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12話 静電気と名前

 

「ベックさん! 大丈夫ですか!」



 バガマが手に持ったナイフで蔓を切ろうと近寄ってくる。



「俺は大丈夫です! 何があるかわかりません! 離れたままでお願いします!」



 俺は逆さまになった状態で、右腕をバガマさんに向け制止するよう指示を送る。



「わかりました! でも何かあったら助けに入りますから!」



「お願いします!」



 とは言うものの、あまり攻撃する気にはなれない。

 この蔓からはまったく敵意を感じないからだ。



 吊り上げられて十秒以上たっているが、攻撃してくる気配もない、脚を縛る蔓にも吊り上げるのに必要なだけの力しか込められていない気がする。



 それに先程の、脳に直接話しかけられているような声、俺の事『パパ』って呼んだことが気になる。



 『パパ』ってあのパパ?

 この植物、俺の事『パパ』って言ったの?



 パパって、親父?

 父親?

 おっとう?

 おとうさん? 

 ビッグダディ?



 いや、最後のは違うか……。



 そうじゃないよ! 待って待って!

 俺、さすがに植物まではカバーしてないぞ。

 植物の子供を持つ様な事、まったく身に覚えがない。

 触手もので抜いたことはあるけど、あくまで触手プレイされている女の子を見るのが好きなだけで、自分がされるのは好きじゃないんだけど!



 俺は彼女いない=年齢!

 自分で言うのもなんだけど、童貞だよ!童貞!



『パパ……』 



 また頭の中に声が響いてくる。

 だからパパじゃないって!



『パ……パ……』



 ダメだこりゃ。同じことしか言わん。

 しっかし、これって意思疎通できるのかな……。

 話が通じるか分らんけど、ダメもとでお願いしてみるか。



「え~と。俺を地面に降ろしてもらえるかな?」



  巨木の根元に向かって話しかけるが、反応はない。

 


「パパ、脚が痛いよ~。離してよ~」


 ちょっと頭悪そうだが、パパになったつもりで、子供をあやす様にもう一度声をかけてみる。


 

 すると、俺の両足を絡め獲って、吊るしていた蔓がするりと緩んだ。



  碌にスポーツもしてこなかった俺が、急なことに反応できるわけもなく、『グえぇっ』っとカエルが潰れたような情けない声を出しながら地面に激突する。

 


  地面が草花で覆われているということもあるが、結構高いところから落ちた割には全然痛くない。

  この身体、レベルが高いおかげでハイスペックのはずなんだけど、残念なことに中身がポンコツ過ぎてうまく動けないんだよな……。体の動きに脳が追い付いていかないっていうかなんというか、早く動けすぎて認識できない、みたいな?



  パソコンで例えると、モニターやグラフィックボード、冷却機能は最高だけど、CPUがポンコツ過ぎて性能を発揮できないのと一緒の状態だと思う。



  いつか、俺の脳みそもオーバークロックできないかしら。



「離してくれてありがとう。俺の言ってることわかるかな?」



 無様に落下した事を何事もなかったかのように振る舞いながら、少しでも意思疎通を図ろうと声をかける。



 背後にいるバガマは、少し離れた所から、心配そうにこちらを見ている。

 手に持ったナイフは片時も離さず、直ぐにでも動けるような体勢で、だ。



「…………」



 少し待って見るものの、謎の植物からの返事はない。

  どうする?取り敢えずここは一旦距離を取るか……?



 巨木の根元から目を離さないように、後ずさる。

 空洞の中は陰になっており、中を窺い知ることはできない。

 できるだけ刺激しない様に、ゆっくりと距離を取っていく。

 だが、蔓は着かず離れずと言った感じで俺についてくる。



 ええい、ままよ!

 こうなったら仕方ない。

 新スキル《雷装鎧》もある事だし逆に近づいてみるか。

 恐らくだが、植物くらいなら一瞬で消し炭に出来るはず。

 危なくなったらそれで脱出しよう。



 今までとは逆に、ゆっくりと蔓に近づいていく。

 すると蔓も蛇の様にゆっくりと鎌首をあげてこちらへ近づいてくる。

 が、やはり攻撃してくる気配はない。



 触ってみるか? 何か反応があるかもしれない。

 恐る恐る、近づいてくる蔓にゆっくりと触れる。

 すると謎の植物の思念が流れ込んでくる。



『パパ……アイタカタ……ズト……マテタ』



 思念は雑音が混ざっていて、とても聞きとりにくかったが確かに聞こえた。



 パパ、逢いたかった。ずっと待ってた――。



 どういう事か分からず返事に困っていると、謎の植物が蔓を茎の部分の根元から出し、その蔓を蛸の足の様に器用に使い、巨木の根元からゆっくりと這い出てくる。



『ズット……あいタ……カった』



 俺の手に触れる蔓の数が、多くなればなるほど――。

 植物が俺に近づけば近づくほど、俺に届く思念がはっきりしてくる。



『やっと会えた~』



 手を伸ばせば謎の植物の蕾に触れられる位の距離になった時、思念の雑音はなくなった。



「何で俺をパパって呼ぶんだ?」



 そう問いかけると、謎の植物は、まるで俺の腕で遊ぶ様に、その滑らかな蔓を絡ませてくる。



『パパが、ご飯をくれたの~』



 俺がご飯をあげた?

 今日初めて会うんだが……。

 全く身に覚えがないぞ。

 俺にガーデニングの趣味もないしな。



「ご飯? 俺は君にご飯をあげた記憶は無いんだけど、君は何を食べるんだい?」



 気のせいだろうか……。

 俺の“記憶が無い”という発言の時に一瞬悲しそうな思念が伝わってきた。



『覚えてないの……? パパはお肉と魔力とおいしい空気をくれたよ~』



 そう言いながら、謎の植物はさらに蔓を絡ませて近寄ってくる。



 お肉に、魔力に、おいしい空気?

 あー……。

 お肉に、魔力に、おいしい空気ね。

 おいしい空気以外だったら身に覚えがありまくりです。

 ハイ。



「もしかして、あの時から君はここにいたの?」



 謎の植物はいつのまにか俺の右肩に乗っている。

 さも当たり前のように右腕に絡みつく蔓以外は、胴体と思われる部分にしゅるるとしまい込んでいる最中だった。



 蔓ごしに思念が伝わってくる。



『袋の中に、ずっと閉じ込められてたの~……』



 袋の中? どういう事だろう。

 しばらく問答を続けると、ようやくこの異変の全体像が見えてきた。



 岩小鬼殲滅戦の時、この植物は岩小鬼(ロックゴブリン)魔導王(マジシャンキング)の所有物だった様だ。



 ダンジョン産のドロップアイテムとかだったのかな。



 この鉱山の頂上付近にはダンジョンがあるらしい。

 バガマさんに聞いてみると、このダンジョンは階層数も少なく、内部に生息している魔物も、強力な割には需要がない。



 かなり旨味のないダンジョンとして有名みたいだ。



 そう言った人気のないダンジョンは内部で魔物が狩られない為、放置しておくと魔物がダンジョン内に増えすぎてしまう。



 増えすぎるとダンジョンから魔物が溢れ出てしまい、魔物の集団暴走、つまり魔物災害(スタンピード)が起きてしまう。



 山頂のダンジョンは王都から、年に数回討伐隊が派遣され、魔物の数減らしが行われるわけだが、今回このダンジョンに運悪く岩小鬼の王種が生まれてしまっていたわけだ。



 この王種は凄まじい速さでダンジョン内部の同族を纏め上げ、外の世界に打って出た所、俺に討たれた。それが岩小鬼(ロックゴブリン)魔導王(マジックキング)だった。



 岩小鬼魔導王を仕留めたことで、その血肉を栄養源として岩小鬼魔導王の所持する袋の中に入っていた謎の植物の種が発芽し、俺が放った特大《雷銃》の魔力と、放電によって空気中に生成された窒素化合物が、死屍累々の岩小鬼達の血液と一緒に、草花や謎の植物に吸収され急激に成長することとなった。



 これがこの幻想的な盆地を作る原因の一旦となり、小鬼とはいえ魔力を帯びた特別な王種の血液と洋也の高密度の魔力が合わさり本来ならばあり得るはずのない、植物に自我と知能が芽生えるという結果を与えたようだ。



 これが、お肉と、魔力と、おいしい空気だったようだ。

 俺はこの植物の育ての親ってところか……。

 そう考えるとなんだか無性にかわいく見えてきたな。

 肩に乗っている謎の植物も手乗りインコみたいでかわいい。



 でも見た目は完全に植物系の魔物なので、放置して置いたら冒険者の討伐対象になってしまいそうだ。それはなんだか嫌だな……。



(仕方ない……。連れて帰るか……)



 さんざん悩んだ挙句、連れて帰ることにした。



「君に名前はあるの?」



 いつまでの謎の植物なんて呼んでられないもんな。



『名前? マカイソウ~』



「そうじゃなくて、うーんと俺の名前はヒロヤ。種族名は人間。 君の“マカイソウ”っていう名前は種族名じゃないかな?」



『うーん? よくわからないー!』



 蔓をウネウネ動かして反応している。

 かわいいな。



 見た目は完全に南天堂のポックンフラワーなんだけどなー。

 いや、胴体だけは違うか。女子に人気の多肉植物だ。



 うーむ、それに名前がないと不便だな。

 じゃあ一丁俺が名付け親にでもなってやるか!



「じゃあ俺が名前を付けてもいいかな?」



『名前? パパがつけてくれるの? うれしいー!』



「それじゃあ君の名前は『花子』だ! よろしくね花ちゃん!」



 こうして、童貞の俺は父親になった。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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