143話 静電気と海洋都市②
王都を出て五日、磯の香りが漂う海洋都市、ブリッジポートに着いた。
花ちゃん絡みの大きな揉め事も無く、すんなりと街中に入る事ができ、一安心といったところだ。
門を抜け街中に入ると、ボラルスの街や王都とはまた一味違う雰囲気に圧倒されそうになる。
「随分と人が多いな。王都の市場より人口密度が高いんじゃないか?」
「人口密度? なんだそりゃ」
「どこもかしこも人で溢れてるってことだよ」
「なるほど、確かにな」
見渡す限り……と言うほどでもないが、何処を見ても人、人、人と商店や売店が立ち並ぶ道路には様々な格好をした人々で賑わっていた。
剣を携えた冒険者や、頭にハチマキを巻いた漁師風のリザードマン、空の馬車を引き残念そうな顔をしている猫耳商人など多くの人間が見て取れる。
「人がいる割には店に活気がねぇなぁ」
人混みを掻き分けながら進みとノーチェがポツリと言った。
言われてみると確かにそうだ。店を覗いて見ても、農産物や畜産物を売っている商店は賑わっているが、この街の特産である肝心の海産物を売っている商店の元気が無いように見える。
売っている商品も干物や乾物などの日持ちのする商品ばかりだ。鮮魚と言われている生の魚はちんまい魚ばかりで大型の魚はほとんど陳列されていない。
これでは川魚しか販売していない、王都の小さな名ばかり鮮魚店と変わらないではないか。
「パパ〜。今日のお昼は何にするの?」
花ちゃんがお腹をさすりながら言う。
そういえば今は昼時か。
せっかく海産物で有名な場所に来たんだ。
何かしらの魚介を味わいたいと思うのだが。
焼きハマグリとか、イカ焼きとかないかな。
めちゃくちゃ大好物なんだが。
「何処かにいい屋台でもないか探してみよっか」
「海鮮?」
「海の食べ物だよ。魚とか貝とか」
「花ちゃんも海鮮食べたい!」
「俺っちも久し振りにあれが食べてぇな」
「「あれ?」」
「あれだよ、あれ」
俺と花ちゃんは首を傾げ、なんのことだと二人で見つめ合う。
「んだよ知らねーのか? タゴン焼きだよ。タゴン焼き」
「「??」」
「まじかよ……。ブリッジポートのタゴン焼きっつったら超有名じゃねーか!」
「すまん。全く知らないわ……」
「花ちゃんも……」
「ったく……案内してやるよ。こっち着いてこい。めちゃくちゃうめーからよ!」
ノーチェの先導でタゴン焼きとやらが売っている屋台へと移動したが……。
「あれ……? 閉まってんのか?」
「なんだよ、売ってないじゃん。ダンゴ焼きだっけ?」
「タゴン焼きだよ〜パパ」
屋台の前に到着するが、扉は閉まっておりどうやら閉店しているようだった。
「ここに来るまでも思ったけどさ。随分店が閉まってないかね。ノーチェ君」
「誰だよ、お前……。閉まってるのなんて、夜以外見たことないんだけどなぁ」
「花ちゃんお腹すいたよぉ〜」
「諦めて冒険者ギルド行くかぁ。あそこの酒場なら少しは食うものあるだろ」
「そうだな。タゴン焼きはまた今度だな」
王都よりふた回り程小さな建物がこの街の冒険者ギルドだ。
外観はどの街の冒険者ギルドも変わらない。
潮風で錆びた蝶番のついた木製の扉をあけると、複数の視線が一斉にこちらへ向いた。
「おい、あれ見てみろよ」
「……ん? ありゃあ『雷帝』じゃねぇか」
「雷帝ってあの『雷帝』か? 『オレガルドの英雄』ピッタに土つけたって言う?」
「あぁ、あの格好間違いねぇ。あんまり見んなよ。殺されるぞ。勇者の行方不明にあいつが関わってるって話だ」
おいおい、なんか物騒な話になってんぞ。
勇者アキラって行方不明にになってんのか?
俺が殺したみたいな言い方辞めてもらいたいんだが……。
「お前すっかり有名人だな。いつの間にエロ勇者ぶっ殺したんだよ」
「殺してねぇよ!」
「パパ! 人は殺しちゃダメなんだよ! メっ!」
「花ちゃんまで!? 人殺しなんてしてないよ!」
「冗談だよ。取り敢えず飯にしようぜ?」
「お腹すいた〜!」
視線と噂話を無視して酒場のテーブルへと向かう。
「オネーサン! 注文おねがーい」
「はーい! お待たせしましたニャ」
猫耳ウェイターが駆け寄って来る。
「おススメの美味しい魚介の料理を三人分お願いします」
「あ〜……。う〜……。魚介ニャ〜……。残念ニャがら今はニャいのニャ」
「ありゃ。材料切れです?」
「そうニャお魚はないのニャ。肉にするニャ」
「海がすぐ側にあるのにおかしい話だな」
「お魚ないの? 花ちゃんお魚食べたいよ〜」
「ニャいもんはニャいのニャ! 黙って肉にするのニャ! 持って来るから待ってるニャ」
猫耳ウェイターは尻尾を左右に揺らしながら厨房に消えていった。
しかし漁業の街のはずなのに、魚がないなんてありか?
たまたまなのか、それともそうじゃないのか。
何れにしても街の様子と合わせて考えてみても、今の街の雰囲気は異常と言える。
その原因は昼食後にすぐ分かることになった。




