129話 静電気と決着
『くっ、忌々しい……。次から次へと湧いて来るな』
トヒノキが苦々しげに呟いた。
『でも兄貴。樹喰虫を生み出している奴があいつと戦い始めてからそれも少なくなってる気がするぞ!』
『そうね。それに小さい彼らだって頑張っているんだもの。私たちだって負けてられないわ』
ライア、花ちゃんが神樹の集落での防衛戦に参加してから、戦局は大きく変化してきていた。
女王アリと対峙しているライア達は、周囲の樹喰虫を蹴散らしつつも着実に攻撃を重ねていく。
「マルチ、ウィンドアロー!」
「俺っちも負けてらんねーな! 炎蹴斬!!」
ライアが複数の風の矢を放つ。その度重なる熾烈な攻撃は、確実に女王アリの体力を削っている。ライアたちが女王アリを倒すのも時間の問題だろう。
じわじわと取り囲んでいた兵隊アリも、本気になったノーチェの蹴り技に切り刻まれていく。
神樹に到着した花ちゃん達は、蔓を伸ばし、神樹に取り付いていた羽樹喰虫を引き剥がしていく。手が届かず木の根元で辛酸を舐めていた魔樹人たちは、花ちゃんの突然の参戦に驚いたものの、嬉々として羽樹喰虫を減らしていった。
◇
振り上げられた巨大な爪が頰をかすめ、その勢いのまま地面を砕く。
こいつとの戦闘が始まって十分は経っただろうか。
この人型迷宮核は、身体を自在に変化させ攻撃をする。
時には鋭い爪で、時には強靭な尻尾で、時には大きく、時には小さく、多彩な攻撃してくるその様は、俺が何と戦っているのか忘れてしまうほどに多種多用な生物へと変化していた。
魔物としての身体能力に加え、生前の先代勇者であるゆうたの記憶を受け継ぐ奴のその速さ、力強さはなかなかのものだ。
こちらも負けじと《雷槍》で突き刺したり、《局部破壊放電》で頭部を吹き飛ばしたりと、様々な方法で攻撃をしてはいるものの、目の前にいるこいつは地面に転がる魔魂石を喰うとすぐさま回復し、今のように反撃を繰り返して来る。
『何故だ、何故大人しく喰われない!』
「馬鹿か!? はいそうですかって喰われる奴がいるか!」
俺はその回復力のせいで攻めあぐねてしまっていた。
その間も迷宮核の攻撃は止むことはなく、最初の勢いほどではないにしろ魔物も生み出され続けている。
『小僧、何をしている核を狙え。核を。いつまでたっても終わらんぞ。魔物は迷宮核から産まれるんだからな』
「おっさんに言われなくとも、さっきからありそうなところは狙ってんだって!」
賢者のおっさんが念話にて助言をくれるが、心臓や頭など急所がありそうなところはある程度攻撃済みだ。
しかしそれでも、ゾンビのように起き上がってくるのだ。
(くっ……。ダメージを与えてもすぐ再生しやがる……。どこを攻撃してもまるで手応えがないぞ……)
『いくら攻撃しても無駄だ! お前の攻撃が私に届くことはない!』
人型迷宮核が叫ぶ。
奴の迫り来る爪を躱し、弾き、時に《魔障壁》で受け止めながら、一つのことに気がついた。
何に気がついたか、それは奴が地面に手をついて魔物を産んだ時以来、その場から動いていないことに。
思えば最初からおかしかった。
俺が女王アリを攻撃した時、なぜコイツは身を呈して女王アリを庇った?
頭数を減らされるのを嫌ったからか?
いや、違うな。魔物を生み出せるのなら、別に庇う必要はないはずだ。
女王アリを生み出せば良いのだから。
だがいつまで経っても生み出す魔物は、普通の樹喰虫のみだけだった。
その樹喰虫にしても、何故地面から這い出てくる生まれ方をする魔物と、地面に残っていた魔魂石が再生するように魔物に戻る生まれ方の二種類があった?
奴が地面に手をついて以降、魔物は地面からしか生まれていない。
あいつの足元にある魔魂石は、未だに魔魂石のままだ。
これはつまり、女王アリを生み出すにしても、普通の樹喰虫を生み出すにしても、何かしらの制限があるという事だ。
──魔物は迷宮核から産まれる。
そうか……賢者のおっさんが言ってたのは、そういう事だったのか。
「あの時もう既にお前はそこにはいなかったのか」
『……何を言っている』
「表に出てこないで、ひたすら魔物を送り込んでいた方が、まだ勝率が高かったかもしれないな」
『だから何を言っているんだ!!』
「お前の本体がどこにあるかわかったって言ってんだよ!!」
俺は《魔力手》で人型迷宮核を掴んで思いっきり引き上げる。
すると、奴の足の裏からは地面に向かって根っこのようなものが生えており、その先には灰色で拳大の石がついていた。
『ぎざまあああああ!!! よくも私を──』
「悪いが、これで終わりだ」
──パキン。
迷宮核は《雷槍》に貫かれ、黒い霧となって消えた。
猛威を振るっていた樹喰虫たちも、それと同時に集落から姿を消したのであった。




