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127話 静電気と迷宮核



「先代勇者!?」



ライアの言葉に思わず聞き返す。



(先代勇者はこのドルガレオの地で三十年ほど前に行方不明になったはず……)


「ほう。お前は()()の事を知っているのか?」

「知ってるも何も、会って話した事だってあるさ。覚えていないのかい? 先代勇者ゆうたよ」

「ブフォッ」



先代勇者はハチミツでも欲しがりそうな名前だ。

思わず吹き出してしまった。



「ん? どうしたベック」

「いや何でもない」

「おかしいな。()()の記憶には、お前の様な外見の人間はいない様だが」

「なぁ……ライアさんって何歳なんだ? 先代勇者と話したことあるって相当だよな」



ノーチェ、お前は少し黙っていてくれ。

俺の耳元で囁くんじゃない。



「先代勇者は死んだと聞いていたが、まさか生きているとはな。しかも裸で出会うとは思ってもみなかったぞ。いい加減服を着てくれないか」

「服……服……。なるほど、これのことか」


「「「「!?」」」」


目の前で起きた出来事に、俺を含め仲間全員が驚愕した。


先代勇者ゆうたの肌が波を打ったように盛り上がると、その皮膚は黒い革の防具に変質し、全身がそれで包まれていく。


背には黒い毛皮の外套と弓を背負っており、黒革防具のお陰で股間にぶら下がっていたイチモツも見事に隠れた。



「なぁライア、あの服も魔法か?」

「皮膚から服を作る魔法なんぞ私は知らん」

「じゃあ何だっていうんだよ。あいつは」

「さぁな。だが、はっきりと言える事は一つだな。あいつは、どう見ても人間じゃない。……おい貴様、ゆうたをどうした」



唯一、先代勇者のことを知っているのはライアだけだ。


どういう関わりがあったのかは知らないが、目の前の人物を見るライアのその瞳からは、強い警戒色の炎がちらついているのがわかる。


集落の中は相変わらず騒がしい。


樹喰虫から逃げ惑う魔樹人の姿や、先ほどまで前線で戦っていた武器を手に取り神樹の根元で戦う者、上空にいる女王アリから吐き出される蟻酸から逃れようと屋内に逃げ込む者たちなどで、集落は混乱していた。


そのような事態の中で平然としているのは、目の前にいる先代勇者の姿をかたどった何か、ただ一人だ。



「これのことか? これは森の中で死にかけていたのを、私が食ったのだ。これは旨かったゾォ、実に旨かった。お陰で知識を得、そして自由な体を得た」



ニィっと口角を上げ、目を半月状に垂らし気持ち悪く笑う。

その顔は小鬼が笑うよりもずっと醜い顔に見えた。


その醜悪な笑顔に「ヒッ」と小さい悲鳴をあげるニエヴェ。



「なっ!? 食っただと……?」

「あぁ食った。そしてお前たちも私の一部となるのだ」



言い終わった瞬間、地面に散らばっていたはずの魔魂石が光を放ち、ビデオを逆再生するかの様にその肉体を取り戻していく。



ボコォ……ボコォ……。

ボボコォ……。

ボゴッボゴッボゴッ……。

ボコォ。



更にゆうたが地面に手をつけると、地面から続々と樹喰虫が現れ始めた。



(冗談だろ……)



その様はまるで、荒野で小鬼が地面から這い出た時の様に、迷宮が魔物を生み出す時と酷似していた。



「なぁ、今のってさ。まるでこいつが魔物を生み出した様に見えるんだけど、気のせいか……?」

「気のせいじゃねぇぞ、ベック。まるでこいつが迷宮そのものみてぇな……」

「いまのは召喚魔法の類でもないな。自我を持つ迷宮……まさかこいつが迷宮核とでも言うのか……」

「こんなのどうやって倒せば良いんですかぁ!?」



魔力の濃いこの土地。

恐らく、この迷宮核は無限に魔物を生み出せる。

俺もニエヴェと同じ気持ちになった。

一匹一匹はそれほどでもなくとも、数の前に俺たちの力は無力だ。

いずれ体力に限界がくる。

そこまで想像出来てしまう。



(あれ……脚に力が……)



生み出された樹喰虫が集落の蹂躙を始める。

白く硬い甲殻を軋ませながら迫りくる絶望の波。

ある者はその光景を見て膝をつき、またある者は天を仰ぐ。



『この集落は終わりだ。残念だが一から出直すしかない』

『『兄貴……』』



トヒノキやこの集落の住民たちも例外ではなかった。


そしてそれは、俺も一緒だった。


初めて出会う高難度迷宮の最下層ボスクラスの相手、地面に転がる魔魂石を喰らうと治癒するその姿は、未知とも言える様な、何をしても回復されてしまう様な、俺の攻撃は通用しないんじゃないかと、そんな感覚を味わっていた。



(助けたいって言ったの俺じゃねぇかよ……キイカデ様に言った言葉はなんだったんだよ……)



人を助けて、人に感謝される。

この世界に来て、そんな冒険者になりたいと思った。

それだけの力があると思っていた。

だけど蓋を開けて見たらどうだ……。

ただの自己満足オナニー野郎じゃないか。


この集落の至る所にいる魔物。

上空を旋回する巨大な女王アリ。

目の前にいるのは、俺の攻撃をモノともしない強大な敵。


周囲からひっきりなしに聞こえる悲鳴が、俺の無力感を増大させていく。


だが諦めていない奴もいた。



「ベック! ボケっとしてんじゃねぇぞ! 雑魚と、上に飛んでるやつは俺っちたちに任せろ! 悪りぃがベックは迷宮核を頼む! 俺っち達には荷が重いかんな! 自我があるところ以外普通の迷宮だとしたら、こいつを倒せばこの大陸の迷宮化は無くなる筈だ!」

「そうです! 樹喰虫たちは私に任せてください!」

「私も加勢するぞ。ベックいいな?」



──ベックいいな?



あぁそうか。

決心したんだな。


俺だけが諦めてたのか。

情けねぇ。


──……パパ


花ちゃんの声が聞こえた気がした。

小さな火が灯った気がした。

かっこ悪りぃ真似、できないからな。


「パパ!」


目の前には、頭に花ちゃんが乗った少女がいた。









すいません。

明日の投稿はお休みさせていただきます。

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