125話 静電気と神樹⑨
「なんて威力だよ……。お前、昇格試験の時、手加減してやがったな?」
「あわわわわわ〜! まっすぐな道が出来ちゃってますよぅ」
「なんとかうまくいってよかった」
岩小鬼魔導王と戦った時以来、魔力を貯めた魔法は、意識的に使わないようにしてきた。
何度か危ない場面もあったが、室内であったり使えない状況だった為、今までは使うことはなかったからだ。
《雷銃》でさえ、山を削り、陥没させ、岩小鬼魔導王と百匹程の小鬼を一瞬で即死させられるだけの威力だった。
その《雷銃》の上位スキルである、《局部破壊放電》の魔力集積の効果は、それを遥かに凌ぐ威力であった。
雷光が弾け、轟音が耳を通り過ぎると、射線上に存在していたであろう物質は何一つ残っていなかった。
雷の砲弾が通った後は半円形に抉れ、焼け溶け赤熱化した地面が続く。
硬質な樹皮を持つ巨木も、ぽっかりとその幹に口を開けていた。
大小合わせて数百はいたであろう樹喰虫は、紫に輝く魔魂石を残し姿を消し、後に残るのは射線から外れ、ちらほらと残っている残りの樹喰虫たちだけだった。
『『『『「うおぉおおぉぉぉぉおお!!!!」』』』』
周囲から勝鬨を上げる声が響く。
『あの小さい奴がやりやがった! これで大半の樹喰虫が死んだぞ!』
『残りも逃すな!! 一匹残らず狩り尽くせ!!!』
『姉貴! 撃ち漏らすなよ!』
『オダエ! あんたこそ逃すんじゃないよ!』
絶望的な状況から脱した魔樹人達は、見えてきた光明に一気に士気が上がる。
しかし、悪夢はまだ終わってはいなかった。
ブブッ──。
ブブブブブブブッ───!!
「上だ!!!」
いち早くその音に反応したノーチェが上空を指差す。
上空には百を超える数の、羽の生えた樹喰虫の大群。
その中でも一際巨大な、兵隊アリの三倍ほどの大きさはある、まさに女王とも言えるべき存在が、感情の見えない複眼でこちらを見下ろしていた。
「あんな個体は見たことも、聞いたこともないぞ……」
ライアが上空で停止し、ゆらゆらと揺れている女王アリを見て呟いた。
樹喰虫は瞬く間に《魔障壁》を飛び越え、神樹に向かって突き進んで行く。
『神樹に近寄らせるな!!!』
数人の魔樹人が手に持った弓を射るが、まさに多勢に無勢、焼け石に水であった。
俺も慌てて、《局部破壊放電》で撃ち落として行くが、その勢いを止めることはできない。
俺たちの行動を嘲笑うかのように、上空を旋回する女王アリ。
上空からは腐蝕性の高い蟻酸を放ち攻撃をしてくる樹喰虫達に、遠距離攻撃を持たない魔樹人達は屋内に隠れ、防戦一方になってしまった。
次々と神樹に取り付き齧り始める羽樹喰虫の群れ。
地上では、《局部破壊放電》から逃れた樹喰い虫たちが再度侵攻を始め、状況はまさに絶望的となっていた。
「ベック! 取り敢えず穴を塞ぐんだ!」
「わ、わかった!」
何から手を付けていいか分からず、呆然とする俺に向かってライアが声を張り上げる。
即座に《魔障壁》の穴を塞ぎ、外からの侵入を防ぐ。
悲鳴をあげるかのように軋み、そして蟻酸のせいで煙を上げる神樹。
しかしその山の様な巨大さのお陰か、百匹程の樹喰虫では直ぐには倒される事ない。
ほぼ全ての羽樹喰虫が神樹に取り付き、蟻酸の雨がやんだところで、地上から侵入した樹喰虫たちも神樹に取り付き始めた。
『まだだ! 少しでも弓を使える者は高所に張り付いている羽の生えた奴を! そうでない者は、根の付近の樹喰虫を排除しろ!!!』
『トヒノキ! もう無理だ! 神樹の次は我々だ!』
『そのとうりだ! もうこの集落は落ちた! 皆に被害が出る前に逃げ出そう!』
『何故だ! 何故諦める! 神樹から受けてきた恩を忘れたのか!』
我先にと逃げ始める魔樹人たち。
それを止める様に声を張り上げるトヒノキだったが、その声に耳を貸す魔樹人は少なく、戦士以外の住民も身一つで逃げ出し、まさに集落は混乱を極めた。
『ワシは逃げんぞ……』
一際大きな魔樹人が、一歩、また一歩と神樹に向かい歩き始める。
この集落の長であるキイカデだった。
『ワシらは、この神樹に生かされてきた。この樹は魔物如きに倒されていいものではないのじゃ……』
『親父!!』
神樹へと近寄るキイカデに気がついた一部の樹喰虫が、キイカデに迫る。
トヒノキは樹喰虫と交戦中だ。
俺とライアも《魔障壁》の維持で手が離せない。
(クソッ! 今ここで《魔障壁》から離れれば、入り口の防衛が!)
あわやという、どうする事も出来ない状況をノーチェとニエヴェが間に入り制止する。
『小さき者よ……』
「何を言っているかわかんねぇが、この樹が大事なんだろ!?」
「大切なものを喪う哀しさは私たちもよく知ってます!」
彼らも、早いうちに両親を亡くした。
喪う悲しみを知っている彼らだからこそ、それを守る事の大切さを知っているのだ。
しかしそれを嘲笑うかの様に、更なる絶望が目の前に現れる。
『うまそうな匂いがすると思ったら、根を張る者以外にも、これがいるじゃないか。何という幸運』
人の形をした何かが、そこに立っていた。




