122話 静電気と神樹⑦
──ガキィン!
硬質な金属と金属がぶつかり合うような音が、集落の入り口より響き渡る。
集落の入り口では、二十名程の魔樹人とノーチェ、ニエヴェが樹喰虫と相対していた。
俺は樹喰虫が数匹だけ入ってこられる《魔障壁》の穴を維持しつつも、樹上より戦況をじっと確認する。
最後尾が見えないほどの樹喰虫の大群が、この神樹のある集落を食い尽くそうと襲いかかっていた。
次々と襲い来る樹喰虫を魔障壁で受け止め、数匹ずつ順番に集落へ招き入れる。
招き入れられた樹喰虫は、待機していた魔樹人などに少数ずつ割り振られ、叩き潰され、斬り飛ばされ、串刺しにされ魔魂石だけとなって消えていく。
俺がこの樹喰虫戦で与えられている役目は、集落唯一の入り口である巨木の間に《魔障壁》を張り、そこに樹喰虫を通すことで一回の戦闘における最大数をコントロールする事だ。
俺の《魔障壁》には何十匹もの樹喰虫が張り付いて、顎で噛み付いたり口から酸を出して、何とか突破しようと攻撃をして来る。
天災と恐れられている要因の一端は、その数と無尽蔵の食欲と言える。
この樹喰虫の大群に飲まれれば、この集落はあっという間に陥落するだろう。
しかし、その大群を何とか押さえ込み、一対一の状況に持ち込む事ができるのであれば、全くやりようのない相手ではない。
樹喰虫の白い甲殻は金属の様に硬く、動きも素早い。さらにその強靭な顎は驚異的ではあるのだが、節がある虫である以上弱点も存在するのだ。
「くそ! こいつらめちゃくちゃ硬てぇ!! 《蹴刃》でも弾かれちまう!」
「ノーチェ! 関節を狙え!」
「わかった!!」
俺は樹上から、樹喰虫に苦戦をしているノーチェに声をかける。
昆虫系の魔物は、その大体の構造が、日本にいた頃と変わらない事が多い。
魔吸虫にしても、樹喰虫にしてもだ。
樹喰虫は、見た目だけはシロアリに酷似した魔物だ。
だがその構造は頭部に始まり、有翅体節、腹柄、腹部といくつもの節に分かれている。
本来のシロアリであるならば、こう言った節やくびれなどはなく、棒のような見た目なのだ。
つまり樹喰虫は、ゴキブリの仲間であるシロアリではなく、蜂の仲間、普通のクロアリに近い生き物だと思う。
そうであるならば、狙うところは首や胴、腹部の付け根といった関節部分だろう。
(こんなところで、中学校の自由研究が役に立つとは……。人生何があるかわからないな)
そんな事を考えながら《局部破壊放電》でノーチェを援護していると、下で奮闘している魔樹人が叫ぶ。
『でかいのが来るぞ!!!!』
ドガアアアァァアァァァン!!!!
衝撃を伴う強烈な手応えを感じ、《魔障壁》に若干の亀裂が入る。
下を見ると今までの樹喰虫の、数倍の大きさの個体が、城門を破るための攻城兵器である、破城槌のように、突撃しては潰れ、その命を代価にして着実に《魔障壁》を削っていく。
「くッ、キリがねーな! ベック! まだ減らねーのか!?」
「まだだ! 大群の切れ目すら見えてない!」
戦闘開始から一時間が経過したが、樹喰虫の勢いは以前衰えることはない。
樹上から隊列の最後尾を見ようとしたが、その最後尾が視界に入ることはなく、終わることのない戦いが、下で戦っている防衛隊の体力と精神力を削り取っていく。
「ベック、苦戦しているようだな」
背後より声を掛けられて振り向くと、ライアが土属性の魔法を使い、足場を組んで樹上まで登ってきていた。
「あぁ、なかなか樹喰虫が減らないんだ。このままだとこっちの体力が先につきちまう」
「お前の防御は耐えられそうなのか?」
「俺の方は大丈夫なんだがな」
「……」
「どうした? 黙り込んで」
「ベックよ、お前が一掃したらどうだ?」
ライアの提案に、一瞬だが可能かもしれないと考える。
しかしそれをするには一回魔障壁を解除し、魔力を貯めた上で攻撃を放つ必要がある以上、集落が無防備になってしまい、かなりの危険が伴ってしまう。
だが、このままではジリ貧なのも確かなのだ。
「防御は私が変わろうか。魔力を注ぎ続けるだけなら私でもできよう。形の制御だけは、お前みたいに器用に出来ないからな、そこだけはお願いしたいのだが、できるか?」
「……右を見ながら、左を見ろと? めちゃくちゃ難しいんだぞ」
「最近の訓練は、魔法の並列発動じゃないか。そろそろやってきたことを試して見てもいいんじゃないか?」
「よくご存知で……。じゃあ少しだけ時間をくれ。できるだけやって見るよ」
明日はお休みさせて頂きます。
家族全員インフルエンザの餌食に……。




