137話 静電気と新居
「そういや花ちゃん、庭が欲しいって言っていたけど、何をするつもりなの?」
王都ビギエルヒルで家を買うことに決めた俺は、不動産屋のトーマスの紹介してくれた物件のうち、三軒目の幽霊が出るという曰く付きの物件に決めた。
もっとも、曰く付き物件とは言っても過去に住居者が死亡した事例などのある事故物件ではなく、単純に奇妙な事が起こる物件という認識だ。
書類や明け渡しの準備などで、実際に住む事が出来るようになるのは明日からとなる。
俺の前をご機嫌な様子でスキップしている花ちゃんに、ふと、どうして庭が欲しいのか尋ねてみた。
「花ちゃんを植えるんだよ!」
「……は?」
……花ちゃんの返答は俺の理解を超えていた。
花ちゃんを植えるってどういう事だ?
少し目を瞑り、うーんと唸りながら考えてみたが、俺の想像力では、地面に掘った穴に花ちゃんが頭だけを出した状態で埋まっているイメージしか湧かなかった。
「それはそれでありだな……」
「パパ〜? なーんか違う事を想像している気がするなぁ〜。あのね、花ちゃんを植えるっていうのはね──」
俺の顔を覗き込むようにして見上げる花ちゃん。
魔人となった花ちゃんの、非常に整った可愛い顔が目の前にある。その上目遣いと言ったらなんという破壊力だろうか。一生懸命俺に何か説明しているようだが、可愛すぎるあまりひとっつも俺の耳には入ってこない。植物だった時も可愛いかったのだが、今感じている可愛さは別次元の可愛さだと言えるだろう。
今の花ちゃんを見ていると、あぁロリコンはこうして産まれるんだなという気持ちになってくる。
スキップをやめ、手を後ろに組みながら歩くその姿はただひたすらに尊く、俺の庇護欲は決壊したダムを勢い良く流れる水のように溢れ出てくる。
俺の想像の中での花ちゃんは、地面に埋まっている姿すら尊い。
「ねぇ、パパ聞いてる?」
「えっ? あぁごめん。なんの話だっけ?」
「もー! お庭に花ちゃんを埋めるんだってばー!」
「俺には花ちゃんを植えるっていう意味がわからないんだけど……」
『この子が言っているのは、挿し木の事だ』
見かねたのかしばらく静かだった賢者のおっさんが、花ちゃんの言いたい事を代弁してくれた。
「挿し木って、料理とかで余ったネギとかの根の部分を水につけると、こうなんていうかニョキニョキと生えてくるあれのことか?」
『それとはちょっと違うのだが……。お前も知っているだろう? この子の肉厚な葉の部分はいい薬草になる。それはこの子自体も回復させるほどにな。備えあれば憂いなしという言葉があるだろう? この庭で繁殖させる事ができるならお前にとっても悪い話じゃない』
「そうだよ〜! 賢者さんの言う通り!」
「なるほど。じゃあ花ちゃんのこの頭に生えているぷりっぷりの葉っぱを植えるって事ね」
「やんっ。パパくすぐったいよ〜」
「ごめんごめん」
でも挿し木って言うことは、花ちゃんが葉肉から生えてくるってことなのか?
もしかしてちっちゃい花ちゃんが生えてくるのか?
だとしたらそれはそれでいいな。俺も個人的に育てたいから葉っぱ一枚もらえないかな
挿し木して生えてくるのは植物の花ちゃんだよな……人型だったら背徳感がパねぇからな。
上手いこと生えてきたとして、引っこ抜いたら叫び声でこっちが死ぬなんてことがない事を祈るとするか。
◇
「ではこちらが鍵となります。もし、何かありましたらご一報いただければ幸いです。もちろん幽霊の事以外で、ですが」
「まぁなんとかなるでしょう!」
「では、失礼いたします」
トーマスを見送り無事引き渡しも終了。無事に新居も手に入れた。
昨晩は王都の宿屋に宿泊し、今朝部屋を引き払ってきた。
今日からはこの新居で生活することのなるわけだが、問題はトーマスも言っていた幽霊の事だ。もし本当に幽霊がいるとしたら夜を待つしかない。幽霊は夜に出るものだからな。
「おいーっす! 俺っちが遊びに来たぞ〜」
「あれ? 新居の場所ノーチェに教えたっけ?」
「サラさんに教えてもらった!」
「個人情報ダダ漏れ! んで何しに来たんだ?」
「なんだよ。パーティメンバーだろ! 暇だから遊びに来たんだよ」
「やる事ないんかい。ニエヴェの方は順調?」
「おう、ヒーマがめちゃくちゃ届いたぞ。今は研究室の建築が始まったところだな。世話がめんどくさいんだよなぁ」
コイツ……ヒーマの世話が面倒で逃げて来たな……。
「それにしても良い物件を見つけたなぁ。家を買ったって事は王都に腰を据えるのか?」
「それもあるけどね。転移魔法使うんだったら家があったほうが便利だからな」
「国王陛下にでも知られたら死ぬまでこき使われそうだから絶対にバレないようにしろよ」
「気をつけるよ。そうだ、飯でも食って行くか?」
「おっ良いね! はんばーがーだっけか? あれまた食いたいな!」
「リクエストすんのかよ! じゃあ夕飯にするから花ちゃんを呼んで来てくれよ。多分庭にいるから」
「りょーかい!」
そんなこんなで、新居での初めての夜を迎える事になったのである。




