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141話 静電気と出立



「じゃあ行ってくるね。昼には一回帰ってくるから、昼食の準備を頼むよ。ララ」

「──はい。かしこまりました。ご主人様」


昨日、冒険者ギルドで受けた依頼を達成させる為に、海洋都市ブリッジポートに向かう事になった。


依頼の内容は手紙と荷物の配達だ。


「じゃあ花ちゃん、お願いしても良いかな?」

「任せて〜! それじゃあいっくよー!」


花ちゃんの頭から生えている髪の毛のような蔓が、ざわざわと音を立てて、ある姿を模っていく。


翠蔓が鎧のように花ちゃんの上半身を包み、勢いそのままに馬の胴体のような下半身を蔓が形づくる。


その姿はファンタジー世界ではお馴染みの、半人半馬の魔物であるケンタウロスだった。


「おぉすごい。パワーアップしてるね」

「そうでしょ〜! こんな事もできるんだよ!」


花ちゃんがそういうと、更に蔓が伸び、その背後には貴族が乗るような豪華な客車が姿を現した。


初めて花ちゃんの変身を見たノーチェは眼を大きく開き、口をパクパクさせている。


「これって大変じゃない? 大丈夫?」

「全然平気だよー。それよりも早く出発しようよ!」


花ちゃんは久しぶりの旅に、そわそわと蔓をくねらせ、待ちきれない様子だ。


「それじゃあ行こうか。疲れたらすぐ言うんだよ?」

「ありがとう!パパ!」


まだ放心状態のノーチェに「おーい、行くぞー」と声をかけ客車に乗り込む。


音もなく動き出した客車に揺られながら、昨日受けた依頼の内容を思い出していた。









依頼を持ってカウンターに向かうと、ちょうど前の冒険者の受付を終えたサラと目が合った。


「サラさん、こんにちは。この依頼お願いします」

「えぇっ? ベックさん、配達の依頼なんて受けるんですか?」


サラは俺が置いた依頼書を見て驚いている。


「えっ? 何か不味かったですか?」

「い、いえ……。こう言ってはあれですが、配達の依頼を受ける冒険者の方って殆ど居ないんですよ。指名依頼でもない限り報酬は格安で実入りがとっても少ないですので……」

「あぁ、それはノーチェも言ってました。でも届け先にちょっと興味がありまして」

「なるほど。ブリッジポートですか。私も何度か行ったことありますけど、ご飯も美味しいし、海も綺麗ですから今から楽しみですね」


刺身だ。刺身や干物が俺を呼んでいる。

それに、行った先で《海底神殿》にちょこっと顔を出しても良いと思ってる。


魔法使いと相性がいい精神体系(アストラル)の魔物が数多く出る迷宮と聞いているので今から楽しみだ。


「確かにそれも目的のうちの一つですね。えっとそろそろ……」

「あっ、ごめんなさい、無駄話しちゃって。依頼の受付でしたね」

「はい、荷物と手紙を受け取って良いですか? それと詳しい場所をお願いします」


掲示板に書かれている依頼書には、ブリッジポートしか書いてないんだよな。個人名を掲示しないのは個人情報の保護の為らしい。


「配達物は今ご用意しますね。場所はブリッジポートにある造船ギルド。お相手は長であるクラウスさんです。気難しい事で有名な方ですね」

「うわぁ……それを聞いて、なんか一気にめんどくさくなってきました」


気難しいと聞くと、会社の上司を思い出すな……。

言葉少なめで、指示の内容も単語ばっかり、“察しろ、それくらいわかるだろ”みたいな感覚の上司。

周りの社員からもかなり煙たがられていたっけ。


「そんな事言わないでくださいよ。この手の依頼で配達されるものはかなり重要なものが多いので、お届けするだけなら感謝こそすれ、邪険に扱われることはないと思いますし」

「そうだと良いんですけどね……」

「ではこちらが配達物になります。道中気をつけてくださいね。最近は魔物の活性化や街道沿いに盗賊が出るなどの物騒な噂が出ているので……」

「ありがとうございます。では行ってきます。サラさん」

「はい、頑張ってくださいね」









「どうした? 随分静かだな」


蔓の窓の外に目を向ける。

次々と流れるように変わっていく景色を眺めていた。


「ん? あぁ、昨日の事を思い出しててね。サラさんが盗賊が出るから気をつけろって言ってたよ」

「盗賊かぁ。まぁこんなおっかねぇ乗物襲う奴なんていねぇと思うがな」


それもそうか。

今の花ちゃんは翠人馬の外見に加え、蔓で作られた俺の《雷槍》と同じ突撃槍を持ちながら走っている。


街道沿いを走っているとウルフや小鬼などの魔物に遭遇する事も少なくはない。


現に何回か遭遇し、花ちゃんの突撃槍で貫かれ、踏み抜かれ、客車に轢き殺されとその命を散らしていった。


「それにしてもこんなまったりとした旅、俺っち初めて経験するぜ。基本的に馬車で移動だけどよ。ケツがいてーのなんのって」

「あ、やっぱり? 俺も初めて馬車乗った時はすごい尻が痛くてさ。花ちゃんに乗ってからもう普通の馬車乗れなくなっちゃったよ」

「花ちゃんすげぇな」

「うん。すげぇ」


花ちゃんの凄さを再認識した午前中であった。


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