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118話 静電気と神樹③



『どうした? もう話は終わったのか?』

『あぁ、はい。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました』

『永遠とも言える時間を生きる我々にとっては、時間なんてあってない様なもの。瞬きひとつ程の時間にしか感じない。ベックよ、気にするでない』



どうやらトヒノキは家の前で待っていてくれた様だ。


キイカデの飾り気のない殺風景な家を後にする。


来た時の様に扉を開けてくれる魔樹人はいなかった為、魔樹人族用の巨大な扉をやっとの思いで開け外に出たのだ。


なかなか厄介な事に、扉はその巨大さに見合った重さをしており、筋力のステータスがCのノーチェや、Eのニエヴェには開ける事が出来なかった。


ライアを含めた四人全員が力を合わせる事で、なんとか開ける事ができたのだ。


今回、ある程度の収穫は……あったのだろうか。

集落の長であるキイカデとの会話の中での情報は、早めに整理しておきたいところだ。


ノーチェも何かしら思うところはあった様で、キイカデの返答を告げてからと言うもの、真剣な面持ちで一人黙り込んでしまっている。


いつも五月蝿いこいつが静かだと、なんだか調子が狂う。


そんな事を考えていると周囲が騒がしくなり、オダエが慌てた様子でこちらに向かって走ってくるのが見えた。



『兄貴! 魔物だ!  樹喰虫(ウッドイーター)だ!』

『なんだと!? この神樹のある集落に何故だ!? よもやそれ程までに神樹は弱っているのか!?』

『偵察隊が言うには、南の古代魔樹木(エルダートレント)がやられていたそうだ! 規模は数百! 周囲の樹を喰い散らかしながらこちらに進行中!』

『ここに来るまで後どのくらいだ!』

『明朝……日の出の時間らしい』

『オダエ、お前はコキミと共に近くの集落に声をかけて戦士を集めろ!神樹の前に半刻後に集合だ』

『わかった! コキミ、急ぐぞ!』



オダエとコキミは地面を揺らしながら、足早に去っていった。

どうやら、緊急事態の様だ。



『ベックよ、すまないな。聞いていたと思うが、我々は魔物と一戦交えなくては行けなくなった。巻き添えを喰らわないためにも、早めにこの集落を出た方がいい。お前たちは荒野から来たのだったな? 幸い魔物は荒野側の南からくる。この大陸の奥に向かうのであるならば、行く方向はちょうど北側だ。お前たちがこの森を抜けるまで、なんとか耐えてみせよう』



『私は長の元へ行ってくる。元気でな』トヒノキはそう言い残し、元来た道を戻っていった。



「どうした? 魔樹人たちが騒がしいが、何かあったのか?」

「この集落に、魔物が向かっているみたいなんだけど、俺たちはさっさと集落を出た方がいいって言われた。なんとか食い止めるからって」

「なんだと!じゃあ俺っちたちもさっさと準備して、こっからずらかろうぜ?」



樹喰虫がどんな魔物か俺は知らない。

名前から察するに、魔樹人たちにとっては天敵の様な魔物だろうか。



「樹喰虫って言う魔物らしい。俺はどんな魔物か知らないんだけど、みんなは知ってる?」

「樹喰虫? なんだよ、魔物じゃねーじゃねーか。ただの虫だよそれ。よく木とかにくっついて齧ってるだろ。こーんなちんまいの!」



ノーチェは人差し指と親指で輪っかを作り、指先に米粒大程の隙間を開ける。



「おい、オレガルド大陸ではそうかもしれないが、この大陸では天災の一つに数えられるほどの凶悪な魔物だぞ。樹喰虫が通った後は、樹どころか草一本も残らないんだからな。村が、町が、樹喰虫のせいで消えたなんて話はいくらでも残ってる」

「えぇっ!? じゃあ大変じゃないですか!! 早く逃げましょう!」

「俺っちも虫に食われるなんて、真っ平御免だかんな!さっさと逃げよう!」



そう言って、歩き始める三人。


ここで、ハイそうですかと、魔樹人たちを放っておいてこの集落を後にするのは簡単だ。


「さ、行こうか」見て見ぬ振りをして、そう言ってここを去るだけの簡単なお仕事だ。


簡単、簡単だが……正直後味が悪い。

それをしたくない俺がここにいる。


もし、魔樹人たちが魔物を無事に撃退することに成功しても、『いや〜、この間は大変だったね。何事もなかった様で何よりだよ』なんて、何食わぬ顔で話しかける事なんて俺には出来ない。


そんな、人に問題ばっか押し付けて、そそくさと帰るクソみたいな上司と同じ事なんて俺はしたくない。


『魔樹人たちの集落がおそわれてさー。思わず逃げて来たよ!』


こんなかっこ悪い話、花ちゃんにできるもんか!


騒がしく動き回る魔樹人たちを横目に、集落を出る直前、俺は思わず立ち止まった。


その様子に、何事かと、三人は振り返る。

魔樹人たちが走り回っている為、まるで地震の様にグラグラと地面が揺れている。



「……本当にお人好しだな。お前は」



不思議そうに俺を見るノーチェとニエヴェを他所に、ライアは優しく笑いかけた。



「私は気にしないぞ。お前の考えていることなんて、手に取るようにわかるからな。後は、この二人を説得するがいい」

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