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144話 静電気と造船ギルド



様々な声やカチャカチャという食事の音が、昼時で賑わい始めた冒険者ギルド内に響く。食事時ということで、ギルドに併設してある酒場は大忙しだ。


様々な人種のウエイターが忙しなく料理を運び、飲み物を運ぶ。その料理の舌鼓を打ち、運ばれた酒で喉を潤す冒険者達は幸せそうな顔で互いの武勇伝を語り合う。


「ふ〜。食った食った。それにしても賑やかになってきたな」

「昼時だしな。それにしても人参のステーキなんてあるんだな。初めて知ったよ」

「頼めば結構色々なもん作ってくれるんだぜ」

「へぇ〜。今度俺も何かリクエストしてみようかな」

「花ちゃんもステーキ食べたい! 小鬼(ゴブリン)ステーキがいい!」

「流石に俺っちもゴブリンステーキは聞いたことないけど……?」


小鬼ステーキ……。

花ちゃん、小鬼丸かじり好きだからなぁ……。

想像しただけで吐きそう。

でも牛頭人とか豚頭人は結構美味いからな、もしかしたら小鬼もワンチャンあるかもしれない。

……ないか。


「それにしても港町に来てまで肉かぁ……」

「ま、今日は初日だし、たまたま運がなかっただけだろ。明日あたりはきっと食えるさ」


魚介を堪能したかった俺は、残念な気持ちで冒険者ギルドで食事をした後、手紙と荷物の配達のために造船ギルドに向かう。


道中屋台通りを抜けて来たのだが、やはり人が多い割にはあまり賑わっていなかった。


何処と無く、皆んな暗い表情だ。


「──! ────!」

「──!? ──」

「──!」「──……」


造船ギルドに近づくにつれ、なにやら罵声や怒号が聞こえるようになって来る。


「急に賑やかになって来たな」

「あの船が並んでるところから聞こえて来るぞ」

「あれが船〜? 大きいねぇ!」


造船ギルドには海から引き上げられた船がずらりと並んでいた。

水面より若干高い位置に、煉瓦で積み上げられた石壁が船と同じ様な形を象っている。



海海海l陸地陸地陸地陸地陸地陸地    商店商店

海海海l排水排水陸地陸地陸地陸地    商店商店

海海 鉄───穴──\ 陸地陸地    商店商店

海海 l  海水or船  〕親地陸地 道路 商店商店

海海 壁───穴──/ 陸地陸地    商店商店

海海海l排水排水陸地陸地陸地陸地    商店商店

海海海l陸地陸地陸地陸地陸俺花兎    商店商店



その石壁よりも掘り下げられた地面と海に面しているせり上がった鉄壁を見るに、船が無い時はここに海水が溜まっており、船を招き入れた後、側面の壁に空いている穴から備え付いているポンプを使い海水を排水する事で、船底まで作業できるようになる設計のようだ。


海水を抜かれ船底に滑車をかまされて停泊している船を見ると、風を受けるマストや船首が折れていたり、側面に穴が開いていたりと、どの船にも戦闘の跡がとって見られた。


水が抜かれ停泊している船の周囲では青と白の横縞模様の服を着た男達が、ハンマーやノコギリなどの工具を片手に作業を行なっており、額に大粒の汗を浮かばせながら一心不乱に働いていた。


その中でも一際体の大きい、筋肉質で胸板の厚い男が、潮風によって痛み白髪の混じった黒蓬髪を掻き上げながら、作業員達に大きな声を張り上げている。


「おい! テメェらちんたらしてんじゃねぇぞ!! 修理依頼が溜まってんだ! 昼飯だって食ってる時間はねぇからな!!!」

「親方ぁ! もう昨日の朝から働きっぱなしで、おいら達死んじまうよぉ〜!」


頭に黒いバンダナをした若い男が、縋り付くような目で親方と呼ぶ筋肉ダルマを見ている。

いや、実際に目だけではなく身体全体を使って足元に縋り付いている。

昨日の朝からって完全にブラック企業じゃねぇか……。


「ナマ言ってんじゃねぇ! ヤツのお陰で今が稼ぎ時じゃねぇか! お前ら! 気合い入れろや!!」

「「「「そんなぁ……」」」」


周囲にいる作業員も、半数ほどが白眼を剥き、今にも倒れそうな状況だ。


「聞いてんのか!?」

「「「「親方ぁ……」」」」


黒バンダナの男同様に、周囲にいた作業員達も親方と呼ばれる男の足に縋り付いている。


「……ちっ、仕方ねぇ。昼休憩だ! 一時間くれてやる。いいか? きっちり一時間だからな!」

「「「「親方ぁ!!!」」」」


「はぁ……」とため息と付き、頭をガシガシと掻きながら「ほかの奴等にも伝えてこい!」と、足に縋り付く作業員を蹴っ飛ばす。


その言葉を聞き、作業員達の顔がパァっと明るくなり、他の造船ドックで作業している人々から歓声が上がった。


休憩で歓声が上がるって……。


親方って事はあの人が届け主のクラウスか。

行動から察するに、サラの言う通り気難しそうだ。

だが、面倒見が悪いわけではない。

うまく打ち解けることが出来れば、仲良くなれるかもしれないな。

ちょうど休憩に入ったようだし声を掛けてみるか。


大樽に腰をかけ葉巻を吸っているクラウスに声をかける。


「お忙しいところすいません」


とことこと近寄り、少し離れた所から声をかけると、クラウスは鋭い目でじろりとこちらを見遣り「何か用か、牛野郎」とつっけんどんな態度で応じてきた。


こりゃ確かに気難しいなと、心の中で思いつつも誠実な態度で配達物を届けにきた事を告げる。


「てめぇ冒険者か? 被り物なんかしてねぇで面見せろや」


おっと……。言われてみればその通りだ。

言うなればクラウスは客、顔も見せずに応対するなんて失礼極まりないな。


「失礼致しました。冒険者のベックです」

「ベック……。どっかで聞いた名前だな」


俺は被っていた牛頭人王の外套を脱ぎ、相手の目を見て頭を下げて挨拶をした。


クラウスが「ふんっ」と鼻で笑うと、胸の動きと共に咥えている葉巻の火が明滅する。

吸い込んだ煙をふぅと吐き出し、一拍置いてから口を開いた。


「何事も相手の顔を見てからだ。顔もださねぇ奴は信用ならねぇ。商売をする上でも、なにをする上でもな。俺はよ、顔のねぇ奴は信用できねぇんだ」

「全くもって仰る通りです」


顔のねぇ奴……、変な言い回しだが言いたいことはわかる。目出し帽を被ったまま商談するようなもんだな。


「……ふん。わかりゃいいんだ。それにしても届くのが随分早いな。出発したと聞いたのは五日前だぞ。王都からここまで少なくとも二週間はかかると思っていたが」

「普通に馬車に乗って来ましたよ」

「はっ! そりゃそうか。そいつは悪かったな。俺たち船大工にも秘伝の一つや二つあるからな。冒険者も同じってことか」


なんか勝手に秘密だと勘違いしてるな。

普通に花ちゃんに乗って来ただけだから隠す必要もないのだが。

まぁ、いちいち訂正するのも面倒だ。さっさと書類にサインを貰って冒険者ギルドに帰るか。


「ではこちらが手紙と荷物です。この書類にサインを頂いても良いですか?」

「あぁ、ご苦労だった」

「あ、後これ。宜しかったら皆んなで飲んでください」


俺はカバンの中に入っていた小瓶をいくつか渡す。

花汁を希釈した回復薬だ。

飲むと元気になる。

栄養ドリンクみたいなものだな。

ブラック企業の社員にはよく似合う。


「何だこれ。回復薬か?」

「似たようなものです。飲むと元気になれますよ」

「有り難く頂いておこう」


無事受け渡しを完了し、造船ギルドを後にした。





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