけサムと話をした後、造船ギルドへと向かうのであった。




