124話 静電気と神樹⑧
「どうした!? ようやく奴等の切れ目でも見えたか!?」
樹上から降りてきた俺を見て、ノーチェが声を上げた。
ちょうど樹喰虫にトドメを刺したところのようで、足早にこちらに駆け寄って来る。
「いや、全く切れないんだ! もう一時間以上戦い続けてるのに、これは少しおかしいと思わないか?」
「俺っちには分からん!! じゃあどうしろって言うんだよ!!」
「だから降りてきたんだ!!」
「何かいい考えがあるんだな!?」
「やれるだけやってみるよ!」
「頼んだぞ! そろそろ本気出してくれたって良いんだぜ?」
「どう言う事だよ? いつだって真面目にやってるぞ、俺は」
「守る事だけはな! ここに来るまでだって、攻撃する事は俺っちに任せっきりじゃねぇか! そりゃあたまには助けてくれるけどよ。師匠をのした時みたいな、すっげえ奴一回も見てねーぞ!」
「本気、見せてみろよ。相棒!」と言うノーチェの言葉に、思わずわかったと返事をしてしまった。
わかったとは言ったものの、俺が攻撃しただけで、この状況を変えることができるだろうか。
唯一やるとしたら一直線にまとめた上で、魔力を高めた《局部破壊放電》で一網打尽にするくらいだ。
だが、それだけではこの勢いは止まらないだろう。
俺が見た事実とライアの考えがあっているとしたら、この勢いを止めるには、魔物の発生源を元から断たなくてはいけない。
ボラルスの街での、小鬼の魔物災害を思い出す。
あの時より、魔物の規模も魔物自体も強力だが、俺も成長している。
今は、信頼できる仲間もいる。
そう思うと、不思議と恐怖は感じなくなった。
地面を蹴る脚に力が入る。
前線で戦っている魔樹人達の元へ向かう。
『どうした。何か問題でも出てきたか?』
『敵が一向に減らないんです。このままではこっちの体力が先に尽きてしまいます。恐らくですが、このまま、ちまちまと数をこなしても、減ることは無いと思います』
『何故そう言い切れるんだ?』
『こいつらが、迷宮が生み出した魔物だからです。迷宮の魔物は、迷宮核を破壊しない限り、永遠と魔物を生まれ続けます。これだけの大群を送り込んでいるんです。きっとこの大群の先に迷宮の入り口があるはずです。そこを崩して埋めるなりすれば──』
『これだけの数の魔物を倒しつつ、進軍すると言うのか!?』
俺の言葉に被せ、この状況をよく見ろ、と言わんばかりに、トヒノキが周囲を見回す様に首を回す。
周囲では膝をつき息も絶え絶えの魔樹人達もいる。
その姿を見て苦々しい顔をし、こちらに向き直し口を開いた。
『だが……確かに、そうするしか無いのかも知れないな……。情けないが、こちらも疲労が出てきてるようだ。これ以上長時間の戦闘はいつまで続けられるかわからない。降りてきたと言う事は、打開する為の何か考えがあるんだろう?』
『考えってほどでもないのですが……。ライアに防御を任せて、俺も攻撃に回ります。魔力貯めますので、その間だけ辛抱してもらえないかと……』
『何? 防御だけでなく攻撃もできるのか? それは頼もしい事だが、どのくらいの時間がかかりそうなのだ?』
『二分……いや、一分で良いです。その間に魔力を練り上げます』
『一分と言わず、五分だって持たせて見せよう! 聴いたか! ここが踏ん張りどころだぞ!!』
『『『『オオオォォォ!!』』』』
膝をついていた魔樹人達は立ち上がり、手に持った神樹の葉で出来た武器を頭上に掲げ、自らを鼓舞するかのように雄叫びをあげる。
水の効果か、初めは絡んできていた他の集落の魔樹人達も、非常に協力的になってくれている。
俺は、彼らを失いたくない。
「ライア頼んだぞ!」
「わかった。思いっきりやってこい!」
どん、と背中を叩かれ、送り出される。
《魔障壁》への魔力供給はライアに任せ、左手で《魔障壁》の形の維持を、右手で樹喰虫を打ち倒すための特大《局部破壊放電》の魔力を練り上げる。
右手の周囲には青白い雷光が迸り始める。
放電した電力を、丁寧に魔力と練り合わせていく。
右腕に溜まっていく電力は、不規則に地面を打ち付け、地面を焦がしていく。
目の前では魔樹人、ノーチェ、ニエヴェ、そしてライアがこの天災を打ち砕こうと必死になって戦っている。
残り、三十秒──。
引っ切り無しに攻めて来る樹喰虫は、《魔障壁》を打ち、その牙を我々に向けて来る。
殴り、叩き潰し、蹴り上げる。
各々が力の限りを尽くし、樹喰虫を屠っていく。
残り、十秒──。
右手に集まる雷の砲弾は、俺の背丈を優に超える大きさとなり、薄暗かった樹海をまるで昼間のように明るく照らす。
残り、五秒──。
「やっぱりお前、ただもんじゃねーな」
放電音で聴き取り辛かったが、誰かがそういった気がした。
残り、一秒──。
「さぁ、反撃開始だ! 《局部破壊放電》!!!」
世界が蒼白く、輝いた。




