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140話 静電気と残り八名



ニエヴェがカーテンに凌辱……いや、ブラッシングされた翌朝。


「わぁ!ララちゃんって言うんだ!よろしくね!」

「──はい。よろしくお願いいたします。花子様」

「花子じゃなくて、花ちゃんって呼んで!」

「──はい。かしこまりました。花ちゃん様」

「ララちゃん! 様はいらないよ? だから花ちゃんって呼んでね!」

「……──はい。かしこまりました。花……ちゃん」

「うん!」


ララが用意してくれた朝食を食べながら、微笑ましい光景を見守る。


ララは照れた様子で、絞り出すように花ちゃんと呼んだ。


結局花ちゃんは、あれだけ騒ぎになったにも関わらず、昨晩は一度も起きてこなかった。


もしかしたら花ちゃんは、最初から屋敷妖精の事をわかっていたのかもしれない。賢者のおっさんがいる以上、その辺の知識は持ち合わせていたのかも。


ライラとニエヴェは朝早くから、血清作りの為に既に家を出て研究所に向かった。特にニエヴェはバツが悪いのか朝食も食べる事なく、そそくさと居なくなった。


ララはかなり気にした様子だったが、その辺のことは時間が解決してくれるだろう。


残ったライアに話を聴くと、今日中に魔吸虫からの毒抜きを済ませ、抜いた毒を希釈して羊のような毛の生えた馬、《ヒーマ》に注射する予定だそうだ。


それから数週間ヒーマの体内で抗体が出来るまで待ち、抗体が出来ていることが確認できたら、ようやく血清を抽出するための準備が整うらしい。


言葉でいうのは簡単だが、希釈する濃度や注射する量など、詳しいところはライアの記憶が頼りになるようで、「もしかすると問題が出てくるかも……」と不安そうに言っていたが、そこは何とかうまくいってくれる事を祈ろう。


素材になる魔吸虫は、魔樹人の集落に転移魔法陣を設置してきたので簡単に取りに行くことができる。


協力出来るところはしつつ、気長に完成を待つしかない。


(さて……今日からどうしようかな……)


朝食の目玉焼きを口に運びながら、これからの事を考える。


やりたい事、やらなくてはいけない事は沢山ある。


優先順位を付けるとすれば、最重要なのはレベルを上げる事だろうか。


ドルガレオ大陸から帰ってきた時点で俺のレベルは81になった。レベルが上がれば上がるほど肉体の強度や反応速度などが上昇する。


この世界を安全に旅をする為にも、自身の強化は必須事項だろう。それに強い男はモテる……はず!!


そうなるとどうやってレベルを上げようか……。ゲームのように闇雲に狩りをしてレベルを上げるのも良いが、どうせなら冒険者ギルドに行って依頼を受けるのも良いかもしれない。


討伐依頼などあるかもしれない。


(とりあえず今日は冒険者ギルドにいってみるとするか……)











朝早い事もあり、王都の冒険者ギルドは賑わっている。


ギルドのカウンターには、依頼を受ける冒険者や依頼の報告に来た冒険者、朝から飲んだくれているのか、それとも昨晩からいるのかどっちとも取れない酔っ払った冒険者などで溢れかえっている。


「なんか良い依頼あったか?」

亜竜(レッサードラゴン)の討伐なんてあるぞ」

「レッサードラゴン? ドラゴンって事は強いのか?」

「そりゃドラゴンだしな。かなり強いぞ。ただ普通のドラゴンみたいに翼が無い分空飛ばないから楽っちゃ楽だけどな」

「一か月前に張り出してあるのか……。未だに受ける冒険者はいないみたいだね」

「報酬の上乗せが二週間前に途絶えてるだろ? もしかしたら今頃はその村、地図からなくなってるかもな」


家で暇そうにしていたノーチェを連れて、冒険者ギルドに依頼を受けにきていた。依頼の良し悪しの判断をノーチェに教えてもらう為だ。花ちゃんは朝から庭いじりをしている。


今見た依頼からも分かるように、やはりこの世界は弱肉強食。


レッサードラゴンの討伐依頼の追加報酬の用紙は二週間前からパッタリと止まっている。ここからわかる事は、追加できる報酬がなくなったか、そもそも村自体がなくなったかのどちらかと考えられるだろう。


このように掲示板を見るだけでも、実に様々なことが見えてくる。


俺はA等級になるまでの間に、数えるほどしか依頼を受けていない。これを機に色々と依頼を受けて、経験を積んでおきたいと考えていた。


「クテ草採取にブリッジポートへの荷物と手紙の配達、砂漠国家ティラガードへの護衛……。うーん、どれも微妙だな……。美味そうな依頼はなさそうだ」

「報酬とかの美味さは別に気にしないで良いよ。とりあえず冒険者ギルドからの信頼を得たいんだ」


レベル上げは依頼の途中でも出来るかもしれないが、冒険者ギルドからの信頼は依頼を達成しないと得られない。


レベル上げによる肉体の強化は最重要だが、対外的な信用の獲得も重要だ。目標の一つでもあるS等級になる為には必須と言える。


「信頼? A等級の時点でかなり信用を得られてると思うぜ?」

「俺にはまだそれだけじゃ足りないんだよ」

「ははっ! S等級にでもなるつもりかよ。……ん〜、だとしたら手紙配達や護衛任務はかなりポイント高いと思うけどな」

「そうなの?」

「手紙や荷物、護衛任務は、冒険者の強さや信用が無いと受けられないからな。ほら見てみろよ。受付可能の冒険者等級がAからになってるだろ? 普通、こういう依頼は名指しの場合が多いいんだ。ちょびっとばかしきなくせぇが、大方の予想だと指名料をケチっての事じゃねーかな」


S等級の冒険者になるには、何かしらの偉業を成し遂げ、少なくとも十の様々な地域にある冒険者ギルドのギルドマスターからの信任を得なくてはいけない。


今のところ推薦してくれそうなギルドマスターは、ボラルスの街のギルドマスターであるアンブリックと、ギベニューの宿場町のギルドマスターのフラウくらいだ。


グランドマスターは……よくわからん。


ドルガレオ大陸から帰って来た時の報告にしても、「報告はサラに頼む」と言ってそそくさと執務室に戻っていったしな。


なのでグランドマスターに期待できない以上、少なくとも残り八人のギルドマスターの承認を得る必要があると言えるのだ。


それにしても、冒険者に荷物運びを頼むなんて、この世界は郵便配達ってないのかな。


「護衛はわかるけどさ、郵便配達ってないのか?」

「郵便配達って何だ?」

「手紙とか荷物を運ぶ仕事の事だよ」

「うーん、そんな仕事はないな。あるとしても行商人に手間賃を渡して運んでもらうんだけど、手紙ならまだしも荷物はほとんど盗まれちまうし、途中で魔物にやられちまう事もあるからな。そんなんだからか頼む方もよ、届けば良いなくらいにしか思ってないんだよ」


なるほど……。信用と、ある程度の魔物を倒せる強さが必要ってことか。


「だから本当に届けたいものがある場合は、高等級の冒険者を使う場合が多いってわけだな」

「そういう事なのね。ちょっとサラさんに詳しい内容聞いてみるか」

「配達すんのか? めんどくさいなぁ」

「ま、行った事のないところに行ってみたいって言うのもあるし、依頼のついでにって言うのだったら悪い話じゃないかなって思ってね。それに俺がいればいつでも帰って来れるからな」


ブリッジポートは行ったことのない場所だ。

もちろんここの冒険者ギルドのギルドマスターにも会ったことない。依頼を受けるついでに、ブリッジポートに行き、あっちの冒険者ギルドの依頼をそれなりにクリアして、ギルドマスターの信頼を獲得するのもありだと考えている。


それにブリッジポートは海沿いの街だ。海鮮も楽しみだし、高難易度迷宮である《海底神殿》も気になる。


「あ、そうか。気軽に帰って来れんのか」


ノーチェはもふもふの手をポンと打って「なるほど」と頷いた。


「その通り。めんどくさくないだろ?」

「確かにそれなら行って見ても良いな。それにしても、本当にお前って便利だな。俺っちも覚えたかったけど無理だったしな〜」

「行きたいところあったら言ってくれれば連れてくぞ。俺が行ったことあるところしか連れていけないけどな」

「じゃあ今度またドルガレオ大陸行こうぜ。もっと奥行ってみてぇ」

「そうだね。嘆きの樹海の奥も気のなることだし、そのうち行ってみよう」


ノーチェも気がついた通り、俺が使える転移魔法のお陰で、気軽に旅に出る事も可能になった。


行った先で転移魔法陣を刻んで、用があれば新居に戻ってくれば良い。用事が済んだらまた刻んだ場所まで転移魔法で戻る。

野営の必要すらなくなった旅はまさにイージーゲームだ。


俺は掲示板に貼ってある依頼書を千切り、サラさんの座る受付カウンターまで持っていった。



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