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128話 静電気と再会



──ベック、いいな?


ライアはどこか覚悟したような、それでいてどこか悲しそうな顔でそう言った。


彼女はこのドルガレオ大陸で、千年以上も前に栄えていた魔族の生き残りで王族だ。


オルガレオ大陸では、魔族は忌み嫌われ、そして恐怖の象徴となっている。


これは六百年前に起きた人魔戦争で、人間側が甚大な被害を与えられた事に起因されているが、実際のところは大昔のフォレスターレ王国が流布した情報操作が原因だと俺は認識している。


その彼女が、ノーチェとニエヴェに避けられる事を覚悟で戦闘に参加する事を決心したのだ。



(情けねぇな……俺。助けたいって言ったの俺じゃねぇか)



勝手に悪い方向に想像して、あきらめて……。


本当に情けねぇ。


情けねぇったらありゃしねえ!



──……パパ



くそっ……情けなさすぎて花ちゃんが呼ぶ幻聴すら聞こえてくる……。


──……パパ?


あぁ……花ちゃんに会いたいなぁ……。


──……ねぇパパ?


花ちゃん、今、何してるんだろうな……。


──……おーいパパ?


右肩に乗った時のあの重たさが恋しい……。


──……どうしたのパパ?


あの赤と白の可愛い蕾をツンツンしたい……。


──……見えてないのパパ?


頭からボリボリと小鬼を食べる姿を見たい……。


──……おーいったらぁパパ?


ツルッとした蔓にほっぺた撫でられたいなぁ……。


──……無視してるのかなパパ?


柔らかくて、あったかくて包み込まれるような……。


──……花ちゃんの事忘れたパパ?


あっ……そうそう……こんな感じ……。


──……おーいパパ、聞いてるの!?


花ちゃんにかっこ悪いところ見せられないよな……。


そう思い苦笑いしながら、顔をあげようとした時だった。



「パパ!」

「えっ……?」



下を向き俯いていた俺の顔を、小さく暖かい()()が包み込んだ。


目の前にいるのは、頭に()()()()を乗せた少女。


少女の頭の上に乗っているのは、花ちゃんの頭部──蕾であったはずの赤と白の水玉模様の花弁。その蕾だったはずの部分は見事に開いており、赤と白のとても綺麗な花を咲かせている。


園芸や散水用のホースほどの太さだった翠色の蔓は細くなり、一本一本がボールペン程の太さに、腰までの長さの蔓はまるで頭髪のように風に靡きゆらゆらと揺れていた。


幹の部分であった、ぷっくりとした多肉植物ビアホップのような部分は、幾分か小さくなりまるでお団子ヘアーのようになっている。


俺の頰に手を当てる少女が、グイッと自らの顔に俺の顔を寄せる。


歳の頃は──、十二、三くらいに見える。


身長は俺の胸あたり、百四十cm程。


少女に頰を引かれ、上から覗き込む体勢で見る彼女は、力強く活発そうな眼つきの碧眼に、すらっと筋の通った鼻筋、頭部に咲く赤い花弁のようなハリのある小さな唇、白く透き通った陶器のような肌は、触れると壊れてしまいそうな儚さがあった。


白いワンピースを着た彼女を、まるで人形のように綺麗な少女だ──、そう思った。



「もう! ぼーっとしちゃって! パパったら、花ちゃんの事わからないの!?」



ちょっと待て。


俺の知っている花ちゃんは、こんな可憐な少女ではなく、ぷっくりとした多肉の葉っぱが可愛らしい、南天堂のポックンフラワーにそっくりな植物であったはずだ。


しかし、自身が花ちゃんだと公言しているのは人間の少女であり、目の前にいる少女が頭に乗っけているのは、間違いなく花ちゃんだ。


だが、頭に直接響いていた聞き覚えのある花ちゃんの声は、少女の口から発せられている。


この人型の少女が花ちゃん……?



「は、花ちゃん……なのか?」

「そうだよ。花ちゃんだよ!」

「花ちゅわぁん!!」



可愛らしくなっちまって!

ブワッと泣き出しそうになるのを我慢し、思わずぎゅっと抱きしめる。



「パパ、痛いよ」

「えっ、あぁごめんっ!」



久しぶりの再会に、思わず強く抱きしめ過ぎてしまった。

いつものように花ちゃんの頭を撫でようとすると──、



『ロリコン野郎が、俺と花ちゃんに触るんじゃねぇ』

「ファッ!?」



聞きなれない声が頭の中で響き、髪の毛のような翠色の蔓で、頭を撫でようとした手が払われた。



「花ちゃん!?」

「あっ!」



一瞬、花ちゃんに払われたのかと思い、悲しさのあまり思わず放心してしまう。



『何間抜けな顔してんだよ。気安く俺の花ちゃんに触るんじゃねーロリコン野郎』

「ちょっと! 賢者さん、パパにそんな事言わないで!」

「賢者のおっさん!? 俺はロッロリコンじゃ──」

『ロリコンだろうが。感動の再会もいいんだがよ。今はそんな状況じゃないんじゃねーか?』



賢者のおっさんに言われ、自身が追い詰められていた事を思い出した。



「花ちゃん! 話は後でいっぱい聞かせてもらうから! とりあえず俺と戦ってくれるかい?」

「勿論だよパパ! 花ちゃんと賢者さんはパパを助けるために来たんだからね!」

『おっ俺はそんな事思ってねぇからな!』

「ベックが危ないって言ってたのは、どこの誰だっけなぁ?」

『こいつに死なれると花ちゃんが悲しむと思っただけだっ!』

「そうなの? ありがと!」

『くッ……///』



くッじゃねぇよ!



花ちゃんの登場でなんとか落ち着きを取り戻した俺は、周囲の状況を確認すべくライア達に目を向ける。既にライアたちは戦闘を開始し、迫り来る樹喰虫と一進一退の攻防を繰り広げていた。


その中でも頭一つ飛び抜けているのは、やはりライアの魔法だった。


戦闘に参加すると決意した時点で、ライアは集落の入り口を土属性魔法のアイアンウォールで塞ぎ、外敵の侵入を防いだ。


目の前の敵に集中するためだ。


魔法のライアが上空にいる女王アリ、いつのまにか足が燃えているノーチェが兵隊アリとやりあっている。


ニエヴェは怪我をしている魔樹人に回復魔法をかけているようだ。



『小僧、周りの心配をしていられる程、楽な相手じゃないぞ』



先程とはうって変わって、真面目な口調の賢者のおっさんが、目の前にいるこの惨状の原因となっている人物に目を向ける。



「わかってる。あいつは俺がやるから、花ちゃん達は神樹に取り付いている樹喰虫を頼む」

「わかったよ!パパ!」

『あの神樹に倒れられると厄介な事になるからな。言われるまでもない』

「じゃあ頼んだ! 賢者のおっさん!」

『賢者さんと呼べ。賢者さんと!』

「ふふっ!仲いいねぇ」

「『良くないわ!!』」



あとはあいつをブチのめすだけだ!

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