132話 静電気と帰国後
ガシャッ──、ガシャッ──、ガシャッ──、ガシャッ──。
金属と金属の擦れ合う音は、一定のリズムを刻みながら、上流から下流へ流れる川のように留まることなく目的地を目指す。
そのリズムを刻む、煌びやかな全身鎧を身に付けた兵士が俺の前を先行し、後に続くように俺一人だけが、嫌な思い出の残るこの通路を歩いている。
いや、正確に言うとドルガレオ大陸を一緒に旅した仲間はいないと言うことだ。通路を歩く俺の右隣にはもう一人、国王陛下の側近中の側近がいる。
どの通路を歩いているかと言うと、非常に重い足取りで今歩いているのは、国王陛下の在わす謁見の間へと繋がる通路だ。
金糸で刺繍を施された赤い絨毯が続き、通路脇には見るからに高価そうな壺などの調度品が並んでいる。
シャンデリアに灯った火を眺めながら、はぁ……と、本日何度目かのため息をついた。
ドルガレオ大陸から俺たちが帰還したのは三日ほど前の話だ。
冒険者ギルドにはドルガレオ大陸の迷宮化について知りうる限りの情報を提供し、嘆きの樹海で出会った魔樹人たちのことについても条件付きで報告をした。
王国の在り方や地下街について、俺がとやかく言うつもりは無いのだが、もし王国が魔工具の為に魔吸虫を欲しがったりした場合、今回の件でせっかく知り合うことができた魔樹人たちが迷惑を被る形になるようなことはしないと言う条件だ。
魔樹人についてはもしかしたら言う必要はなかったかもしれないが、もしギルドに王国側から魔吸虫に関してそう言った依頼が入った場合は、俺に直接話しを持ってきてもらうようにしておいた。
会話できるのは《異世界言語》を持っている俺のような特殊な人間だけと言うこともあるし、何よりやっと平穏な生活をできるようになった彼らの邪魔をしたくなかったからだ。
無事花ちゃんと合流し、目的の一つであった魔吸虫も手に入れた俺たちは、二日かけてそれらの説明を行い、やっとの事で本日の午前中ペルシア王女のための血清作りを始めた。
しかし作り始めたのは良いのだが、血清自体を作るには更に数週間の時間がかかるらしい。
まず、小鬼病の原因となっている魔吸虫の毒を大量に取り出し、それを大型の家畜に注射……、とまぁ色々とやらなくてはいけないらしいのだが、肝心の家畜の頭数が全く足りない……というか一匹もいないという状況のようで、国王陛下に用意して貰おうぜ!と言う話になったのだ。
みんながなぜついてこないかと言うと、ライアは「会いたくない」、ノーチェは「むかつく」、ニエヴェは「忙しい」と三者三様の反応であり、花ちゃんに関しては俺が説明するのが面倒なので連れてこなかった。
今頃ノーチェもライアも、乳搾りのように魔吸虫の触手から出る毒を取り出している頃だろう。
ブルリ……。
思い出しただけでも、鳥肌が立ってきた。
手袋をつけていても、あのぬるっとして若干の弾力のある触手を触る気にもなれない。
「はぁ……。気が重い」
「まぁあれだけ悪態ついて投獄されちゃいましたからね」
「あはは」と気軽な感じで笑っているのは、国王陛下の秘書官であるエゾットだ。
それに国王陛下に会うのが嫌なのはそれだけが原因ではない。
国王陛下が持つ、魔法なのかスキルなのかわからない、あの正体不明の逆らえない言葉が恐ろしいのだ。
前回はそれで捕まり、簡単に投獄されてしまった。
あれは精神操作系の魔法なのだろうか……。
正直、対抗できる手段がない以上、あの王様の前にはあまり出て行きたくないのだ。
「それにしても、私は貴方が戻ってくるとは思ってませんでした。てっきり、そのまま逃げてしまうんじゃないかと。そもそも渡航許可の降りるA等級の冒険者になれるとも思っていませんでした」
「約束は破らないですよ」
「それは失礼しました。どうも冒険者の方々は信用できないタチでして……」
「まぁ粗暴な人たちもいますからね。それは仕方ないかと」
「それはそうと、勇者様にはお会いになりませんでしたか?」
「アキラ=ハカマダですか?」
「はい、そうです。あなた方を追いかけるようにドルガレオ大陸に向かったようなのですが」
「いや〜すれ違ってないですねぇ」
「そうですか……なら仕方ありませんね」
勇者とすれ違うことは確実になかったことを俺は知っている。
なぜかと言うと、帰りは転移魔法で帰ってきたからである。
今回の冒険でライアはノーチェとニエヴェに魔族であることをカミングアウトした。
二人の反応は「え? だから何?」くらいの反応で拍子抜けしたのだが、覚悟を持って接してきたライアに対し、俺の能力を隠したまま一緒にいるのは、何かこう、心の中でもやもやしたものが残ってしまい気持ち悪かったのだ。
だから正直に俺のユニークスキル《魔法創造》について話し、省エネ化された転移魔法で全員を連れて帰ってきたのだ。
もちろん、王都のど真ん中に転移魔法で帰ってきたら目立って仕方がない為、少し離れた森の中にあらかじめセットしておいた転移魔法陣に向けて帰ってきたのである。
初めて転移魔法を体験したノーチェとニエヴェは、その場で転移酔いし嘔吐したのだが、それが治るとその便利さに自身も使えるようにならないかと方法を聞いてきたのだった。
俺が原理なぞわかるはずもないので、ライアに丸投げしておいた。
「さて、もうそろそろです。今回はほんっとうに失礼な事はなさらないようにお願いしますね」
「はい……。肝に命じておきます」
それから直ぐに謁見の間に到着した俺は、人生三度目の国王陛下との謁見に臨むのであった。




