146話 静電気とタゴン焼き?
やっぱりどの冒険者ギルドも、建物の構造は大体同じ感じなのだなぁと、建物内部をぐるりと見回しながら思う。
チェーン展開している小売販売の大企業なんかは、別段の事情がない限り、全く同じ条件で建物を建て、その内装やレイアウト、店舗の作りは一緒の事がほとんどだ。
これは人事異動などでいつ、どこに、誰が行っても同じ仕事が出来るように基準を決め、無駄な労力を使わないようにする為の措置だが、大企業でもできていない企業は一定数存在する。
そう考えると、どこに行っても同じような建物の冒険者ギルドはかなり進んでいて、ギルドマスターや職員の人事異動の為にこういった作りになっているのかもしれない。
冒険者ギルドに人事異動があるのかどうかは知らないが……。
(あ、違うか? もしかしたら冒険者の為って事もあるか)
各地を転々と周り、様々な仕事を受ける冒険者の負担を減らす為でもあるのか……と、そんな事を考えながら似たような階段を登り、依頼の詳細を聞くために二階にある応接室に来ていた。
「討伐って、実際にはどうするんですか? 海賊だと人間が相手って事ですよね」
魔物ならまだしも、人間相手だと若干気が引ける。
出来る事なら傷つけたくないし、傷つけられたくない。
でも、身にかかる火の粉は払わなくてはいけないし、覚悟を決めておかなくてはいけない。
最悪の状況も考えておかなくては。
海賊が俺たちより強い可能性だってある。
拘束できない場合、殺らなきゃ殺られる、そんな二択を迫られたら俺はどうすべきだろうか。
「……そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
アスタールが歯切れの悪い言い方をする。
「どういうことですか?」
「まず、今まで襲われた漁船は全て奇襲にあっています。濃い霧が発生した直後、轟音と衝撃が船を貫き、気がついた時には沈没しかけているというパターンが多く、実際に海賊の顔を見た者は居ないのです。沈められた漁船や逃げ延びた漁船の船員は、近くにいた同業者によって救出されています」
「霧の中からの奇襲……、随分とおっかねぇなぁ。霧って何かの魔法なのかね」
「花ちゃん、霧を発生させる魔法なんてあるのかな?」
「あるよー。水属性魔法のスワームウォーター!」
「じゃあ海賊の中に魔法使いがいる事も頭に入れておかないとね」
「対人戦かぁ……。俺っちあんまり得意じゃないんだよなぁ。こう、加減が難しくてよ」
「海賊船の乗組員の姿が確認されてない以上、魔物である可能性も否定できないのですよ」
「まさか、船で魔物と言ったら……幽霊船……?」
「ありえない話ではないと思います。なにせ《海底神殿》のそばですからね……」
「ぞっとしますね……」
その後も船の外見や遭遇した場所などを聞き、今日はお開きになった。後日、領主であり、依頼主でもあるフレデリカから海賊討伐の日時や作戦が連絡される事になり、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
◇
夕暮れ時の屋台通りを歩きながら、依頼について話し合う。
空に眼を向けると、青と赤が入り混じる幻想的な風景が広がっていた。
「それにしても海賊たちはなんで漁船ばっか狙うんだろうな?」
「どういう事? 海賊ってそういうものじゃないの?」
「海賊そのものの話じゃなくてよ、漁船なんか狙っても全くと言っていいほど旨味がなくねぇかって話だよ」
「食い物に困ってるとかじゃ? 後は転売とか」
「困ってるんだったら尚更奇襲で沈めちゃダメだろ。乗り込んで制圧して奪ってから沈めねぇと。それに奪った魚を転売なんかしてたら、今頃海賊の顔はバッチリ割れてると俺っちは思うけどね」
確かに沈めたら漁船を襲う意味がないな。
商船が来るのかどうかは分からないけど、金品を強奪されたって話もしてなかったし、海賊たちは何か別に狙いがあるのだろうか。
「なんか良い匂いがする〜!」
花ちゃんが空中に向かって鼻をヒクヒクさせながら歩いていく。口の端っこからは光る雫が垂れているように見えた。
(魚を焼く匂いか……? 香ばしい良い香りが辺りに漂っているな)
前を行く花ちゃんが、ニオイの元に向かって急に駆けだした。
「あっ、花ちゃん! 一人で行くと迷子になるぞ」
「だいじょうぶだよっ!」
「俺っちも行くぜ!!」
「ちょ、待てよ!」
花ちゃんとノーチェの後を追いかけると、屋台通りの一角が人混みで溢れかえり、行列が出来上がっていた。
「おっさん! いつまで待たせるんだよ!」
「おいお前! 割り込みすんじゃねぇ!」
「くそ〜! このニオイ、腹が減ってしょうがねぇ!」
「もう一本だ! もう一本くれ!」
「最後尾はこちらで〜す! 順番にお並びくださ〜い!!」
香ばしい香りの香る屋台の周囲は混乱している。
何を売っているかは窺い知れないが、食欲を唆るニオイの元であろうそれを求める怒号が響き、屋台の周囲には殺気が立ち込めていた。
「おいベック! 来てみろよ! タゴン焼きが売ってるぞ!」
「タゴン焼き? 昼間行った店と違うみたいだけど?」
「移転でもしたんじゃねぇか? 取り敢えず並ぼうぜ!」
「花ちゃんも食べる!!」
列の一番後ろに並ぶ事数十分。
「お待たせいたしやした」
「やっと順番が来たか! 親父、タゴン焼き三つくれ。後そこのカッツォの串焼きも頼む」
「あいよ!」
手際良くノーチェが注文していく。
屋台の主人の威勢の良い掛け声とともに、いくつもの半球形に凹んだ鉄板に、白濁した様々な具材が混ざった液体が流し込まれると、じゅうぅぅぅぅぅという音と共に、美味しそうな匂いが屋台をとその周囲を包み込んだ。
その凹みに生地が均等に入るのを確認した店主は、脇にあった容器から、吸盤の付いた紫色の食材を投げ入れて行く。
ある程度火が通ると、手に持ったアイスピックのような道具で生地をひっくり返している。若干ぎこちないが一個一個くるくると回していく。
タゴン焼きは非常に見覚えのある、懐かしい料理だった。
たこ焼きである。
大方、こちらの世界に来た勇者が伝えたのだろう。
それにしても海鮮系の屋台や商店は軒並み閉店しているのに、なんでこの屋台だけこんなに商品が揃ってるんだ?
よく見ると数軒先の鮮魚店も賑わっているが、ほかの店は閑古鳥が泣いているようだ。
その様子にノーチェも気になったのか、商品を受け取る際にどうしてこの店は開店できているか聴くと、「今朝水揚げされたものが、たまたま入荷したんだ」との事だった。
昨日海賊が出たばっかなのに、漁に出るやつなんているのか。
プロ根性ってやつなのかなぁ。海賊になんて負けてられるかって言う漁師たちの気概なのだろうか。
ふわっとした口当たりと、プリッとしたオクタゴンの食感を楽しみながら、本日の宿屋へと向かって歩き始めた。




