133話 静電気と再謁見
謁見の間は相変わらず豪華だった。
目線よりやや高いところにある玉座へと続く赤い絨毯。
魔工具である、淡く光るクリスタルでできたシャンデリア。
精巧な刺繍が施されたタペストリーは、この国の紋章が描かれており、扉を開けた際の空気の動きで優しく揺蕩う。
玉座の左右には文官や騎士が立ち並び、じぃっとこちらを見つめている。
居心地の悪さを感じながらも国王陛下の到着を待つ事数分。
ガチャリ……、キ────。
重厚な扉が開く音が背後から聞こえると、談笑をしていた文官たちが一斉に静まり、その場に片膝をついて跪いた。
国王陛下の入場だ。
俺も二回目なので慣れたものだ。周りにいる文官たちに倣い、同じように膝をついた。
「面をあげよ」
「「「「はっ」」」」
謁見の間にいた全員が、玉座についた国王陛下の言葉に従う。
その言葉には、前回感じた威圧的なものはなく、何かしらの精神操作を受けるような感覚もなかった。
娘を必ず治せと言われた手前、直す前にお願い事をしに行くのはかなり気が引けていたのだが、国王陛下の一言目を聞いて一安心というのが正直な気持ちだ。
操作されることにビクビクしたくないしな。
「冒険者ベックよ。グランドマスターからの報告は聞いておる。無事、あの魔の大陸から戻ったようで何よりだ」
「労いのお言葉、誠にありがとうございます」
「して、願いがあると聞いたのだが、よもや今更になって、我が愛娘ペルシアの病気が治せないなどという事はないだろうな?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「無罪にして頂いただけでも満足できず、あまつさえ国王陛下に願い事とは……。随分と強欲な冒険者だな!」
俺が言い淀んでいると、ひとりの文官が声を荒げた。
前回の謁見の時にも、今のようにいちゃもんをつけてきたやつだ。
国王陛下は制止するように腕を上げ、一言「よい」と文官に告げる。
「ドルガレオ大陸にて薬の素材となるものも回収できましたので、王女様の病気は治せる算段は付いたのですが、薬を作るにあたって大型の家畜と土地が必要なのです」
「それを工面しろ、という事だな?」
「は……はい」
ギロリとこちらを見据える、その力強い瞳に思わず後ずさる。
国王陛下と普通に戦えば間違いなく俺が勝つだろう。
だが──、
立場がそうさせるのか、もしくは国王陛下の生来の資質か、どちらかは定かではないが、相対して初めてわかるその威圧感や立ち振る舞いは、その湧き出た戦意すら喪失しそうになるものだ。
恐らく、こういったところが王が王たりえるところなのかもしれない。
「……わかった。用意しよう。お主には久し振りに我が娘の笑顔を見せてもらった恩もある事だしな」
「あ、ありがとうございます」
「だが、ここまでさせておいて成果が出なかった時はわかっておるな?」
「はい。全身全霊をもって事に当たらせていただきたいと思います」
「よろしい。エゾットよ、手配を頼んだぞ」
「はっ。畏まりました。国王陛下」
秘書官であるエゾットが笑顔でこちらを向き、小さな声で「良かったですね」と言われた事でようやく肩の荷が下りた気がした。
◇
「とまぁ、そんな感じでこの土地とこの家畜を手に入れましたって話」
「やりましたね! これでようやく、次の段階へ取り掛かることができます!」
小さな尻尾をふりふりするニエヴェ。
今俺の目の前には緑の広大な土地と、馬に羊の毛が生えたような生き物が百匹程、地面に生えた草を一心不乱に啄ばんでいる。
この生き物は《ヒーマ》というようで、馬車を引いたり、毛を刈り取ったり、食用肉になったりする大変お世話になっている生き物だ。
ドルガレオ大陸に向かう際も、この生き物に引かれた馬車で《世界の終わり》まで向かった。
場所は内城壁の中にある、騎士学校の近く、訓練場から少し離れたところ、王宮騎士団の駐屯地のあるところを案内された。
まぁ王宮騎士団の近くというのは、恐らく監視するという意味合いもあるのだろう。
さっきもペルシア王女の側近である王宮騎士のマルケルが、この牧場を視察に来たところだ。
牧場の近くには、研究室も配置してもらう予定になっており、それまでは俺がドルガレオ大陸に持っていった小屋を設置し、そこでニエヴェとライアに働いてもらう事になっている。
エゾットの計らいで、研究資金は出してもらえる事になったが、衣食住は自分で用意しろとのことだ。
(そろそろ、家でも買った方が良いかなぁ……)
俺はと言うと、やることが無くなり暇を持て余すようになった。
薬ができるのは数週間後だし、俺に手伝える事はもう無いと言ってもいい。そうなると日々の訓練以外にやることがなくなってしまったのだ。
当初からの目的である、この世界を見て回る旅に出てもいいかもしれない。
転移魔法も使えるようになった今、帰ってくるのも簡単だからね。
現状、転移魔法陣を設置してあるのは、王国の外の森の中なのだが、見つからないとも言い切れない。
その憂いをなくすためには、誰にも見つからないところに転移魔法陣を設置する必要があるのだ。
そう考えた時に、持ち家があるのは非常に便利なことだと思った。
(そうと決まれば早速行動に移すか!)
ここ世界に不動産屋があるのかはわからないが、取り敢えずサラさんに相談してみる事にする。
綺麗な景色、美味しい食事、美女との逢瀬が待つ楽しい旅路を想像し、期待に胸と鼻の穴を膨らませながら、冒険者ギルドへと足を運ぶのであった。
明日の投稿はお休みさせていただきます。




