121話 静電気と神樹⑥
遅れてすいません。
『この神樹はの、ずーっと昔にワシの爺さんがこの地で見つけた樹だったんじゃ。初めはごく普通の、何処にでもある樹じゃったそうでの。当時、集落を樹喰虫に襲われての。なんとか逃げ延びた爺さんたちは、どうしてもこの樹が気になり、ここに集落を作ることにしたそうじゃ』
魔樹人の集落に樹喰虫という、天災級の魔物が近づいていると聞き、俺は協力を申し出た。
もう間も無く、樹喰はこの集落、神樹を求めて襲いかかって来るだろう。
集落の長であるキイカデは、まるで人生最後の日であるかのように、静かに語り始めた。
『この神樹の近くに集落を作ってからというもの、不思議なことに、この地には魔物が全く寄り付かなかった。爺さんは、限りなく成長していくこの樹が、周囲の魔力を吸い上げているから魔物が寄り付かないんだ、と言っておったらしいんじゃがの。詳しいことはワシにはわからんのじゃが、あながち間違いではなかったのかもしれないのぉ』
魔物は魔力が多いところに集まる習性があると、ライアに教えてもらった。
これは、魔力が多いところには、植物がよく育ち、その植物を目当てに動物が集まる。
さらにその動物を目当てに、もっと大型の動物が集まって来るのだ。
『じゃからの、しばらくは安定した生活が続いたんじゃ。もう知ってると思うが、ワシらは水分と魔力さえあれば生きていけるからの。じゃがの、ある日突然、森に雨が降らなくなったのじゃよ』
『と言うことは、それまで水分はどうしてたんですか?』
『唯一の水分と言えば、魔物の血じゃな。それで何とか飢えを凌いでおったんじゃ。しかしそれも、黒い霧になって魔物が消えるようになってからは、たまにしか手に入らなくなったからのぅ……』
『たまに……?』
『そうじゃ、たまに、じゃ。黒い霧が消えた後に残っている場合と、そもそも黒い霧にならずに死ぬ魔物が、この神樹の周囲にはちらほらといたんじゃよ』
『えっ!? 消えない魔物もいたんですか!?』
『む? 言ってなかったかの?』
『聞いてないですよ!』
ちょっと待てよ……。
それじゃあノーチェの予想が当たってるって事じゃねーか。
昨日のことを思い出す。
──『もしかしたらだけどよ、まだ迷宮化してない場所があるんじゃねぇか?」──
迷宮が生み出した魔物は、例え種族が違くてもお互い争わない事は幅広く知られている。
争わないどころか、冒険者を、獲物を、その胃袋の収めようと、互いに協力し合って襲いかかって来るのだ。
しかしこれは、あくまで、迷宮から生まれた魔物たちだけの話。
地上で自然に繁殖した魔物とは、小鬼と小鬼などの同じ種族であっても、敵対行動をすることが確認されている。
これは、迷宮が魔物を生みだす際、魔力の回収を至上の命令として、生みだすからであると言われている。
──「思い出してみろよ。亀吉を何で小鬼が攻撃してたんだ? 迷宮から生まれた魔物は互いに争わないだろ?」──
その時は確かにそうだなと思った。
ついさっき偵察してきた時もそうだ。そして確信した。
樹喰虫たちは周囲にいた小鬼や角蜘蛛には眼もくれずこちらに向かってきている。
小鬼も、角蜘蛛も樹喰虫も、迷宮が生み出した魔物なんだ。
この大陸の何処かにある迷宮核を、破壊しない限りはこの状況はずっと続くってことだ。
──「それによ、迷宮核には意思があるって最近わかったらしいんだよ。もし、本当に意思があるとして、魔力を必要とする迷宮が、魔力を吸い上げて巨大に成長する邪魔な奴がいたら、どうすると思うよ。そのせいで迷宮化できない場所があったら? そいつが弱ってきているとしたら? 俺っちが迷宮核だったらチャンスだと思うけどなぁ〜」──
──ミキミキミキ……
──……ドォオオォオォォン!!!!
遠くで樹が倒れる音が聞こえる。
『きたぞぉ!!!!!』
魔樹人の誰かが叫んだ。
「ベック!きたぞ!」
「わかった!」
《魔障壁》!!!
集落の入り口である巨木の間に、液体をペットボトルなどに詰め替える際に使う漏斗のような形で《魔障壁》を張る。
大量に押しかけて来る敵を、入り口を狭くする事で制限するための作戦だ。
『何と言う凄まじい魔力! やるなお前!!』
『水を出せるだけではなかったのか!』
『これで、飲み込まれる事なく、少数ずつ相手に出来る!』
『後は我ら次第ぞ! 力いれろお前ら!!!』
『『『『『おおおおおおおおお!!!!!』』』』』
「「「「「キシキシキシキシ!!!」」」」」
───キンッ!
──ガンッ!
──────ザンッ!
『押せぇ!!!絶対に通すな!!!!』
長い戦いが始まった。




