13話 静電気と花ちゃん
「花ちゃんあの植物は何?」
『ただの雑草だよーパパ』
「そっかー!じゃああれは!?」
『あれはクテ草だよー、食べると痛いのがなくなるみたいだよ!』
「凄いねえー。花ちゃんは物知りだねえ」
『うん!花ちゃん物知りー!』
あぁ……。
花ちゃん可愛いなあ。
癒されるわ〜。
今俺は植物、主に薬草などを採取しながら、ボラルスの街までゆっくりと歩いて帰っている。
正確には俺は歩いていないが、それは後で説明しよう。
ウルガ村の鉱山の盆地の巨木の中に居た花ちゃんは、俺が原因で変異した、魔界草と呼ばれる種類の植物の変異体らしい。
本来ならば、花ちゃんの種族?である魔界草はダンジョンや《世界の終わり》と呼ばれる、魔力の濃い大陸のドルガレオ大陸と、人間側の大陸であるオレガルド大陸の境目に多く自生している食肉植物のようだが、ひょんな事で自我と知恵をつけてしまった。
そんなこんなでウルガ村での異変調査の依頼を達成し、今は帰路についている途中だ。
何故かは分からないが、花ちゃんは植物の事や土地の事について、物凄く詳しい。
花ちゃんに聞いてみても『お話ししているのー』との事なのだが、訳がわからん。
植物と会話でも出来るのだろうか。
その知識の源がどこから来ているかは分からないが、それは些細な事だと思う。
だって花ちゃん、滅茶苦茶可愛いんだもん。
うん。可愛いは正義。間違いない。
俺の右肩に乗った花ちゃんの茎部分から出てる蔓は、愛おしいものを撫でる様に俺の右腕に巻き付いている。其処に不快感はなく、むしろ何だか嬉しいくらいだ。求められるっていいね。
恐らく岩小鬼殲滅戦で特大の《雷銃》の魔力を浴びて成長したからだと考えているが、花ちゃんには電気耐性がある様で、俺に触れても感電することはない。
◇
話は初めに戻るが、何故俺が歩いていないかというと、花ちゃんに運んで貰っているからだ。
訳わからないよね?
俺も最初は見た時は、意味が分からなかった。
簡単に説明させてもらうと、右肩に乗っている花ちゃんの背中に、俺が乗っているのだ。
さらに分からないよね?
つまりはこういう事だ。
花ちゃんは自由自在に動く触手の様な蔓がたくさん生えている。これは伸縮自在でもあり、この三十センチほどの小さな体のどこに入っているか分からないその蔓を、何重にも重ね合いながら器用に馬の形をした蔓の塊を作り出しているのだ。
つまり俺は今、植物の馬に乗っているって事だ。
これが非常に乗り心地がいい。
蔓で出来た馬には背もたれは付いているし、花ちゃんがしっかりと俺の尻にフィットする様に柔らかく支えてくれるのだ。
ウルガ村から帰る際に村長のバガマが馬車を出してくれるとの事だったのだが、サスペンションの効いた柔らかいシートの車で慣れた現代人の俺に、馬車の座席が硬く、振動の強い乗り心地は苦痛だった。
そんな俺の思考を詠んだのか、花ちゃんが村人達の眼の前でこの椅子付きの植物の馬を作り出してくれたのだ。
村人も俺も間抜け面を晒していたと思う。
そんなこんなで、花ちゃんと二人楽しく、ボラルスの街に向かっているって所だ。
「花ちゃーん。疲れてない? 大丈夫?」
もう一時間はこの背中、植物の馬の恩恵に預かっている。
花ちゃんは魔物とは言っても、生まれて二週間の赤ちゃんだ。
親代わりの俺が負んぶに抱っこではダメだと思った。
が、楽すぎるので甘えてしまう。
『全然平気だよーパパ!』
「辛くなったらいつでも言うんだぞ」
間違いなく花ちゃんは、『人を駄目にする植物』だと思う。
まだ出逢ってから数時間だが、花ちゃんは俺の言うことを聞きすぎる。
それこそまるで鳥類が卵から生まれた時に、初めて見た生き物を親だと思ってしまうような――。
だから俺がしっかりしてやらないと!
なにせ俺は『パパ』で花ちゃんは『娘』なのだから。
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